第17話:第三の街へ
実夜とデートをした翌日。
さて、今日は蜘蛛を倒して第三の街を目指す予定だ。メンバーはいつもの感じで……いや、四人揃うのはゲーム内ではなかったか。
そして今は、四人で落ち合うため、アディエルの北門のところで待っていた。
「あっ、先輩! おはようございます!」
「おはようございます。ルアさん」
「おう。おはよう」
初めに来たのは実夜と莉奈。ゲーム内ではヤミとリーナ。
その二人が来てからすぐ、嶺二が見えた。
「はよー。って俺が最後か」
プレイヤーネームはプラチナム。長いからナムと呼んでいる。
「おう。じゃあヤミ、案内頼むわ」
「りょーかいです!」
そうして4人揃ったため、さっさと目的地まで歩いて向かう。
第三の街は、始まりの街から北の山脈を越えた先にある。
とは言っても、その山脈の斜面は急であり、かつ標高がとんでもなく高いため登れない。そのため、その山脈に空いている洞窟を通り抜けることになる。
「にしても、ナム。お前がボスを手伝ってくれとかどうしたんだ? てっきりお前はさっさとソロで進んでるかと思ったんだが」
道中、前を歩く実夜と莉奈を見つつ、嶺二に聞いた。
そう。第三の街に行くために集まったこれ、言い出しっぺは嶺二だ。
「仕方ないだろ。ソロでクリアできなかったんだから」
「えっ、じゃあもう既に一回ソロで挑んだのか?」
「何回か、な。HPバーが見えないからわかんねーが、たぶん惜しいとこまでも行ってない」
「意外だな。お前のプレイヤースキルなら余裕だと思ってた」
「……お前、勘違いしてるかもしれないから訂正しとくけど、RTAプレイヤーって、そんなにプレイヤースキルが高いってわけじゃねぇからな?」
「いや、嘘だろ」
「そりゃあ他ゲーに応用できる小技はあるけど。基本的に既に決まっているチャートを何度も練習して詰めるだけだから、初見の相手には弱いんよ。少なくとも俺はな」
そういうもんなのか。
「じゃあこの前の熊を低レベルソロで倒してたのは?」
「アレは相性の問題。背中から気付かれずに近づけるボスだったからだな。真正面から戦ったら余裕で負ける自信がある」
「へぇ。ってことは洞窟にいるっていう蜘蛛のボスは背中から近づいたりできなかったのか」
「まあな。加えて言うと糸で動き封じられて、小さい蜘蛛呼ばれて、毒状態にしてきて……ソロでの勝ち筋は見えなかったな」
「それは……面倒な類のボスだな」
「そういうことだ。……まあ一番の問題は耐久力なんだけどよ」
「……やっぱり耐久力、VITにも振らないとダメなのか?」
俺も未だにVITには一切降っていないために少し気になる。
「たぶんな。ある程度は振っておかないといずれ行き詰まる感じがした」
「だよなぁ……」
「先輩とナムさん、何話してるんですか?」
実夜が振り返りながら聞いてきたため、それに答えると……。
「えっ、もしかして先輩達VITにSP一切振ってないんですか? さすがにボスの攻撃を一発も耐えられないのは不味いと思いますよ……?」
「「だよなぁ……」」
やっぱりVITに振らないとダメかぁ。……でももう少しAGIがあれば躱しやすくなると思うし、もう少し後でいいか。
「っと、それよりもう着きましたよ。ここです」
「うわ……、でっけぇ」
目の前には天を貫くほど高くそびえ立つ岩肌と、そこにぽっかりと、大きな洞窟が穴を空けていた。
「さあさあ、さっさと行きますよ! じっとしてると小さい虫系モンスターが湧いてきますからね。」
「……それは嫌だな。早く行こう」
既に湧いてきている、アリやダンゴムシといった無害なモブを見つつ答える。
……敵対しないというだけで、精神的には有害だと思うけどな。
「ははっ、そうか。そういやルアは虫苦手だったな!」
「いつになく嬉しそうじゃねぇか」
