一年生 二月第四週目 その3

リン……リン……リン……


 


「なあ、もしストーカー犯来たらお前首もとチョップで寝かして逮捕とか出来るのか?」


 


「は?無理だろ?」


 


こいつがラノベ主人公ならもしかしたら、出来るのかもしれない。


そんな一抹の願いを込めて小田に質問をしたが一蹴されてしまった。


 


リン……リン……リン……


 


「しかし、毎度思うが徒歩で帰るには距離があるよな。相模達の家の前通って俺らのアパートの脇を抜けて……。40分ぐらい歩くのかこれ?」


 


この街は意外と都会である。


バスは普通に通ってるし、大きい駅からも近い。


つまり、バスで行けば早いもしくは自転車でもいいが、この距離を毎日歩くとなると少々骨が折れる。


 


「まあ、ダイエットか何かなのか?」


 


 


リン……リン……リンリンリンリン


 


「来た!」


 


俺らは合図だった鈴の音を聞くと裾野の近くに全速力で近寄り、怪しい人物がいないかすぐさま見回した。


 


「ちくしょう、いねえな。」


 


「逃げられたか……。」


 


周りは誰もいない住宅街の路地。


人が一人でも入れば見つけられるはずだ。


「あの……、私の家もうここなんで……あれ?相模くんは?」


 


「あ?アイツなら急用で帰ったよ。」


 


「そう…ですか。ありがとうございました……。」


 


相模がいないとわかるや自慢の卑屈も無しに素っ気なく自分の家に入っていった。


 


「何だよ俺らじゃ不満なのかよ。」


 


「……そうだな。原、意外とこの事件簡単なのかも知れないぞ?」


 


「あ?どういうことだ?」


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


裾野のスマホからラインの受信音が鳴る。


何だろう?スマホの画面を見るとそこには「相模くん」の文字が写る。


「今から会えるか?○○公園まで来てくれ。」


裾野は二つ返事でOKすると、部屋着から精一杯のおしゃれをして家から飛び出す。


相模くんが私に会ってくれる……。


あと少しで公園だ……。


 


「騙して悪かったな。」


そこに立っていたのは愛しの相模の友人二人だった。


 


 


 


 


 


 


 


小田の冷静な声に裾野がびくりとする。


 


「相模はいねえよ。」


 


「え……なんで?」


 


「これからの話に邪魔だから。ラインはこいつが相模のスマホパクって弄ってお前が出た後にメッセージ削除しといたから見られねえ……と思う。」


 


「パクるとは語弊があるな。拝借しただけだ。」


 


そういうと小田の横に小さい竜巻が起き、その中から伊賀が出てきた。


 


「何でアヤノちゃんまで……」


 


「ま、俺らがそのあとイタズラメッセージ送ったからお前の履歴は下に言ってるさ。さて、呼んだ意味わかるよな?」


 


「な……何で?」


 


裾野は緊迫した面持ちで小田を睨む。


 


「今から話すのは全部妄想だ。今回のストーカー騒ぎはお前が一人でやってたことだ。」


 


「え?何言ってるの?」


 


裾野の動揺に小田が間髪入れずに答えた。


 


「まず、俺らはストーカーを見ていない。そしてこの事件知ってるのは俺らとアヤノちゃんだけ。流石に四人が見てたらストーカーの存在ぐらいは確認できるだろ。」


 


一呼吸小田がすると、つらつらと今回の事件について語った。


 


「裾野は相模の事が好きだ。自分を見て欲しい。そう思っていた。学校では常に誰かといる。そこに割ってはいる度胸はない。そうなると、登下校。運良くお前の家と学校への道の間には相模の家がある。登下校中だけでも、一緒にいたい。だが、相模はリカちゃんと登下校を一緒にしている。リカちゃんが邪魔だ。だから、お前はストーカーをでっち上げて正義感の強い相模に自分の方に来させ、リカちゃんと離れるようにしたんだ。そして、あわよくば今回の騒動を適当な所で済ませ一緒に帰ろうとしたのさ。」


 


