第1話

(――月――涼月――目覚めるのです――)

「……んあ?」

 涼月・ディートリヒ・シュルツが目を覚ますと、そこは不思議な場所だった。

 辺り一面、何も見えない漆黒の暗闇。しかしなぜか、自身の姿はハッキリと見えている。加えて、地に足がついていないような、それでいて浮遊感もなく奇妙な感覚。

 確か試験に備えて、徹夜で勉強をしていたはずだ。ベッドへ入った記憶がないので、そのまま寝落ちしてしまったのだろう。とすると、コレは夢か。

(いいえ。夢ではありません)

「誰だッ! どこにいやがる!」

 涼月は周囲を見まわすが、やはり暗闇がどこまでも――と言っても距離感はまったくつかめないのだが――広がっているだけだ。自分以外には誰もいない。

(涼月。今、あなたの心に直接語りかけています)

 やはり声が聞こえる。どうやら幻聴ではないらしい。

「……あんた、何者だ? あたしをここへ連れてきたのもあんたか?」

(ここは世界のはざま。私はあなたたち人間が呼ぶところの神です。あなたの願いを聞き届けて、降臨したというわけです)

「えっ? 願いごと叶えてくれるのか? マジ? 何でもいいの?」

 神の言葉を聞いて舞い上がった涼月は、瞬時に思考を巡らせた。カネ? バストアップ? それとも煙草一生分? 最近さらに税金高くなってきたんだよなぁー。

(ええ。ですから、すでにあなたの願いは聞き届けられました)

「……なんだって? ちょっと待て。その願いってのは――」

(お忘れですか? くりかえし口にしていたでしょう?)

 やはりその姿は見えなかったが、それでも涼月には、神と名乗るヤツが満面の笑みを浮かべている気がした。

(――なんか世界とか救いたい、何度もそう言っていたではありませんか。なので、あなたには異世界を救わせてさしあげます)

 涼月は仰天した。「いやいやいや! それはなんつーか言葉の綾っつーか!」

(でも近ごろの若者は、異世界へ行って救世主になりたいものなのでしょう?)

「いつの時代の話だそれ!」

(とにかく願いはすでに聞き届けられました。というかぶっちゃけ、あなたに救ってもらうため異世界に災いをもたらしたので、今さら嫌と言われても困るのです)

「おおぉい! ふざけんなよマジでっ!」

(ご心配なく。何の加護も与えず異世界へ放り出すような真似はしません。こちらをどうぞ)

 目の前の暗闇から何かが現れ、涼月の手のひらに落ちた。

(聖なるメリケンサックです)

「いやそこは聖剣だろフツー!?」

(剣などよりそちらのほうが、あなたは使い慣れているでしょう? ちゃんと二個にしておきましたよ)

「まあそれはそうだけど……こんなのでどうやって魔王を倒せっていうんだよ……」

(おやおや、なんだかんだでやる気マンマンではありませんか。すっかり魔王と戦うつもりとは)

「うるせえ。こうなったら魔王でも何でもかかってこいってんだ。とっととかたづけて、もとの世界に帰してもらうぜ」

(その意気です。とはいえ、あなたに解決してもらう災いとは、魔王ではないのですが)

「はぁ?」

(二次創作とはいえ、仮にも冲方作品ですよ? 魔王を倒せばハイ終わりなんて、そんな単純な物語のわけがないでしょう?)

 何をわけにわからないことを――そう問いかけたとたん、涼月の身体は暗闇に呑み込まれた。

(いってらっしゃい。よい旅路を――)

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