第14話 ファントムside
―···某所・ファントム国内東支部。
「私、貴方に興味ないわ。女同士なんかと話すより私はルシオラ様と話がしたいの」
「貴方って娘は······っ!」
たった今。ファントム日本東第一支部から帰還した伊内薫と、一人の異能力者の女性が一触即発の状態になっている。
政府非公認の異能力者狩り集団・ブレイカーの襲撃から逃れた(正確には見逃された)薫はファントム支部に帰還し、一連の出来事をルシオラに報告をしようとした矢先幹部の女性に絡まれた。
幹部の女性は五芒星(ペンタグラム)と呼ばれる、ファントム総帥ルシオラ直属の配下五人。
その内三人はファントム結成当時から仕えており、ルシオラからの信頼も厚い。しかしルシオラへの一途な思いに応えたい薫には微塵も関係なかったし、何としてでもこの出来事を愛するルシオラ本人に報告したかったのだ。
「今ルシオは此処に居ない、って何度も言ってるの。
そもそも末端の構成員である貴方が、そう簡単にルシオに会えると思わないで頂戴」
「もういい、私はルシオラ様と話がしたいの。それにルシオラ様を『ルシオ』だなんてなれなれしく呼ばないで!」
女性は薫の節操のない態度に対しても臆する事なく、事務的かつ冷静に対応する。しかし恐らく彼女の態度には内心腹に据えかねているだろう。
「···本当に貴方は自分の立場が全くわかって無いのね。
同じ話を何度も蒸し返すようだけど、今ルシオは此処には居ない。貴方は思念も能力も計測上、末端構成員の立場なのだからルシオには会えない」
「だからもういいよ、私は貴方なんかと話したくない。私はルシオラ様と話したいの!」
「うわ、痛々しい···」
引き気味にボソッと呟いたのは幹部の女性と行動を共にし、そのまま二人の言い争いを聞かされるままとなった、顔立ちにあどけなさが残る栗色の髪の少年。
癖毛の髪の少年の皮肉が聞こえたのか薫が少年へ口を出す。
「あら、可哀想。短気で暴力的で子どもっぽい貴方には、ルシオラ様の気持ちが分からなくて当然だよね」
「···はぁ!?」
「ルシオラ様の考えは私の考えなの、私はルシオラ様に絶対逆らわないよ。
私、ルシオラ様の為ならずっとそばに居られる···。ルシオラ様の考えが私の考えで私の全てなの。
貴方達みたいな薄っぺらい忠誠心しかなくて、沸点の低いお子様なんかと一緒にしないで」
薫の言葉はそれまで二人の口論を、冷めた表情で傍観していた少年すらも一瞬で激高させる。今までの積み重ねもあってか、少年に戦闘体制を取らせるには十分過ぎた。
「あんたって奴は、ホントに不愉快だね······喧嘩だったらいくらでも受けて立つよ。
ただし、薫様ご自慢の風を呼び起こす異能力じゃなくて素手でき―」
「行くぞ。ここは俺ら男の出る幕じゃない」
歪んだ笑みを浮かべ、大人げもなく拳をボキボキ鳴らす少年を背後から止めたのはガタイの良いスキンヘッドの男。男は女の争いは同じ女にまかせた方が良いと判断し、不満そうな表情をする少年を連れその場を離れる。
部屋を出たと同時にドア越しから女二人の口論が、更に熱を上げ始めたのを確認し、少し経って二人は本部の廊下を歩きだす。
「ルシオの方は?」
「しばらく此処から離れるってさ。今の状況じゃその方が良いかもな···」
「此処や本部だけじゃなくて、僕達からも離れて一体何やってんの」
「『探し物』があるらしい。『俺ら』以外誰にも言うなだとさ」
「成る程」
少年達も今のファントムの状況を不安に感じている。
湯水の如く次々と入ってくる同志達が『ルシオラの意志=自分達の意志』と思い込んでる現状、救いようがない。
「まったく薫の奴。ルシオとは一度あっただけの癖にすっかり幹部気取りだなぁ」
「嫌だよね、恋愛脳で空気読まない節操無しって。俺らの事もゴミクズの様に無いもの扱いしてさ······性格の悪い女」
「お前マジでえげつないな」
「本当の事言ったまでだろ。あいつ完全にルシオ以外の奴眼中にないみたいだし」
少年の言う事も一理ある。
今のファントムは『ルシオラ』と言う『象徴』が居なくなれば、あっという間に崩壊しかねない程規模が拡大している。
この場全てのファントムの異能力者は、『ルシオラ=コシュマール』の存在そのものが『全ての異能力者』にとっての希望だと思っているのだ。
「全くだ。ルシオはあいつ等が思ってる程、偉くないのにさ」
「······そうだね」
男の上着のポケットに入ってある携帯から着信音がなる、着信相手はルシオラからだった。
「俺だ」
『玄也か。『探し物』は見つかった。すぐにクリフとルミナを連れて支部を離れろ······くれぐれも他の同志には悟られるな』
「了解」
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