第1話 勇羅side



―午後六時・宝條学園部活練探偵部部室。


「ユキ君。ユウ君……。一体これは何ですか?」


「え、えーとねぇ…」

「や、やだ…泪先輩ったら。いくらなんでも、眉間にシワ作りすぎっ…」


ゴールデンウィークを明けた放課後。探偵部の小綺麗な部室で、溜め息混じりの説教を食らってるのは、宝條学園一年生。探偵部副部長・篠崎勇羅と、同じく宝條学園二年生で探偵部部員・皇雪彦。


その日の昼休み。勇羅と雪彦の二人は、学園生徒へ探偵部への入部を呼び掛けようと、勧誘活動をしたのは良いものの、勧誘活動を始めて早々に生徒と騒ぎを起こし、探偵部部長・赤石泪と探偵部顧問・真宮茉莉が後始末をする羽目となった。


探偵部の問題児二人の予想以上の狼狽ぶりを見て、何か思う所があったのか泪は大きくため息を付く。


「僕は二人に怒ってるんじゃありません。いくら部員の勧誘にしても、きちんと順序とやり方を考えるべきでしょう」

「はい、そうですよね…」


勇羅も雪彦も。泪が度々内外で部活動で、訳の分からない問題を起こす自分達の事を、本気で心配してくれているのを知っている。だからこそ探偵部に一人でも部員を増やして、常に大仕事を抱えている泪の負担を減らしたかったのだが。


「実際やってるのは、赤石君の負担が蓄積される行動ばっかりよねぇ…」


ヘコむ二人の考えを見抜いたかの如く、泪と共に騒動の後始末をした茉莉が突っ込みを入れる。


「二人共。部員の勧誘が完全に自分達の選り好み入ってるじゃない…」

「いや、あれは」


昼休みの勧誘活動の時。勇羅は体育会系の男子生徒を。雪彦は上級生下級生問わず、女子生徒へ集中的に声を掛けており、今回の騒ぎは雪彦が『彼氏持ちの女子生徒』を、しつこく勧誘したのが原因だった。幸い泪が仲裁に入ってくれたので、大きな騒ぎにならずに済んだが、一歩間違えれば雪彦だけでなく、勇羅までも怪我をする状況を避けられなかったが。


「雪彦ちゃん。貴方ここ一年の間でほとんどの女子生徒から、危険人物認定されてるのに全然懲りないのねぇ~」

「いやだ先生っ! 可愛い女の子に声を掛けるのは、僕にとって鉄則なんですよぉ~」


「だからって、あのスキンシップはやり過ぎです。あれは相手に反撃されて当たり前でしょう。もう少し対応を間違えたら、先生方が救急車を呼ぶところだったんですから」

「…うっ」


勇羅の目から見ても、雪彦のスキンシップは度が過ぎている、雪彦自身顔は良い癖に、隙あらば積極的に女子生徒に声を掛け、スキンシップを謀ろうとする。

しかも初見から、かなり馴れ馴れしいので、相手は必然的に騙されるか逃げるか反撃するかの三択となる。しかし今では彼のセクハラスレスレのスキンシップ攻撃に対し、反撃しない女子生徒が居ない方が珍しい位だ。

泪の冷徹な指摘に、勇羅も茉莉もうんうんと同意する。


「これ以上は遅くなるから今日は解散しましょ。今度から部員の勧誘は、もう少し考えてから行動すること」


勇羅達が話し込んでいる内に、部室の壁時計の針は既に六時を回っている。普段から部長でもある泪の手で常に綺麗に片付けられ、整理整頓されている探偵部部室を始め、他の部室練や校舎内外に残っているのは、運動部の生徒や部活の顧問などを担当している数人の教諭位だ。


「いけね。今日は俺が炊事当番だった」

「砂織お姉さまは?」

「姉ちゃん大学の講義だから、今日は帰って来るの遅いんだよ」


時計の針を見て、自宅の用事を一気に思い出した勇羅は、早々とロッカーから鞄を取り出しつつ帰宅の準備をした後、部室のドアを開ける。


「それじゃ真宮先生。泪さんに雪彦先輩っ、また明日ね! 大丈夫だよっ、次は絶対に失敗しないから!」

「まったくユウ君ったら…。相変わらず元気ですね…」


苦笑する泪達を余所に、勇羅は颯爽と部室から飛び出していった。


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