第22話 洗脳魔法。そして、本当のレミリーはーー。 ー1

 蓮斗は秀治と川崎の元へ駆け寄ると、二人の脈を確かめるために首に手を当てた。二人とも脈は正常に動いていて、蓮斗はホッとした。蓮斗は二人の意識や傷を回復させるため、魔法を行使する。

「"フレキシブルヒール"」

 蓮斗が魔法名を呟くと二人のいる地面に黄色の魔法陣が出現する。出現した魔法陣は徐々に光を増していく。その光は二人を優しく包み込む。やがて、その光は徐々に薄くなり、魔法陣とともに消滅した。

(これで目を覚ましてくれればいいんだけど……)

 俺は不安になりながらも二人が起きるのを待つ。俺の魔法は拙く、粗雑なものだ。自分でもそれは理解している。魔法は正確により緻密に組むと、威力や効果範囲が上昇するらしい。今の魔法も正確さ、緻密さで言えば多分一般の魔術師よりも劣るだろう。それ故に心配なのだ。もし魔法が成功しなかったら……。それを考えただけで、俺の中で不安が膨れ上がっていく。

 暫くそうしていると、

「うぅん……」

「うっ……」

 川崎と秀治が目を覚ました。その瞬間俺の中にあった不安が一気に払拭され、心の中に温かさが戻った。

「秀治……! 川崎……! 無事でよかった……!」

俺はあまりの嬉しさに思わず涙を流してしまいそうになったが、やるべきことがまだ残っているのでなんとかこらえる。

「……蓮斗。俺達はどうして意識を失ったんだ?」

 川崎もそれが聞きたかったようでコクコクと頷き、こちらに耳を傾ける。

「……お前らはレミリーに殴られて、城壁まで吹き飛ばされて意識を失ったんだよ」

 秀治と川崎の二人は起き上がったばっかりで記憶も混乱しており、あまり鮮明に覚えていなかったのだろう。

「……ああ、そうか……! 思い出した。……そう言えばあの王女はどうなったんだ……!?」

 俺は二人が気絶した後何があったのかおおまかに説明する。

「つまり、王女は洗脳魔法でいいように操られていたということか……」

「王女は被害者だったんだね……」

 二人は王女が洗脳魔法を受けていたことに驚き、それと同時に少し悲しんでいた。

 二人が俺の説明を理解したところで、この後俺達がやることについて説明する。

「それで、俺達のやるべきことなんだけど……。二つあるんだ」

 二人は頷き、真剣に耳を傾ける。

「まず一つめだが……。ラーニャ石のことだ。今も高峰達やクラスメイトはこのラーニャ石のせいで操られたままのはずだ。それを解除する」

 二人は分かっているとでも言いたげな表情で、二つ目のやるべき事についての説明を催促した。

「二つ目なんだけど……。王女にかけられている洗脳魔法を解除しようと思う。多分これを解くには術者を直接倒すか、術を俺達で解除するかのどちらかだと思う。前者は術者が分からない以上現実的な方法じゃないから、後者のやり方しかないと思う」

 と、ここで秀治が口を挟む。

「蓮斗。ちょっといいか」

「ん? なんだ、秀治」

「まず、洗脳魔法の術者だが……。大体予想はつく」

「誰なんだ?」

「……恐らく国王陛下だと思う。最も、国王陛下の目的は分からないが……。今までの国王陛下の行動と照らし合わせてみてもほぼ間違いないと思う」

「そうか……。あいつが元凶か……!」

蓮斗は拳を強く握り、怒りに震える。歯を食い縛り、怒りに顔を歪める。

「……蓮斗君。落ち着いて……?」

 そう言って川崎は蓮斗の拳を優しく両手で包みこむ。蓮斗はそれでハッ! と我にかえった。危うく怒りで我を忘れるところだった。



ー怒りに身をまかせると、自ら身を滅ぼす事になる。心に留めておけ。蓮斗ー



これは俺の父が小さい頃の俺によく言っていた言葉だ。俺の父は剣術を俺に教えていた師でもあった。その父の言葉が今なら少しわかる気がした。

「……悪い。川崎」

「……うん」

 川崎は柔らかく微笑んだ。俺はそれを見て心が更に落ち着くのを感じた。

「……蓮斗も落ち着いたことだし、続きを話すぞ」

「ああ、頼む。秀治」

「その洗脳魔法の術者である国王陛下なんだが……」

 俺たちは改めて秀治の言葉に耳を傾ける。

「恐らくこの城内には残っていないと思う」

「どうしてだ?」

 蓮斗は術者が判ったのなら、早々に倒しに行こう。そう思っていたのだが、それは秀治の言葉によって否定された。

「国王陛下ぐらいのやつなら逃げるための隠し通路ぐらい用意しているはずだ。それに、王女を操るぐらいの奴だ。本来洗脳魔法は格下の相手に行使する事でその性能を発揮できるんだ。それを踏まえると、国王陛下は王女以上の化け物ということになる。これ以上事を荒立てても俺たちじゃ手に負えないだろう。第一国王陛下が運よく見つかっても勝ち目などない。ここは安全策をとろう」

「……そうだな」

「……うん。そうだね」

 三人とも至って普通にしていたが、心の底に隠し切れない悔しさが滲み出ていた。


 

 

 

 





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