第48話

「あ、わわ」

ヴァイオレットが目を丸くするのも無理はない。

先程まで俺はエルベレスと魔王温泉近くでデートを楽しんでいたが、ヴァイオレットが念話で緊急事態を告げてきたため、デートを覗いていたタマを呼び出し、

俺とエルベレス、護衛という名目で温泉で遊んでいた遊撃隊30名を浜辺に転送してもらった。

同時に傍受したミケは竜娘3人を転送、そして自らはとりあえず王宮にいた娘たち100名を連れて来た。

「あれがそうか?」

挨拶などしている時ではないだろうから用件に入った。

「はい、沖合にあの6隻が現れました」

単独ならともかく6隻もの帆船がいきなり出現して投錨したとあれば判断に困るというのも頷ける。

舷側にある大砲を押し出していないのは、あからさまに砲台と分かる設備を見て取ったからだろう。

「脅しが効く相手かどうか悩み中というところかな」

帆船そのものへの脅威もあるが、さほど多くもない海兵を上陸前に損耗したくないというのもあって躊躇しているのだろう。

帆船が直接接岸できるほど湾の水深は深くない。

「ヴァイオレット、町に外国人はどのくらい残っているんだ?」

「始末した連中以外は沖合に逃げ出しました」

とすれば居留民保護を目的で現れたのではないだろう。

そもそも入国すら許可をしていない。

「漁船を何艘か盗まれたのが業腹です」

ヴァイオレットはもう「自分の町」という感覚を持っている。

「幸い盗まれたのは、高い技術で造船された船ではないだろう。王女に言って予算をつけるから、漁民にはいい船を新造してやれ」

「はい」

「そうなると、あいつらは逃げてきた漁船を見て、未開の住民など捻り潰してやろうと息巻いて来たわけか」

「おそらくは」

「それで、泊地に来てみたら砲台に狙われて、固まっているのか。バカだね~」

艦砲でビビるだろうと高を括ってきたら砲台らしきものを見つけ、望遠鏡で確認したら鉄の砲身を持つ大砲らしきものが据えられていたというわけだ。

俺だったら圧倒的な火力差がない限り逃げるが・・・

「何か旗を上げたり下げたりしています」

「こちとら海洋国家じゃないんだ。わかりやすい方法で知らせてやろう」

「わかりやすい?」

「そこにいると漁の邪魔だってな」

タマがにやりとする。

逃げる口実を与えてやるという意味を理解したという事だ。

それもこちらの戦力を正確に測れないままに。

「タマ、ちょっと魔王の力を貸してくれ」

エルベレスの力で幻覚を見せるのもありだが、帆船6隻という戦力から見て植民地開拓のタスクフォースといったところだ。合理主義の塊の軍人である主力艦隊の上司にそんな報告はできないだろう。