「いやぁ、人間性とか女子うけとか、そういう諸々のことでお前より優位に立ったことがなかったからな。悪い悪い」
「悪意は感じなかったし、別にいいけどよ……そういうわけだ。早く抜けよう」
「あれ、そういやリーナは……」
ん? ああ、そういえば莉奈ちゃんも虫が苦手だって……
「ヤミ助けてぇ……ひぃ!!」
「もー、リーナちゃん可愛い! でも別に小さいアリとムカデくらい怯えなくていいじゃん。無害なモブだよ?」
「嫌なものは嫌なの!! ほらまたぁ。……ねぇ、他の道無いのぉ?」
「今いける道はここだけだから、ごめんね。リーナちゃん我慢して!」
「うん……ひいぃ!? 足に! 足に!」
そこには実夜の腕に捕まりながら、一つに束ねた銀色の後ろ髪を震わせ涙目になって怯える莉奈の姿があった。
……うん。とりあえずさ。
「……早く、行こうか」
「……そうだな」
道中の魔物は嶺二が前衛となってどんどん倒してくれたためかなり助かった。ちなみに莉奈は実夜の腕に捕まったままで殆ど戦力にはならない状態だったが……。
「で、ここより先がボスのエリアか?」
「ですね。リーナちゃんも一旦落ち着いて。ボスエリアでは無害な虫モブは湧かないから、蜘蛛だけ全部切って倒しちゃって!」
「うん……ムカデもダンゴムシもいないなら……頑張る」
どうやら莉奈は足が多いやつが特に無理らしい。あのもぞもぞと動く姿を見ると鳥肌が立って足の力が抜けるのだとか。
……言いたいことはすごくよくわかるが、俺とはどうやら別のタイプみたいだな。俺も多足の奴も嫌いだが、それ以上に羽虫系と毛虫系が生理的に受け付けない。そういう虫と対峙すると鳥肌が立って冷や汗をかく。
「タンクいないから、できればリーナちゃんに回避壁をお願いしたいんだけど……頼んでもいい?」
「うん。もちろん! ……でも、蜘蛛に足がすくんじゃったらごめんね?」
「大丈夫! そのときは先輩が代わってくれるから! ですよね、先輩?」
「ん? あ、ああ。了解。そのときは代わるよ」
「えっ、ルアって武器弓だろ? それならダガー2本の俺の方が良くないか?」
「いえ、先輩もナムさんもどうせVIT無振りなので、それなら回避に定評のある先輩に頼もうかなーと。ナムさんがやってくれるならそれでもいいですけど」
「いや、そういやルアは回避が得意だったな……今回は譲ろうか」
「あれ、俺が避けゲー得意ってお前に言ったことあったか?」
「……お前、動画上がってただろ」
「あー……見たのか」
「……アレは俺でも少し引いたぜ?」
「……必死だったんだ仕方ないだろ」
「えっ? よく知らないので、ルアさん。教えてくれませんか?」
「あー、リーナちゃん。あとで教えてあげるから、先輩から直接聞くのは辞めたげて?」
「えっと、うん。りょーかい」
結局俺の動画は見られるんだな……。いや、自分で言うよりはマシとはいえ……知り合いに見られるのはかなり恥ずかしいな。
「じ、じゃあ改めて蜘蛛に挑みましょ〜」
「お、おう。そうだな」
「あっ、うん」
「りょーかい」
そうして俺たち4人はボスエリアに入った。
ボスのエリアは洞窟がドーム状に広がっており、広場といった感じだった。
「真ん中にいるわけじゃないのか」
「先輩、上です」
「上? ……あー、なるほど」
天井に張り巡らされた蜘蛛の巣の上に、その8本足の、黒と赤の縞模様が特徴的な蜘蛛はいた。鑑定したところ名前は『レッドケイブタランチュラ』、赤い洞窟タランチュラ。それにしては見た目が普通の蜘蛛っぽい……いや、考えなくていいか。
まあこれで嶺二が背中取れなかった理由はわかった。届かないもんなぁ。
「とりあえず弓であいつを引きずり落とせばいいのか?」
「んー、良いんじゃないですか? 近接だけでも倒す手段はありますけど、今回は弓がありますからね」
