第14話 圧倒的不利。そして、形成逆転へー。ー2

「おい、蓮斗。魅了と支配の魔法がかけられているって一体どういうことだ?」

 秀治がそう問うてくる。

「俺の魔法「サーチ」で得た情報なんだが……。威力最小限で魅了と支配の魔法は王宮全体に効果が及んでいるらしい。……「ラーニャ石」っていう魔石に魅了と支配の魔法が付与されているらしくて、その魔石を探していたんだ」

 俺達は、現在王宮の入り口付近にいる。王宮外は約100人くらいの兵士が待機しており、数百メートル先には王宮の敷地から出るための門がある。俺達はそこを目指したいのだが、この数の兵士に囲まれていては突破も難しい。今は城壁の陰に隠れているが、俺達が門に向かって突っ走るとすぐさま通り道を塞ぎにかかるだろう。後ろからの追手は今のところは大丈夫だろうが……。時間の問題だろう。ここは早急に対応せねばならない。

「蓮斗君……。一ついいかな」

「なんだ?」

「その……ラーニャ石?ていうのは何?」

「……ああ。ラーニャ石っていうのは、結構希少な魔石でちょっと濃い紫色をしたやつなんだけど……。何でも、ラーニャ石に付与された魔法には耐性があるらしくちょっとやそっとじゃ術式が破壊されないようになっているらしい」

 俺の説明に川崎と秀治は得心がいったように頷く。

「とりあえず王宮を脱出しないことにはゆっくり話し合えそうにないな……」

「……そうだな」

「……うん、そうだね」

 二人とも神妙な面持ちで頷く。

 実際問題、この状況を打破するのは困難を極める。レベル不足や経験不足といったことも要因だろう。だが、それを抜きにしても圧倒的なまでの数の不利が一番の要因なのかもしれない。

(……とりあえず、広範囲に状態異常系の魔法で兵士達をできる限り眠らせるか……)

「二人とも。俺が今から広範囲に状態異常系の魔法でできる限り兵士達の足止めをする。……その間に数百メートル先にある門に向かおう。もし万一状態異常系の魔法にかからない兵士達がいて、俺達を追って来たらそいつらは上手く対処しよう。……これでいくけどいいか?」

「ああ。問題ないよ」

「うん、大丈夫」

「よし。作戦開始だ」

俺は二人にそう言って、魔法陣の構築を始める。結構広範囲になるので構築にもいつもより少し長い時間を要する。

……核となる魔法陣の形成……。睡眠効果付与……。核となる魔法陣の修正……。補助魔法陣の形成……。全体の歪み修正……。不要な術式の削除……。術式修正……。範囲拡大「最大限」……。対象設定……。

「シュラーフ・プロモート」

俺の今でき得る最大の範囲、最大の出力で魔法を発動する。すると、王宮を中心に大きな黄色の魔法陣が出現した。出現したその黄色の魔法陣からは、ほんのりピンク色の靄みたいなやつが発生した。

このピンク色の靄みたいなやつには睡眠効果が最大限付与されているので、対象とされた兵士達はすぐに眠りにつくはずだ。暫くすると靄が収まり辺りが見えるようになった。俺は周りの兵士達の状況を確かめるために魔法を発動する。

「サーチ」

睡眠状態の人を対象とし、調べた。

「どうだ?蓮斗」

「……兵士達は一人残らず眠りについたよ。後、王宮内も一応調べたけど、王女と国王陛下以外は皆眠りについたようだ」

「……そうか。ならば早々にここから出ないとな」

「うん」

「ああ。そうだな」

 俺と川崎は秀治の言葉に頷く。そして、王宮の門へ向かって走り出す秀治に俺と川崎も続いていった。



ー宿屋にてー

「で、いくら探してもその「ラーニャ石」は見当たらなかったと」

「ああ。王宮内を一通り全て見たんだけど何もなかったんだよ。魔力は微かに感じ取れたんだけど……」

「魔力が感じ取れたのか?」

「うん」

 俺達は現在宿屋にいる。王宮からは、遠く離れている訳でもないが隠れているような場所なのでそう簡単には居場所は見つからないだろう。

(……魔力が感じ取れる……。けど目には見えない。そして、なおかつその存在が感じ取れない……)

秀治は黙考する。なぜ魔力が感じ取れるのか。それは魔法が使われているからだ。「魅了」と「支配」の魔法の魔力かもしれないし、もしかしたら他の物かもしれない。故にここで蓮斗に問う必要がある。

「どんな風に魔力が感じられた?」

「うーん……。何か「魅了」と「支配」の魔法の魔力以外にどこか一点に魔力が収束しているのも感じ取れた気がする」

「そうか……」

(これで、「魅了」と「支配」の魔法の魔力の線は消えた。そして、これはラーニャ石の可能性が高い。でも……なぜここまで感じ取れているのに場所が分からない……。魔力が微かに感じ取れたと言っていた。本当ならもっと魔力が漏れてても不思議じゃない……。ということは、隠蔽されているか……もしくは……!)

 秀治は考えが纏まったのか、俯き気味だった顔を上げ、蓮斗達を見る。

「……蓮斗。多分だがわかったぞ」

「本当か!?」

「ああ。多分これにはおそらく「偽装魔法」が使われている」

 秀治の口から出た答えは蓮斗や川崎にとっては予想外のものだった。それを聞いた蓮斗達はただただ小首を傾げるだけだった。

 



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