第95話
壮太はエルベレスと斜向かいに座って談笑中だった。
エルフ萌えの壮太にとってエルフ王とこんな間近に接することが出来る時間は至福そのものだろう。
「よう」
邪魔するぜ、といった感覚で声を掛け、俺は壮太の向かいのソファに座った。
ミケはエルベレスの執務机に座っている。どうやら机の上の装飾品が気になったらしい。
「楽しくやってるか?」
「うん」
エルベレスは俺と同格の王だから、こういう場合、特に挨拶はしない。
壮太は、まあ、この世界に来た後輩と言うより弟のような感覚(特にオタク部分の)があるから、身内の対応で特に問題はない。
「エルベレス」
「はい」
「新大陸に壮太とエルフ達の国を興す。独立戦争が必要だから遊撃隊長をはじめエリカ達第一線の要員を冒険者学校の基幹要員から外す。現在妊娠中、出産直後、年少等戦闘に出すのには相応しくない者に入れ替えよ」
「わかりました」
「壮太」
「うん」
「前にもちょっと言ったが、お前はこれから新しい国の国主として帝国から離れることになるが、冒険者学校の方に未練はないか?」
「え? 冒険者学校は楽しいけど、もう教えることはないって言われてる」
「ほう?」
「あのね、今まで本気になったエルフちゃん達について行くことが出来なかったんだけど、小学校でやった騎馬戦思い出して3人のエルフちゃんに馬になってもらったら、同じ速さで移動できるようになった。草や枝がよけて行くんだよ」
エルフの「馬」に乗った将帥というわけか。
どのような形であれ、森の精霊であるエルフ並みの能力が発揮できるようになったのなら、それはもう教えることはないだろう。
狩りなどは自らの手を下さなくてもエルフ達を操れば容易に出来るのだから。
「そうか。では壮太はこれより公爵として、壮太精霊公国の国主となれ。精霊としたのはエルフ以外の精霊もいるし、獣人もおるからな」
「獣人!」
「ああ、壮太のための独立戦争を行うのは獰猛な連中だが、共に戦うオルニダス王国には犬や猫の獣人もいるから、平和になれば交流が出来るだろう」
「おお」
「しかし、どうしても戦いだからエルフにも損害が出るだろう。戦いの采配は俺が握るが、それは覚悟してほしい」
「えっと」
「ん?」
「どうしてもエルフが戦わないといけないの?」
「自分の国の独立をすべて他人任せにはできないだろう?」
「そうじゃなくて・・・」
壮太は見た目は鍛えられた筋骨隆々の好青年だが、中身は高校生である。
一生懸命に言葉を探しているのが分かる。
「エルフちゃんには戦場の天使でいてほしい」
この言葉にビビビッときた。
俺も元は引きこもりのオタクである。
すぐ脳裏に閃いたのが第一線の救護員だ。
戦争を扱う映画やゲームに出て来る赤十字の腕章を巻いて武器を持った人だ。
一般に「衛生兵」と呼ばれている。
だいたいは小隊に一人くらいの割合で配置されて応急手当を行う。
しかし実戦では負傷者は続々と出るものだし、患者集合点に定められた場所はどんどん遠くなる。自分で歩ける患者ならともかく、一人で手当てをしながら負傷者を後送するなど不可能である。
そこで第二線の配置部隊や予備隊から、応急手当と担架搬送の教育を受けたものを集めて補助担架員を編成して、救護員の応急手当の手伝いや患者集合点までの担架搬送を行う。
これを応用すると
俺の娘たちは基本的なヒールを使うことが出来る。
娘たちを増殖させて第一線に救護員として配置してヒールで応急手当を行わせる。
ただし欠損部位を即再生するような能力はないので、とりあえずの止血を終えた患者を十分な治療のできる(具体的にはタマがいる場所)までエルフに搬送させる。
エルフなら茨が茂った草原だろうが密林だろうが自然物が行動を妨げることはない。
すぐにこのイメージを念話でエルベレスに送った。
「ナイスアイデアだ、壮太」
「そう?」
「ああ、エルベレス」
「はい」
「メルミアに、この学校にある担架を貸し出してくれないか」
「早速訓練をさせるのですね。わかりました。細部は私からメルミアに伝えておきます」
「助かる。頼んだよ、エルベレス」
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