「……タンクいるのか?」
「小さい蜘蛛の方ですね。だから、リーナちゃん!【咆哮】でヘイト集めて!」
「うん。りょーかい!【咆哮】」
「では先輩。どちらが先に蜘蛛を落とせるか勝負です! 私はアーツ使いますけどね!」
「……そこまで勝負にする必要あるのかよ」
そうして攻撃を始めた。相性が悪かったとはいえナムがソロで負けた相手だ。苦戦する可能性が高いだろう。
……と思っていたわけだが。
「先輩……」
「……なんだ?」
「流石にこれ……あっけなさすぎませんか!?」
「いや、うん。そう……だな……」
目の前には光の粒子になっていくボス、レッドケイブタランチュラの姿があった。
「……ソロだとキツイと思ったが、こっちから引きずり落とせるとかなり楽なんだな」
「……みたいだな」
ヘイトはリーナが取ってくれていたため、引きずり落とす役の俺と実夜に殆ど攻撃が来なかった。
たまにリーナが小さい蜘蛛の攻撃を避けきれそうにないときは、その蜘蛛に矢を当ててこちらにヘイトを向かせたりして対処していたため、リーナの回避壁が崩れることもなく、終始安定していた。
ちなみに、戦闘中に聞いた実夜の話だと、体力が残り少なくなってくると上に張られた蜘蛛の巣を落として強制的に数秒間停止状態にしてくるらしかったが、その時にはすでに引きずり落としていたためか、そんな攻撃を受けることも無かった。
「β版の頃はもう少し苦戦した気がしたんですけどね。まあ今回は4人中2人がボスのレベル上回ってましたし、こういうものですかね」
「えっ、レベル上回ってるって、ヤミと……」
「あっ、私です。経験値効率のいいクエストをヤミと二人で色々やってたので」
「そんな時間あったか? たしかリーナとナムの家って親がゲームする時間にうるさいんじゃ……ってそういやナムもダウンロード版開始日に遅くまでやってたな」
「そうそう。今はリーナちゃんの家、親が不在らしくて夜遅くまでやって大丈夫になってるらしいです!」
「まあ、今だけの話だけどね。そのおかげで……」
「……そんなことより、さっさと第三の街に行こうぜ」
「「「あっ、そうだな(ですね)」」」
ボスのエリアを抜けると、すぐに洞窟の出口があり、そこまで来ると大きな街が見えた。
「洞窟の中、上り坂が結構多かった気がした割に、平地だし、そんなに降りないんだな」
「それはただ単にこっち側標高が高くなってるってだけですよ。まあそのせいで海から回っていくってことができなくなってるんですけど」
「なるほどなぁ。で、アレが第三の街か。名前はなんていうんだ?」
「ロズファルトですね。β版で唯一、闘技場のあった街であり、鉱石を鋳造する技術がある街ですね」
へぇ……と俺が相槌を打っていると、嶺二が途中で気になったようで横から聞いてきた。
「闘技場ってなんなんだ?」
「あーはい。簡単に言うと
「へえぇ。面白そうじゃねぇか。ルアもやるだろ?」
「いや、とりあえず様子見だな……」
「えっ、なんでだよ?」
「そりゃあ、この段階でもう第三の街来てるのって強い人しかいないんじゃないか?」
「だからいいんだろ」
「そういうもんか……?」
「そういうもんだ!」
まあ楽しそうならやってみるのもいいだろうな。他の人たちの型も知れそうだし、まあ観戦だけで十分かもしれんが。
と、そうこうしてるうちにロズファルトに着いた。第二の街に入った時と同じように門のところでギルドカードを魔道具に翳して登録して入る。
「……本当に大きいな」
「でしょう? ウルディアより一世代分くらい時代進んだ感ありますよね!」
実夜が言わんとしていることはわかった。ただ単純に、並ぶ建物が大きくなってるんだ。
ウルディアは西洋風の三角屋根の家が多く、一番大きい建物が5階建てだったギルド。それ以外は大体が2階〜3階建ての一軒家だった。
