第93話 勇羅side



「動画サイトで流された動画の方も凄かったらしいね。ほとんど使われてない廃工場で、もの凄い爆発音があったって」


学園都市郊外の廃工場跡地で、原因不明の爆発火災が発生した。

火災が起きた工場は数ヶ月前に、市の議会によって取り壊しが決定し、普段も取り壊しを依頼された業者以外、最低限の人間すら滅多に近寄る事のない、かなり年期の入った建物だったと言う。事件当日は爆発と同時に物凄い勢いで炎が燃え広がり、約二時間程で古びた工場は黒焦げの廃墟と化した。当時の火災の動画がどこかで誰かが撮影していたのか、ネット上でも流れていたらしく、動画を流した者は誰かが事件の隠ぺいを狙ったのか、数時間後に呆気なくアカウントを消され、当然あちらこちらで騒ぎとなった。


朝になり大量のゴミと化した瓦礫の山に、一面焼け野原と化して鎮火した工場内を警察が調べると、驚く事にその中から複数の遺体が発見されたと言う。そして犠牲になった者達が、持っていたと思われる端末も、いくつか見つかった。そして端末の一つを調べた結果、数日前に東皇寺事件で逃走した、聖龍のメンバーのものである事が判明。


警察は周辺の手を借り、彼らが持っていた端末の全てを調べた。そしてこの火災で犠牲になった者達全員が、本格的に指名手配を進めていた聖龍メンバーと発覚。この爆発事件で、聖龍は事実上壊滅したと見て構わない。


「和真兄ちゃんから聞いたんだけど、実は三日前に聖龍が警察に喧嘩売るレベルで、とんでもない事やらかしてたって」


工場火災が発生する三日前。数年前から聖龍が関わったとされる、女学生大量失踪事件で、失踪した犠牲者全員の映像DVDが何者かの手で広範囲に渡り、大量にばらまかれていたと言う。更にあろう事か。そのDVDの一部は近隣都市の警察にまでも届けられていて、警察が中の映像を調べた結果、聖龍のメンバーがDVDをばら蒔いた事が発覚。


そのばら蒔かれたDVDには、宇都宮夕妬と聖龍の犠牲になった冴木みなもや、友江継美の映像も含まれていた。


「···奴ら、何をばら蒔いたんだか」

「流石にどんな内容は教えてくれなかったよ」

「話さないんじゃなくて、私達には話せないんだと思う···」


犠牲者の冴木みなもが入っている事から、瑠奈はある程度話せない事情が察したのだろう。恐らくその品物は勇羅達がゴネても、絶対に見せて貰えない。



「よう。興味深い話してんな」

「あっ」



背後から聞き覚えのある男の声がしたので、勇羅達は声のした方へ一斉に振り向く。勇羅達の前に現れたのは、思った通り先日まで、神在総合病院に入院していた四堂鋼太朗だった。まだ頬や手の甲には白い絆創膏が貼られてはいるが、既に学校に通える迄には回復したらしい。


「もう大丈夫なんですか」

「ああ。昨日付けで退院だ」


ニッと人懐こい笑みを浮かべる鋼太朗とは裏腹に、麗二はジト目で鋼太朗を睨む。


「何だその目は!?」

「あーはいはい。鋼太朗は身体の頑丈さが取り柄ですからねー」

「瑠奈はまだしも、オメーも俺の事呼び捨てかっ! つか俺のトンカツに、タバスコぶち込んだ件は忘れてねーからな!」


どうやら自分の描いた絵を馬鹿にされた事を、麗二はまだ根に持っているようだ。前に馬鹿にした鋼太朗を始めとする周りだけでなく、友人である勇羅の目から見ても麗二の絵は独特過ぎる。麗二の絵を見て、腹が痛くなるまで爆笑したのは勇羅や瑠奈も同じ。しかし昼食時に、食事にジョロキアタバスコを仕込む嫌がらせを受けたのは何故か鋼太朗だけ。


ジョロキアを仕込まれた、定食のロースカツの一切れを一気に食べた直後。全身から大量の脂汗を吹き出しながら、人前では絶対に声を上げまいと、何ともし難い表情で悶え苦しんだ鋼太朗を、思い浮かべた勇羅と瑠奈は、お互いに横目を合わせながら苦笑いを浮かべる。