「そんな妄想……」


 


「それにさっき鈴持たして歩かせたが、誰か追ってきているのに鈴の音の間隔が短くなったり、おかしくなったりしなかった。襲われそうになふ位ならもう少し音変わると思うぜ?」


 


「ま、ついでにアヤノちゃんが夜見張りをしていたらお前が一人でコンビニ行くのを見たらしいぜ。『襲われるかも知れないから怖い』んじゃないのか?今も一人で夜に公園へ来ている。本当に怖いならこんな要求飲めねえよな?」


 


「……。」


 


裾野は何も返答しない。


小田は悲しそうな顔をした。


 


「お前は夜中まで見張りをしてくれた友達を裏切って自分の浅はかな計画をしてたのさ。」


 


「何で、そんな見てきたように全部当てれるの?」


 


裾野がやっとの思いで絞り出すように声を出し質問をした。


 


「さあな。ただの妄想だ。」


 


 


「でも、今の妄想が本当なら謝る奴が一人いるんじゃねえのか?それでこんなみみっちい真似やめて素直にアタックした方がいいと思うけどな。」


 


小田はそういって公園を後にする。俺もそれについていく。


そうすると、後ろから泣き声が聞こえてきた。


 


 


 


 


 


 


 


 


「なあ、裾野は何でアヤノにストーカーどうこうの事を言ったんだ?」


 


「ちょうど良かったのさ。アヤノに相談することによって『マジで困ってるけど極秘にしたい感』が出るだろ?それにバレンタインの時、アヤノは相模にチョコを渡してない。それで『こいつは安全だ。』と思ったんだろう?予想外にアヤノが誠実で今回は失敗したが。」


 


「なるほど……でも今回の事全部本当に妄想なのに何であいつ白状したんだ?」


 


「そうだ普通なら全て妄想だ。ここまで上手く行くとは正直思わなかった。裾野が「根は善人」っていうヒロインの掟を守ってる性格で良かったぜ。あと、思い出したんだよ。こんな話があったのを。」


 


「へ?お前こんな話シナリオに無かったとか言ってたじゃん。」


 


「あぁ、ゲームにはな。でも、このゲームたくさんメディアミックスされている。」


 


「おう。」


 


「その中の出版されてた公式アンソロジー全5巻の内の1話にこんな話があったんだよ。いや、正確には『自分ででっち上げた嘘に裾野がハマっていく。』ってギャグ回があったんだよ。ゲーム本編じゃないからすっかり忘れてたぜ。」


 


「?これはあくまでゲームの中の世界だろ?漫画とか関係ないんじゃ……」


 


「いや、今回の事で分かったよ。ゲームの派生でも、公式なら何でもこの世界に取り込まれるんだ。そして、いい方向にも悪い方向にも変換される。」


 


 


 


 


 


 


 


 


 


翌日…


 


「伊賀の奴が『私がストーカーを成敗したからもう大丈夫だ』とか言ってたぜ。」


 


相模は伊賀からそんな内容で昨日の事を聞いたらしく心底安心したように胸を撫で下ろしていた。


 


どこまでもお人好しで、どこまでも鈍感なやつだ。


 


 


 


「ま、あんな話相模の前では出来ねえよなぁ。」


 


昼休み


また、相模がヒロインに酷い目に合わされてるのか教室にいないので俺と小田は二人で昨日の話をしていた。


 


「そうだな。ま、裾野もアヤノも仲良さそうに話してるのさっき見たし、これで良かったんじゃないか?」


 


俺が楽観的にそんなことを言うと、小田は悲しそうな顔でぼそりと呟いた。


 


「今まで俺が選ばれなかったヒロインはあそこまで歪んでるのかもしれねえな……。」


 


「だな。だからお前はあんな奴絶対生み出しちゃいけないぞ。」


 


「……分かってるよ。さてと……セリカちゃーーん!!」


 


小田の叫び声にセリカは顔を赤らめてびくりとする。


 


……やっぱりあいつセリカの気持ち気付いてんじゃねえか。


 


 


 


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