比べてロズファルトは西洋風な街並みは変わらないが、まず目に入るのは真ん中を流れる川とそれに沿うように通っている大通り。その両側には6〜7階建てほどで、横にも長い煉瓦造りの大きな建物が並んでいた。正しく、西洋的な集合住宅といった感じだ。
「綺麗なもんだな」
「ですねー……っと、とりあえずパーティーは解散しますか?」
「おう。俺は早く闘技場を見に行きてぇからな!」
「あっ、私は一旦落ちるね」
「俺は……」
「おっと、先輩にはまだ用があるのでそのままで。ということでお二人ともお疲れ様です!」
「おう、おつありー」
「あっ、お疲れ様です〜」
《プラチナムがパーティーから脱退しました》
《リーナがパーティーから脱退しました》
そのままリーナはダイブアウトしたようで消えて行き、ナムは気付いた時には既に居なかった。
「で、用事って?」
「そうそう、スイちゃんが装備できたから取りに来てつて言ってましたので」
「ああ、そういえば頼んでたな」
「そういうことです。とりあえずスイちゃんが仮拠点にしているという借り工房へ向かいましょうか! たしか聞いたところによると西の方の……」
と、そう言って実夜が歩き始めたため、並んで歩きながら話す。
「工房ってこの街なのか……ってことはやっぱりヒスイさんも上位勢?」
「そうですよ? ほら、スイちゃんが装備に付与できるステータス『±2まで』って言ってたでしょう?」
「あ、ああ。それがどうしたんだ?」
「製作段階で付与可能なステータスは『(自分のレベル-10)×1/10』ですから±2ってことは」
えっと、計算して±2になるってことは……。
「えっ、ヒスイさんもうLv30越えてるってことか?」
「そういうことです。完全にガチ勢の方ですよ」
「ちなみに、今の最前線って……」
「たしかβ版からの有名人でしたね。名前は忘れましたけど、たしか掲示板で見かけたときはLv32って言ってたと思います」
「……ヒスイさん、あの時で30ってことは、もうたぶんそれくらい行ってるよな」
「……ですね。このゲーム生産でも経験値入りますし。下手したらもっと高いかも。今のレベルキャップがたしか45なので、もしかしたら解放前にカンストまであるのかもしれませんね」
ヒスイさん、凄い人だったんだな。
「……ってそんな人に装備作ってもらえたのか!」
「そうですよ? たぶん今の時点でステータス±2の付与装備が作れるな彼女だけですから」
……なんというか、俺って運いいな。始まって早々に上位勢の人とフレンドになれるとか、なかなか無いと思う。
「っと、ここですかね。こんにちはー!」
と、着いたようだな。実夜の後ろについて入っていくと、水色のショートヘアの少し幼めな顔立ちの、ヒスイさんが洋服を畳んでいるところだった。
ヒスイさんはこちらにすぐこちら気づいた。
「あっ、こんにちは。ヤミさん、ルアさん。お待ちしてました」
軽く挨拶を済ませてから本題に入る。
「ではとりあえずトレードしましょうか」
《ヒスイにトレードを申し込まれました。トレードを始めますか?》
はいを選択すると、メニュー画面のような、薄い画面が出てきた。
「トレードしたいアイテム、通貨を選んでトレードできるんです。今回の金額は2万ですから、間違えないでくださいね」
そうしてすぐにトレードを終えた。
すると、実夜がすぐにアイテムの詳細を開いたようで、目を見開いていた。
そんなに凄いのか、と思いながらその装備の詳細を開く。
「へっ?」
いやいや、さすがにこれがやばいってことくらい、俺でもわかるぞ。
「では今回作った装備について説明しますね」
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