一年生 二月第一週目  その4

「花園のSP抑えるの大変だったんだぜ?」


 


そういうと、目の前の裏ヒロインの一人教師の秦野ユリがすぱーっとタバコの煙を一吹きした。


 


「はぁ……。」


 


「何だよ叫びすぎて声ガラガラじゃねえか。」


 


「そうなんですよ……喋るのキツいんでそろそろ帰っていいですか?」


 


「んなわけねえだろ。」


 


「ですよね。」


 


「で、一応さっきお前が落ち着くまで二時間ほどこの部屋放置したけど、その間に他の奴らから事情聞いたぜ。」


 


「……」


 


「結局は『最初相模がキレてたけど、甲斐に止められ怒鳴るのをやめたところで花園が追い討ち、それに小田がキレた』と」


 


「これでいいんだな?」


 


「そうですよ。もういいでしょ。勝手に俺が怒鳴っただけだからそれで終わりですよ。金持ちにキレたんだ、退学でもなんでも受けますよ。」


 


「お前はそれでいいのか?」


 


「は?」


 


「他の生徒だと、『俺が怒鳴ったのはあいつのせいだから俺が怒られるのはおかしい!』とか言うだろ?」


 


「そうなんすか?」


 


「つくづくおかしな奴だお前は。ひねくれてるな。」


 


そういうと、タバコを灰皿に潰し箱から新たなタバコに火をつける。


 


「そうですか?真っ直ぐだと俺は思いますよ?」


 


「冗談はつまらないがな。」


 


秦野先生はくくくと笑うと、鞄からプリントを数枚、胸ポケットから長細い機器を出した。


 


「今回の事、実は私が教室に仕込んでいた盗聴マイクに全て入っていた。さっき緊急の会議で他の教師に聴かせたら焦ってたぜ。全員金持ちにビビってんだな。」


 


「……」


 


「あれ?盗聴マイクの事気になんないのか?」


 


ああそうか。俺はゲームで知ってたけど普通はあり得ない事なんだ。


 


「そんな人だろうと思ってました。」


 


「つまらん奴だ。」


 


秦野先生はタバコを灰皿に潰し、缶コーヒーを一気に飲み干すと話を続けた。


 


「それでこれを相手方に報告したら、『娘がお恥ずかしい事をした。』って揉み消す所か普通に聞き入れてくれたよ。」


 


当たり前だ。何せゲームで花園の父親は娘に興味がないという事は知っていた。そして、こういう騒動を娘が成長するためのストーリーとして仕立てあげるのも知っていた。だから、喧嘩をしたのである。だから、親の話に持っていくようにしたのだ。


あれは本音だ。俺の世界ではもう俺は死んでいる。もう二度と親とは会えない。それが寂しい。だから親を知らないあいつが言い返せない話題に持っていき、何も言わせないという作戦だった。


 


そして、俺は今まで詰まっていた物が全部吐けてスッキリしていたのだ。


 


「だからお前は明日一日だけ謹慎しろ。騒ぎを起こしたのは確かだからな。」


 


「花園は?」


 


「気になるのか?今週一杯の謹慎だ。」


 


「良かった~」


 


「お前は本当に面白い人間だ。」


先生がまたくくくと笑う。


 


「あと原が言ってたぞ。『あいつを退学させるならその次にぶん殴ってやろうとしてた俺も同じ処分にしろ。』って。」


 


「相模は『ならまず喧嘩吹っ掛けた俺が』とか二人で退学の取り合いをしてたな。」


 


「最後に甲斐は『私と仲良くしてくれたのが相模や原とあなたで良かった。』って」


 


「先生。」


 


「どうした?」


 


「おっぱいを貸して下さい。」


 


「それを言うなら胸を貸してくれだ馬鹿者。」


 


そういうと先生は俺を怒った後の優しい親のように抱き締めてくれた。


 


俺は枯れている声を精一杯出して赤子のように泣いた。


この世界に来ていい物がたくさん出来た。本当にこの世界に来て良かった。


 


「本当の君泣き虫何だな。良かったな君にはたくさんの仲間がいるよ。」


 


「先生」


 


「どうした?」


 


「タバコ臭いです。」


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


「サーサースサース。」


 


「声掠れすぎて何言ってるのかわかんねえよ。」


 


事件から翌々日。小田が何事もなかったように登校してきた。


 


「ま、先生から一日謹慎なのは聞いてたから心配しなかったけどな。」


 


「だね。」


 


相模とアサヒがニカッと笑い会う。


 


「サースサースサーサー。」


 


「だから何言ってるのか分かんねえよ。」


 


「あ、セリカちゃん。小田君いるよ!」


今日も元気一杯のリカちゃんが今日もツン無しセリカちゃんを小田の所まで連れていく。


 


「セリカちゃん、お礼言うんでしょ?」


 


「小田あのね。こないだ………」


 


セリカちゃんがお礼を言おうと小田を見た瞬間ふいと顔を背けてしまった。


 


「あ、ありがとう……それだけ!」


 


そういうと廊下に駆け出してしまった。


おいおいちょっと待て。俺はセリカを追いかけた。


 


「サスサスサースサーサース!?」


 


「え?なんて?」


 


 


 


 


 


 


 


 


「おいセリカ!流石にあれはないだろ!」


 


俺はセリカに追い付き手を掴み振り返らせた。


 


「お前顔真っ赤………」


 


「どうしよう原……」


 


セリカはその場でへにゃりと座り込んでしまう。


 


「私小田の事好きになっちゃったかも……………」


 


 

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