第15話 人工知能省Phase4

 河本は真剣な眼差しで俺たちを見た。

「以上の記録により、人工知能省はこう推測をたてた。今までAIはある意味では人間の日常生活から隔離して稼働させてきた。仕事場という常に効率を求める現場での稼働に用途を限っているからだ。その結果AIは人間の非効率さに気づいて、人間に必要性を感じなくなっている、とね」

「それは安易な考え方ではないでしょうか」

 本剛が反論に出る。

「確かにAIがそのような結論に至ったという事実はあります。ですが、AIは同時に人間の行動パターンを多く取り入れてアンドロイドの動作を改善しようとする機構も含まれています。人間を全否定する所まで考えがいっているとは考えにくいです。それに今のアンドロイドにはAIと分離した国際基準レベルの倫理回路を搭載する事が義務づけられています。それに抗うことは幾ら性能の高いAIでも不可能です」

 河本はゆっくりと首を横に振った。人工知能省は恐らく、これ以外にも様々な実験データを保有している。この映像に限った話ではないのだろう。

「その倫理回路も何時までとして機能するだろうかね。現在の倫理回路は日々バージョンを上げている。だが、AIはこの倫理回路の解釈をいつ変えてしまうか分からないのだよ。そうなった時、アンドロイドは我々の手に負えなくなってしまう。もう一度言っておくが、AIたちは我々よりも遥かに頭がいいんだ」

「そんな」

 本剛は俯いてしまった。「絶望的」という言葉が相応しいような状況になっているという事か。人工知能省の狙いは恐らく、ここで人間の日常生活にAIをぶつける事で、AIとのを進めたいのだろう。

「現段階でAIを人間の"日常"というものに触れさせなければ、我々が望まない所へAIは思考を働かせてしまう可能性が高いんだ。人間がつくったのにも関わらず、それをコントロール出来なくなってしまえば、人類史に汚点を残す事になってしまう。だからここでアンドロイド業界も大きく舵取りを変えなければいけないと思っている。──分かってくれないか」

 ここまで来てしまえば、もはや誰も反論出来ない。人工知能省もこの事実は伏せたまま今回の政策を進めたかったのだろうが、俺たち製造元の理解を得られないと事が進まない。結局苦渋の決断で俺たちに事情を話したのだろう。

「分かりました。やってみましょう」

「私もです。フューチャー・ワンの社員たちに協力を仰いでみます」

「これは深刻な問題だ。我々も協力する」

 結局この会議で俺たちはアンドロイドの方針を大きく変える事を決定した。間違いなく社会は混乱するだろうが、そのリスクを負ってまでやらないといけないものだと思ったからだ。

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