ミケの力は一瞬にして消滅させるような劇的効果を得られる時まで温存したい。

「いいよっ」

「船の手前にでっかい水柱を立ててくれ。ただし、それで起こった波はこちら側に押し寄せないように」

「でっかいのいくよ~」

「船は転覆させない程度にな」

「あいよっ」

タマは掌からポンとハンドボール大の赤く光る球を空中に放った。

その球は放物線を描いて飛んでいき、帆船のかなり手前で水中に沈んだ。

その直後ものすごい高さの水柱が上がり、かなり遅れて凄まじい音が轟いた。

「あ、あれが魔王様の力・・・」

ヴァイオレットの部下達が呆然としている。

エルフ達は竜の攻撃で似たような場面を目撃しているのでふーんという感じだ。

魔物である娘たちは動じない。

帆船が復元力の限界ではないかというところまで揺れているのが遠目からでも分かる。さぞや甲板は大混乱を起こしている事だろう。

水柱が収まると各艦は遁走すべく帆を上げ始めた。

威嚇の意図が伝わったようだ。

「タマのおかげで今日の漁場はあそこで決定だな」

漁民は労せず魚を回収できるだろう。

頭を撫でるとタマはえへへへへ~という顔をする。

「エルベレス、せっかくここまで来たからラミアに会って行かないか?」

「はい、お会いしたいです」

「洞窟へはミケに送ってもらうとして、タマも来るよな」

「うん、行く」

「竜の3人はエルフを乗せて飛んでくれ。上空から帝国を見ておくと地図作りに役立つはずだ」

「御意」

竜を代表してファイアフライが返事をする。

いつも気軽に返事するのは映電だが、代表となったらやはりファイアフライだ。

「娘たちも一緒に行くぞ」

「はい、お父様」


「いらっしゃ~い」

洞窟の入り口でラミアが嬉しそうに迎えてくれた。

ラミアそっくりの魔物たちは駆け寄った娘たちと旧知の親友のように手を取り合って喜んでいる。

まあ、姉妹のような関係であることは確かだ。

時間的にジュリエットは仕事中だろう。

「ラミアは妖精じゃないよな」

「ラミアはラミア」

「じゃあ、紹介するよ。妖精王エルベレス、今は一般的にエルフ王と呼ばれている」

「エルベレスです。あなたも優一の女ですか?」

「んー、違う。私はタマちゃんの女?」

「え?」

「あー、深く考えるなエルベレス」

「ニシシ」

タマは嬉しそうだ。

「実はラミアに頼みがある」

「なに?」

「2つある。まず1つ目だが、ラミアの神殿を町の中心部に作らせてくれ」

「いいけど、私は何をするの?」

「何をしてもいいし、しなくてもいい。目的はラミアを崇拝する者たちが住む場所であると海の向こうから来る者に示すことにある」

「信仰を示す必要があるの?」

「帝国の中ではないよ。ただ、外国の者に対してははっきりと示すことにより、ラミアを否定したり別の宗教を布教しようとすることを敵対行為として排除させることが出来る」

「そうなんだ、そういう事なら自由にして」

「もう1つは結論を先に言うと絶対誤解するから順に言うが」

「うん」

「先程逃げた帆船の奴らが次に使って来る手は、夜陰に紛れて小舟で同時に複数個所に上陸し、砲台や沿岸の村々を焼き討ちし、その後戦力を合一して港町を占拠といったところだろう」

「そうなんだ」

「俺が敵ならそうするってだけで、根拠はないがね」

「うん」

「それで、やるつもりなら計画立案、徹底を含めて早くて明日の夜以降だろう。

奴らの侵入を阻むための沿岸部の巡察と村々の防衛に必要な兵力は3,000と見積もった」

「そんなものなの?」

「娘たちに休憩のための交代はいらないし、3倍以上の敵を相手に出来るからね。それで3,000名の娘たちを今日作って明日には配置したいんだ」

「え?」

「ラミアには洞窟最深部の大広間を使わせてほしい」

「いいけど、何するの?」

「娘を作る」

「タマちゃんが?」

「いや、俺自身が娘に精を注ぐことによって娘は1,000以上の核に分裂する。その核は翌日には元の娘の姿にまで成長する」

「へえ、そうなんだ」

「ラミアになら分裂して成長する娘を安心して託すことが出来る」

「それが本当の頼み?」

「そう、結論から言うと誤解されると言ったのは、ラミアとジュリエットに娘らのお母さんになってもらいたい、ということだからだ」

「なるほどね。でも、お母さんって魔物に必要?」

「必須のものかといえば違うとは思う。だが、「お父様」と懐いてくれるところをみると、娘らには繊細な感情があって全員でそれを共有しているとしか思えない。俺はこの先、頻繁にこの辺りに来ることは出来ないだろう。娘らは感じないかもしれないが、俺としては寂しい思いをさせたくない。ここに来れば魔物仲間もいるし、母親にも会えると思えば、単調で辛い任務でも張りが出ると思うんだ」

「核から大きくなるまでを、見ていればいいの?」

「大きくなるまで外敵から守ってくれたというだけで十分母親としての資格があると俺は思うが、娘たちはどう思う?」

「異存ありません。誰がお父様に抱かれるかは私たちで決めてもいいですか?」

「勿論」

「というわけでミケとタマ、そしてエルベレスは正妻として立ち会ってくれ」

「ユーイチ、そんな義務感を前に出さないで、女は楽しく抱かないとですよ。私たちも混ざりますので」

もともと乱交好きなタマやエルベレスでなく、ミケがそう言ったのには驚いた。

「タマちゃん、私も混ざっていい?」

「いいよ、ついでにラミアの娘も増やそ♪」

「まずはジュリエットが帰ったら説明して、それからだぞ」

「はぁい」

ラミアは余程タマのテクニックが気に入ったのであろう。

表情にも態度にもワクワク感がにじみ出ている。



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