一年生 二月第一週目 その2
翌朝
「おはよーっす。」
教室に入るといつものようにアサヒが自分の席からひょこひょこと俺の前まで走ってきて、胸を張る。
「ししょー!おはようございます!!昨日はありがとうございました!!小田君おはよう!」
俺が挨拶を返すよりも早く、小田がにやけ面でアサヒに声でかめの耳打ちをした。
「おはようアサヒ。原とまたあそこに行って腰使って汗流して最後はシャワーか?」
「腰?小田君。あれは実は腹筋の方が重要なんだぜ!腰使うのは半人前さ!」
アサヒは意味がわからずばか正直に、昨日使った腹筋マシーンの話で返す。
「?………えぇ!?もしかして原君とアサヒ君って………。しかもアレって、腰じゃないんだ……。でも二人は男同士だし……」
「リカ。今は色んな人が自由に生きれる時代だよ。俺らがとやかく言える問題じゃないんだ。心から祝福してやろうよ。」
リカちゃんの言葉を遮るように、小田に悪乗りしてきた相模がこれまたにやけ面でほざいていた。
「そっか、なるほど………。二人共どんな事したのか今度詳しく教えてね。」
「いや違うからねリカちゃん。」
「照れんなよ原~。」
「ほんとの事言えよ原~。」
腹立つにやけ面で相模と原が肩に手を置きにやけ面を近づけてきた。
腹が立ったのでその場で二人に頭突きする。
「いってえ!?」
「鼻筋入ったあ!?」
二人はその場でしゃがみこみデコを押さえる。
そこに俺は追撃を……、出来なかった。
「ぎゃあああああ!!」
「原君が一番痛がってるじゃん!」
流石に二人に思いっきり頭突きは痛かった。
「はぁ、はぁはぁ、間に合った……。」
まだ席にすら座らずにドアの真ん前でこんな馬鹿繰り返してる俺らの後ろからセリカの苦しそうな声が聞こえた。
「おはようセリカちゃん。今日もかわいいね。」
「おはよう、相模、原、リカ、八王子。」
「あれ俺無視!?」
リカバリーが早かった小田の鬱陶しい挨拶を突っぱね、セリカは息が上がりながら挨拶してきた。
「おはよ、セリカ。遅かったな?」
「うん。朝からb」
セリカが何か言おうとした瞬間、外からバリバリと爆音が鳴り響く。
あぁ、また騒動ガールが来るのか。
小田の顔がイラついた顔に変わった。
やっぱり花園が嫌いだ。俺はそう確信した。
ゲームじゃなく現実の人間として接すれば少しは考えが変わるかと思ったが無理だった。
中休みの度に大勢の人間にメイクと服を直させてるのが腹立つ。体育の授業は汚れるからと、校庭の端でマットを引きティータイムをし始めるのが腹立つ。金持ちをひけらかす発言を随所随所に入れるのが腹立つ。その、外した金持ち描写が逐一腹立つ。
昨日までは花園に興味無さそうだった、原と相模もイライラしてる。
相模がイラつくのは、そういう独白もゲームの中であったので知っていた。
原はやはり俺と同じ世界の人間、こういう感性は同じなのだろう。
とにかく俺らのイライラは貧乏揺すりとして、度合いが分かるようになっていた。
昼休み――
「相模!原!小田!」
原と相模と三人でいつもよりもピリピリとしたランチタイムを過ごしていると、今やすっかりツンを納めたセリカちゃんが弁当箱を持ってきた。
「ちゃんとリカにご飯の作り方を教わって、味見もして、朝作って来たの!今回は自信作よ!食べて……くれる?」
そのキュンと来る仕草に俺らのイライラはどこかに飛んでいった。
リカちゃんの方を見るとこちらに小さくウィンクしてきた。なるほどこういうヒロイン間の繋がりもあるのか。何だか新鮮だ。
「おお!楽しみにしてたぞ!」
相模が弁当箱を開け、卵焼きに右手を伸ばした。
「うわあ…楽しみだなぁ……。」
俺はリベンジでタコさんウインナーに右手を伸ばした。
「まあ、改善してきたなら……。」
原は渋々、肉団子につまようじを指した。
「「「いただきまーす。」」」
「こ、これは……!?」
「普通だ……。」
「うん。よく頑張ったな。セリカ。」
相模は嬉しそうに笑うセリカの頭を左手で撫でていた。
なんだあれずりぃ!?俺もやりたい!!
「あら皆様。何をしてらして?」
セリカが喜んでる姿を見て俺が、少しはきつい思いをした甲斐があったなと思っていると、今この場で聞きたくない声が聞こえてきた。
小田が顔を背けている。
「よう、花園か。今セリカが作ってくれた弁当を食ってるんだ。」
相模が気を効かせて答えてくれる。
そうすると、花園はヒロインとは思えない発言をした。
「あら?それお弁当でしたの?てっきりゴミかと……いえ失礼しました。」
「は?」
相模が、キレた。
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