第22話 瑠奈side



―…休日午前・神在駅前


「ぱんぱかぱーん。今日はウチの探偵部部長泪先輩も同伴しての指導に入りまーす」

「……まさか今日は僕まで付き合わされるとは思わなかった」


瑠奈と琳、そして泪は駅前で彩佳と待ち合わせた。正しくは駅前のスーパーで買い物途中の泪を、瑠奈が半ば無理やり付き合わせた形になったのだが。


「よろしくお願いします、探偵部部長さんっ」

「よ…よろしくお願いします」


彩佳に期待を込められた眼差しで見られ、心なしか泪の表情は半分引きつっている。それもその筈、泪が他校の女子生徒と一緒にいる所など、瑠奈も琳も見たことがないからだ。


それどころか勇羅の話だと同級生の男子生徒ですら、泪の数少ない友人の京香や積極的に関わっている鋼太朗を除き、周りの生徒達は必要以上に泪と接していないし、それ以前に泪自身は積極的に他者と親密な関係を持とうとすらしないそうだ。最も泪に積極的に交流を図ろうとする異性は、瑠奈が知る限りではあの翠恋や佐伯みなも先輩くらいなのだが。


「角煮は?」

「茉莉姉と留守番してる。なんか茉莉姉が角煮の相手したいって」


先日の生徒達による大騒ぎで憔悴仕切った茉莉は、久しぶりに角煮と遊びたいと申し出たので、思いきって茉莉の好意に甘える事にした。


「部長さんも異能力者なんですか?」

「えっ、それは……まぁ」


泪がどんな異能力を使えるのかは知らないが、念動力の制御なら瑠奈や琳より上だろう。周りに泪を異能力者だと言ってる生徒が殆ど見ていないので、端から見れば泪は普通の人と変わりないしバレてもいない。


「ふっふっふ。ウチの泪部長の素晴らしい異能力制御テクニックにかかれば、彩佳先輩もすぐに異能力の制御をマスター出来ます!」

「調子に乗らない」


泪はジト目になりながら瑠奈の額を軽く小突く。今日も別行動を取っているあの三人も、十二分に問題児だが、一度探偵部から離れれば瑠奈も十分問題児の部類に入る。


「……」

「どうしたの琳?」


先程から琳の様子がおかしい事に気付き、瑠奈が声を掛ける。


「あ。う、うん。勇羅君から聞いた話の事考えてて。私達、東皇寺の何かに監視されてるって」

「あれか。あれ聞いた時は茉莉姉も顔真っ青だったからなぁ…」

「それでも不自然過ぎますよ。ユウ君と同じ物を見た雪彦君や万里さんは何も起きてませんし、現に彼らが他校の生徒を監視出来る権力があるとしたら…」


瑠奈達の話をそれまで傍観して聞いていた彩佳が、何かを思い出したような表情をして口を開いた。


「あ、あの…これ噂でしか聞いた事ないんですが。前に私、東皇寺の生徒会の事を話し掛けましたね。実は東皇寺学園の生徒会の人達、生徒会専用のホームページを作ってて、自分達の気に入らない相手をホームページで晒し者にしてるって…」


三人は彩佳の話を複雑な表情で聞いている。今ならLINEやSNSがあると言うのに、何故ホームページまで作って生徒を晒し者にする必要があるのだろうか。


「でも何でそんなことを」

「…これはあくまでも噂なんです。東皇寺学園は学園側が体制を気にしてるのもあるんですが、実はホームページなんて面倒だから、って理由でインターネットに対しては、最低限の情報にしか手を出していないんです」

「…そう言う事でしたか」


泪が溜め息を吐く。学園側はホームページを持っていないと言う事は、どうも今回の件は東皇寺学園生徒会による完全なる私欲だ。


「大丈夫です。今雪彦君達も動いてますし、先生にも協力して貰って全員で上手い事立ち回れば、必ず丸く収まります」


私欲だと判明すれば徹底的に埃を叩き、逆に彼らを追い込んでやる事も可能だ。あの後雪彦や万里は両親と更に話し合うと言っているし、茉莉の方も念を入れて委員会に報告すると言っていた。

この一件で無自覚にも自爆しているのは、彼らの方なのだから。


「それに生徒会の人達、ここ最近良くない噂も聞いてて…」

「何だか物騒な事になり始めたなぁ…」


くよくよ悩んでても今はどうしようもないが、学園外でも騒ぎになりかねない大事を持ち込んだ勇羅達を恨みたくなる。


「それに悔しいですが現状、僕らが個人で介入出来る事は何もありません。東皇寺の件は先生達に任せるしかないでしょう」

「そうですね」


「考え込んでても仕方ないし、今日は先輩の異能力特訓の続きやろう。お兄ちゃんも暇潰しになるでしょ」

「……結局付き合わされるのは変わらないんですね」


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