第16話 勇羅side
―···数日前・神在市商店街。
「あ。瑠奈だ」
街中を歩いていた勇羅は自転車に跨がり、歩道前で信号が変わるのを待っている瑠奈を見つけた。
東皇寺学園での異能力者狩りを巡る大騒動以来、流石の勇羅も大人しくしていた。あの件は自分にも大いに責任があったのだし仕方がない。学園生活自体に支障はないが体調不良を度々起こしている事もあって、今は学園内での小さな雑用を受けもっている日々だ。
「何やってんの」
話しかけると瑠奈は一瞬驚いた表情になったが、すぐ元の緩んだ顔に戻る。
勇羅に気付き近付いてくる瑠奈の様子をちょっと観察すると、表情自体はいつもと変わらないがどことなく目がおよいでいる。
「あっ···ち、ちょっと本屋回ってたの」
「うん···もうすぐ試験だもんね」
「私。英語毎回赤点ギリギリなのにー···」
もうすぐ夏期休暇前の学期末試験が迫っている。
瑠奈は英語が苦手で勇羅は物理が苦手。二人とも幸い補習だけは免れているが、やはり憂うつになる。
「まぁまぁ。そういや今日の昼休み、三間坂の奴また麗二に喧嘩売ってたよ。
今度こそどっちが期末試験の成績が上か勝負だってさ···」
麗二は中学の時から抜群に成績が良い。高校に入って初めての中間試験でも軽く十位圏内に入っていた。
勇羅と瑠奈は翠恋と別の中学だし、争い事に関心がない麗二の方も翠恋のちょっかいを完全スルーしていた。
「あいつも飽きないなー。麗二に喧嘩売るんだったら美術しかないのに」
麗二の絵の才能が壊滅的なのは中学時代の友人全員が知っている。絵の才能が無いのは麗二本人も自覚があり、実際麗二の絵を見て笑い倒した鋼太朗が、麗二直々に報復を食らっている。
「三間坂の中間順位わかる?」
「瑠奈より50下。下から数えた方が早いよ」
「······本当に命知らずだね」
ちなみに一年生160人中勇羅は36位、瑠奈は67位だった。翠恋が現在目の敵にしている麗二の順位は5位。無謀にも程がある。
「いけない。次の本屋行く途中だった」
「やば、時間取らせた?」
次の本屋に行くと言う言葉を勇羅は聞き逃さなかった。これは何かある。
「で? 何調べてんの。単に試験の勉強だけじゃ、あちこち本屋回らないよ~」
「私が何を調べようが関係ないじゃん!
勇羅はあの件で騒ぎ起こして、和真さんや砂織さんからも大目玉食らったんでしょ?」
「うっ」
痛い所を付かれた。
東皇寺の事件で自業自得と言わんばかりに、和真だけでなく砂織にまで説教を食らう羽目になった。
「只でさえ『今一番勇者に近い男』って言われてるのに、これ以上首突っ込んだら、本当に勇者になっちゃうよ」
「それは困る···」
勇者の称号を受けた生徒は高等部でもあまり見かけない。
ただし校則がかなり緩い反面、破った時の罰則が滅茶苦茶厳しいので破った生徒はたちまち有名人と化す。
勇者呼びされた生徒を勇羅は一度見かけたが、その生徒は周りから珍獣を見るような視線を浴びていて、勇者と呼ばれた生徒も実に居心地の悪そうな顔をしていた。
「そろそろ信号変わるから行くね」
「ごめん。長い事引き留めて」
歩道の信号が青になったのを確認し、瑠奈は自転車を漕ぎ始めた。
「うん······勇者はやだな」
自転車を漕ぐ瑠奈を見送りつつ、勇羅は改めて勇者になりたくないと確認した。
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