酔生夢死

 寝返りを打つと全身のあちこちが悲鳴を上げた。何だか嫌な匂いもする。不承不承ながら目を擦り、体を起こし、ようやくそこで、家ではなく何処か屋外であることに気が付いた。

 また酒を飲んでやらかしたらしい。これで何回目だろうか。

 一人で飲むときはそうでもないのだが、知り合いと飲むといつもこれだ。一軒目に小汚い駅前の居酒屋に行ったのは覚えている。二軒目で知り合いが、これが美味いのだ、と葱の入った卵焼きを頼んだのも覚えているが、それぐらいだ。後のことは何も覚えちゃいない。

 私は自分のズボンを探る。携帯も財布も無事の様だ。だが、中身までは分からない。こうして外で朝を迎えると、大概中身は無くなっているものだが、今は確認する気も起らない。ひょっとすると、知り合いどもが毎回抜き取っているのかもわからない。介抱もしてくれない薄情な連中だ。十分有り得る。

 だが、今はそんなことはどうでもいい。喉が渇いた。水が飲みたい。

 朝靄のせいで分かりにくいが、どうやら此処は公園だ。ならば水道ぐらいあるだろう。私は病人のようにのっそりと立ち上がって、歩き出す。ナントカいう桜の木が連なっているばかりで、水飲み場も、トイレも、噴水も無い。そんな公園ってあるだろうか。公園を抜けて自動販売機を探そうにも、出口が見つからない。靄と砂と木ばかりである。

 

 三十分も歩いただろうか。

 遠くの方に、水を飲んでいるらしい人のシルエットが浮かんでいた。

 私は一目散に駆け寄り、そこに居た人物を蹴り飛ばしてやった。

 ――ウウウ。

 どうやら中年の男らしいそいつは、苦しそうな声を漏らして蹲る。

 だが、そんなことに構いもせず、目の前の水を貪る。ああ、うまい。酒なんかよりよっぽどだ。

 一頻り堪能した私は、まだ蹲っている男になんか言ってやろうと顔を向けた。

「ゲッ……」

 どうしたことだろう。男の顔は私に瓜二つであった。いや、細かいことを言えば、私より皺や白髪が多いとか、そういった違いはあるのだが、その生まれついてから何度も見た目鼻立ちは忘れようがない。

 なんだか気味が悪くなって、私は男の腹に蹴りを入れた。今度は何も言わなかった。それもまた、却って腹が立って仕方がなかった。

 そろそろ始発が出る頃だろうか。どうにも目が覚めてから一向に明るくなっている気がしない。今日はなにか良いことがあるといいのだが。

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