「ま、まぁ···。タバスコの件は一先ず置いといて。お前らが話題にしてた聖龍の件だが、あの工場火災。実は出火原因が完全にわからないそうだ」

「えっ」


三人は顔を見合わせる。事件の大元でもある、火災の出火原因がわからないとは、一体何を意味しているのだろうか。


「···ここじゃちょっと話しにくいな。どこか別の場所で話さないか」


鋼太朗の提案に三人は頷くと、勇羅達の了承を確認した直後から歩き出す、鋼太朗のすぐ後を追うように三人も歩き出した。



―午後三時五十分・郊外某所。



勇羅達が鋼太朗に連れられたのは、シックな雰囲気のクラブハウス。夜は勿論音楽がメインのクラブハウスだが、昼は喫茶店として営業しているらしい。


「こういう所始めて来た···」


勇羅を始め、瑠奈や麗二ももの珍しげに周りを見回している。店のカウンターや壁には、古いレコードやら洋楽のCDやらが至るところに飾られていて、奥にはピアノまでもが設置されている。純粋に外国の音楽が好きな人間が、好みそうな場所だ。そして常連と思われる数人の客が、和気あいあいと話し合っている。いかにも訳ありな人間が戯れる聖域とは、まるで正反対の雰囲気の店だった。四人は早速奥のテーブル席へ座る。


それぞれドリンクなどのメニューを注文した後。勇羅は丁度テーブルの向かい合わせとなった、鋼太朗の方へ視線を向ける。


「聖龍が関わってるんでしょ? 泪さんには話さなくていいの」

「んー···ちょっとな。あいつ、和真先輩からの依頼を受けてて、今部活休んでるだろ」


泪の事を聞かれて、鋼太朗は何故か口を濁す。思えば二日前から部活で泪の姿を見かけていない。休み時間や昼休みには泪の姿を見かけるから、学校には来ているようだが。普段はあれだけ泪の事を、色々聞きたがっていたのに不思議だ。


「昨日起きた廃工場火災で、事実上聖龍は壊滅した。しかし工場で起きた火災の火元は全く不明」

「うん」


工場火災で聖龍の古参メンバーは全員犠牲になった。壊滅したとは言え、聖龍被害者失踪の件といい、完全に解決していない部分もあるので、聖龍についてはまだ多くの謎が残されている。



「三日前のDVDばら蒔きの話は?」

「詳しい内容は話してくれなかったよ」


「···だよな。聖龍の連中、あれで警察にまで喧嘩売ったからな。これまで聖龍の事件の被害者の中には、財界や政界の令嬢も入ってた。聖龍の連中のばら蒔きの件で、溜まるに溜まった被害届が、今回を機に被害者家族一同がまとめて再提出。和真さんや皇が東皇寺事件の際に、警察へ提出した有り余る物的証拠を元に、聖龍メンバー周辺へ本格的な捜査が、行われる直前だったんだよ。


それにあの火災で廃墟になっちまった工場も、実は捜査の範囲に入ってたんだ。あの工場も聖龍が行ってた、例の取り引きの場所の一つとして、使われてたらしい」



和真達が自分達に、この事を話さなかった理由が納得した。だとしたら、みなも達を始めどれだけの人数が聖龍の被害にあったのだろう。そして聖龍を追い詰めるべく、彼らによって使われていた廃工場にも、警察の捜査の手が行く予定だった。最も捜査の手が入る寸前で、結果的に聖龍は壊滅してしまったが。


「でもそんな貴重な情報、俺達だけに話していいの」

「聖龍が壊滅した以上。これから警戒するのは連中が過去に行った、悪行のネタ探しに必死なマスコミや、悪趣味なネット動画やってる連中位だ。お前らは動画実況興味ないって前に話してたし大丈夫だろ」


勇羅達もネット動画を見るのは好きだが、あくまでも面白い化学の実験動画や、ゲームのプレイ動画に限る。実況動画になると実況者の声が気になって、どうしても見る気が失せてしまうのだ。



「それと話変わるが、東皇寺での宇都宮一族の件。······宇都宮夕妬は今本家にいる」

「えっ」

「······あいつ。のこのこと本家に匿(かくま)われてやがった」


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