第7話 瑠奈side
「話したい事って何?」
「私の力の事」
夕食後。
瑠奈は茉莉に自分の異能力の事で話がしたいと言い、その持ちかけに茉莉はあっさり応じた。
今、瑠奈は茉莉の部屋にいる。
自室で書類の整理をしていた茉莉は既に風呂に入った後で、水色の寝間着(ネグリジェ)に長い髪をまとめた茉莉からは、ボディソープとシャンプーの匂いがほのかに漂う。
「···そういや貴方の異能力」
「お父さんにもお母さんにも無闇に使うな、って言われてたから」
瑠奈の持つ異能力は対象の精神に直接干渉するもの···極端な話『自分の精神を自分が思った相手の精神世界へと直接侵入する』能力である。
茉莉の異能力が『人間物質問わず自(みずか)らに触れた対象の記憶』を読み取る力なら、瑠奈の異能力は『人の意識や精神(こころ)に自分自身が直接干渉』する能力だ。
しかしこの異能力は相手の心=(イコール)精神に直接干渉するだけあり、瑠奈自身の精神にも大きく影響を及ぼす為、『余程の事以外では自分の力を絶対に使うな』と両親や親戚からは固く言い付けられていた。
「貴方の異能力······精神侵入(サイコタイブ)だったわね。それ、誰に使うの?」
「泪お兄ちゃん」
「ダメ」
言った途端に速攻却下された。当然だ、無理もない。
瑠奈にとって泪は昔からの知り合いだが、茉莉にとって泪の事は自分が顧問を担当し、個性の強い部員達を纏(まと)める探偵部部長であると同時に、宝條学園に通う一生徒でしかない。
「貴方が赤石君と昔なじみで仲が良いのは知ってる。だから尚更認められない」
「······」
「それに無闇やたらに相手に干渉するって事は、赤石君の嫌な部分や本人にとって知られたくない事も知る、って意味も持ってるのよ」
茉莉の言ってる事は最も当たってる、泪にだって他人に知られたくない事や踏み込まれたくない事の一つや二つある筈。
瑠奈は今こうやって自分の特異な力を使おうとしてまで、泪の深い部分を知ろうとしているからだ。
「まぁ、私個人としては力を使うの止めないわよ。
自分の好きな男がどんな事思ってて、どんな事考えてるのか凄く気になるじゃない」
「うん···」
さすがは自分が目を掛けた男は、自分の持ちうる余りの魅力で絶対に落としてやると公言してるだけある。現に茉莉は好みの男を落とす為ならば、自分自身を磨き鍛える努力をも惜しまない。
同性だけでなく男からも女として最低と周りから言われてる癖に、上司としては信頼できる性質の所為か、時々無意識に恋敵に対して塩をガンガン送ってる当たり、詰めの甘い部分もあるとかないとか言われている。
「ただ相手は赤石君だとしても、彼は異能力者で私達以上に強い力を持つ『サイキッカー』よ。
干渉するにも相手が悪すぎる」
そこまでの意識は考えていなかった、泪は自分や茉莉以上の異能力者でもあるサイキッカーなのだ。
「サイキッカーの精神に侵入するリスクの事もきっちり考えて。一応、私からの話はそれだけ」
「···わかった」
瑠奈は茉莉の部屋から出ると自分の部屋へ戻った。
ドアを閉めると寝間着に着替えもせず、そのまま真っ直ぐベッドへとうつ伏せへ横になる。
「難しいなぁ···」
『茉莉個人』としては認めるが『同じ異能力者』としては認められない。
相手の事が気になっても『力の壁』が邪魔をして、干渉はおろか手を出すことすらも許されない。
部屋から出る際、茉莉は複雑な顔で瑠奈を見ていた。
何だかんだ言っても茉莉は、力を使ってまで危険な橋を渡ろうと仕掛けている自分の事を心配してくれているのだ。
「私はただ、お兄ちゃんの『笑顔』が見たいだけなのに···」
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