第24話 勇羅side



-昼休み・宝條学園食堂。


昨夜京香から宇都宮家について話を聞いた勇羅は、偶然にも食堂で鉢合わせた三年の四堂鋼太朗と、何故かテーブルの向かい合わせとなって昼食を取っていた。


「……」

「……」


お互い黙々と食事する予定だったのだろうが、丁度向かいの席に座っている鋼太朗の方は箸を持ったまま、口を半開きにして向かいの席の相手を見て呆然としている。それもそのはず。鋼太朗は周りの生徒達の視線をお構い無しに黙々と食事を続けている、目の前の勇羅の食事の量に驚いているのだ。


今日勇羅が食堂で注文したのは、鶏の唐揚げ定食の唐揚げ三倍増しアンドごはん特盛り。卵かけご飯をやりたくて生卵も追加したかったが、あまりにも茶碗のご飯が多すぎて、卵と胃袋に支障が出かねないと思い流石にやめた。


「……お前よく食べるな」

「ほへ?」


ドッと疲れたような声で呟く鋼太朗に対し、ご飯を口に掻き込みながら勇羅は首を傾げる。


「そういえばさ。ウチのクラスの女子の間で何か噂になってるぞ」

「何がですか?」


今日の日替わり定食の一つの内であるミックスフライ定食を注文し、衣はカリカリで肉厚のロースカツを口にしながら、鋼太朗は口を続ける。


「一年C組の三間坂翠恋が、東皇寺学園一番の美少年アイドルと付き合ってるって」

「!?!?!?」


思いがけない噂に、勇羅は口に含んでいた白米を噴き出しそうになる。


「おいおい汚ねぇなぁ…。そんなにガツガツ掻き込むからだよ、大丈夫か」


鋼太朗に心配されながら、口元と机の周りに米粒を撒き散らし、我に返った勇羅は思わず制服の袖で口元を食べかすを拭う。


「な…何で」

「俺はクラスの女子が噂話してるの聞いただけだし、詳しい事情は分からねぇ。泪のクラスの水海や周りの女子も全然信用してないみたいだし、噂してた女子も話し方から否定的みたいだったからデマかも」


あのかしましい三間坂翠恋に彼氏だなんてあり得ない。クラスでは気の強さが災いし、現在では男子から遠巻きに見られてる。友人曰く『黙っていれば可愛い』の典型らしい。


「待って…東皇寺一番のアイドルって」

「何だ、心当たりあるのか?」

「んー…。実は京香姉ちゃんと東皇寺の事で電話してたんです」


自分達が今東皇寺学園の事件へ、徐々に関わりを持ってしまっているのに、現状この事件とは無関係の鋼太朗を巻き込んではいけないと思い、勇羅は自分が説明出来る範囲で、鋼太朗に東皇寺学園の出来事を説明する。


「その一年生が東皇寺一番のアイドルって…そいつ芸能人でもないのに、周りが騒いでおかしくないか?」

「俺もそいつの事詳しくは知らないんです。その人の事は京香姉ちゃんから又聞きした程度だし」

「何かと良い噂聞かないな」


翠恋に聞けば一番手っ取り早そうだが、正直彼女とはあんまり関わりたくない。もし手違いで無関係だったとしても、何らかんらで突っ込みたがりの翠恋の事だし、更に厄介な事態になってしまいそうだ。


「もう一度水海に聞いて見ればどうだ。お前の話聞く限りじゃ、その宇都宮分家とか東皇寺に詳しいみたいだし」


鋼太朗の言う通りやはり京香に頼むしかなさそうだが、ふと勇羅の頭にある生徒の姿が浮かび上がった。


「そうだ…一人。心当たりあります」


以前雪彦達と東皇寺学園に向かった時以来、何度か会った東皇寺学園三年生の逢前響。彼の口調から今の東皇寺の方針に反発しているようだったし、何かあったら連絡してくれと言ってくれた。もしかしたら彼なら、現在の東皇寺の内情を知ってるかもしれない。


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