第55話 恩を仇で返す

  それは、おとぎ話だった。

 鰐にいじめられていた兎を、ある青年が

 助けた。

 

 恩を感じた兎は、その青年を海の中へ案内

 する。青年が到着したのは、海底にある

 ドラゴンズパレスと呼ばれる宮殿。

 

 そこで、ルールサスと呼ばれる姫と、多く

 の美女に出迎えられた。青年が今まで

 見たこともないような豪華な寝室。

 

 青年は、夢のような月日をルールサス姫と

 美女たち過ごす。連日の歌や踊り。それは、

 永遠に続くかと思われた。

 

 しかし、ある日青年は夢を見る。それは、

 昔別れた恋人の夢だった。その恋人を

 探し、知っているのと少し違う街を彷徨う。

 

 けっきょく恋人は見つからないのだが、

 同じ夢を毎夜見るうちに、青年は、もと

 いた街に帰りたい気持ちが強くなる。

 

 ある日そのことをルールサス姫に告げた。

 

「では、土産にこの箱をあげましょう。

 どうぞ中をご覧になって」

 

 そう言われ、青年は箱を開ける。中から

 煙が噴き出し、辺りが見えなくなる。

 煙が消え去ったとき、そこに、ルールサス

 姫と、そして別の姫が居た。

 

 その後、兎が新たに訪問者を連れてくる。

 新たなルールサス姫が、その男性を

 出迎えた。

 

  金剛石の4人が、大きく伸びをして、

 会場を出て行く。

 

「つまりそういうことだよ、帰ると言い出した

 青年を、性転換して宮殿に残させた」

 ヤーゴ・アルマグロが解説する。

 

「だから、箱から出てきた煙が消えたあとに

 出てきた女性も、モモ・テオだったわけだ」

 

「おう恐い」とワルター・テデスコ。

 

「とすると、あの宮殿にいた美女全てが

 そういうことなのか?」

 とオンドレイ・ズラタノフが聞くと、

 

「今んとこそういう解釈が一般的だな」

 ヴァイ・フォウが替わりに答える。

 

  そして、いつものごとくモモ・テオ一派

 を待ち受ける。

 

 そこは、中間都市曼陀羅型9999番から

 一番近い、キューブ型都市の中にある劇場

 だった。

 

 劇場を出ると、向こうに金色に輝くテルオリ

 神の像が見える。高さ30メートルの像を

 上から見下ろす形だ。

 

 大きく両手を広げた姿。しかし、その着て

 いるものが明らかに部屋着に見えるので、

 今も論争が続いていた。

 

 そこに、モモ・テオ一派の三人が出てきた。

 3人とも、太ももあたりが太く、裾部分が

 細くなった青い生地のズボンを履いている。

 

 その生地は、全体的に白くまだらに色落ち

 していた。そして、左からイレイア・オター

 ニョ、モモ・テオ、マティルデ・カンカイ

 ネンの順で並んでやってくるのだが、

 

 イレイアは青、モモ・テオは白、マティルデ

 は赤の、それぞれダボっとした長袖丸首の

 シャツを着ている。

 

「俺たちは金剛石だ!」

 

 だから知ってるって、と小さくモモ・テオが

 答えて、3人と4人が対峙する。

 

 だが、ふだんいるビャッコブロックと違い、

 ここは無重力だ。曼陀羅型9999番の

 無重力ブロックで多少練習はしてきたの

 だが、やはり勝手が違う。

 

 少し開けた場所だからというのもあるだろう

 か、突き飛ばされると、その飛ばされた

 先にあるものを蹴って戻ってくるか、泳ぐ

 かしないといけない。

 

 それが、どうにももどかしかった。なんと

 いうか、もう決定打どころではない。

 一撃も与えられそうにない。

 

 ヴァイ・フォウが頃合いと見て、

「おまえらなあ、もっと見た目気にしたほう

 がいいぞ! ナウなヤングか?」

 

 との言葉に、3人が大きく動揺する。

 それを見て、

 

「今だ、ずらかるぞ!」

 金剛石の4人が慣れない無重力空間を跳ねた

 り泳いだりしながら逃げていく。

 

 そして、その様子を見守る8人の黒い影。

 

 

  後日、金剛石の4人が向かったのが、

 螺旋型と呼ばれる構造都市、そこで、

 モモ・テオ一派の公演があった。

 

 そこまでの移動方法である。中間都市には、

 リニアモーターケーブルというものがある。

 全長1億キロ。

 

 太陽系の地球の公転半径の、だいたい3分の

 2の長さだ。そして、曼陀羅型9999番は、

 半獣半人座星系よりの端にある。

 

 一方螺旋型都市は、リニアモーターケーブル

 の丁度中央に位置する。そのため、5千万

 キロを丸一日かけて移動することになるのだ。

 

 リニアモーターケーブルの中央に近づくと、

 ケーブルから離脱し、螺旋型都市のある

 方向へ航行する。今回は大型のシャトル。

 

 距離数千キロの段階で、その大きさが掴める。

 直径1000キロ、長さ2000キロ。

 大型シャトルが、その螺旋構造の中心部

 へ進んでいく。

 

 螺旋構造は、その内側で何重にもなっていた。

 

  宇宙港に着いた金剛石の4人は、小型の

 シャトルに乗り換えて、劇場へ向かう。

 劇場に着いた4人は、シャトルを降りる。

 

 そう、4人は、宇宙空間へそのまま降りる。

 宇宙スーツと薄型の宇宙ヘルメットを

 装着し、背中に背負ったブースターで

 移動する。

 

 この螺旋型都市では、人々は宇宙空間の

 家に住む。家を出ると、もう宇宙なのだ。

 

 劇場も、宇宙空間の中に設置されている。

 役者の衣装も宇宙スーツの機能を有している。

 

 観客用のフレームが劇場を覆うように

 設置されて、そこに掴って観る。接触通信

 で演劇の音声が聞けるが、無線の音声も

 提供されている。

 

  演目は、先日の兎の恩返しの、男女を

 逆にしたパターンだった。気密空間のと同様、

 派手な演出であったが、今回は4人とも宇宙

 スーツで気密外にでるのが初めてだったため、

 あまりそれどころではなかった。

 

 今回は、思想的活動は無しで帰ろう。この

 状況ではどんなに弱い相手であろうと戦える

 気がしなかった。

 

 ヴァイ・フォウの提案に、3人が同意する。

 まあ、こういうものを見ることができた

 だけでもいい経験だ。

 

 自分たちがやっているのとまったく異なる

 生活が、実際に存在することが確認できた。

 

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