三十、決断
中古の軽自動車を安く手に入れることができた。それで通学し始めると時間に融通がきくようになった。
しかし、空いた時間を業務に振り向けようにも仕事はなかった。あっても姉が動けば間に合ってしまう。
冷房の効きの悪い車内で、健一は協会の教育について考えている。一番最近届いた手紙は捨てずにとってある。
教育を受けると言っても費用はかからない。むしろ、健一の検査結果であればいくらか手当が出るほどだった。期間はまず一ヶ月。そこでさらに細かく適性を見て、以降の教育課程が決められるとのことだった。そして、協会員となれば基礎給与と、業務に応じて加算が発生する。
だが、いい点ばかりではない。協会員になるには歳を取りすぎている。ほぼ二十歳前に訓練を開始し、一年ほどで協会員になり、使い物になるようになるのが二十半ばから後半としても、十歳前から活動している者には大きく差をつけられることになる。また、子供の頃から始めた者は成長が早い。後から入った者にもかなわなくなるだろう。
それでも協会が健一を欲しがるのは単に頭数が必要だからだ。
つまり、協会に入ってしまえば、ただの一兵になり、自分の考えで自分の仕事ができる可能性はほぼ無くなる。
どうする? そういったことをすべて飲み込むか、ここでもうちょっと踏ん張ってみるか。でも、考えすぎて歳を取ってしまうともっと不利になる。時間の余裕はない。決断はいつも急かされる。
父母と姉はすでに決断を済ませていた。体調の良くなった父が事務全般を仕切り、母と姉は別の仕事を探して勤めている。早乙女有害遺物浄化サービスは月に二、三件の仕事があるかどうかという状況だった。
決めよう。決めなきゃ。考えていても好転することはない。
家につき、車を降りる前に、協会に情報請求を行った。送信ボタンを押すと、健一の決断がネットに乗って発信された。
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