第40話
1
ラミアを送り出した後、転移ではなく徒歩で階段を下りて地下牢へ行ってみると少年少女が10名ほど同じ牢に閉じ込められていた。
おそらくは生餌のつもりだったのだろう。
水と食事は十分に与えられていたようで栄養的に衰弱はしていない。
が、得体の知れない生物と一緒にされて、おそらくはミケがラミアを連れだす時に浄化魔法をかけるまで糞尿も放置状態だったろうから感情や感覚がマヒしてしまっているのは致し方ない。
「よく子供たちに手を付けなかったな」
「飢えても子には手を付けたくなかったのでしょうね。あの連中、人肉を食わないならと、ガラスで吸い取りきれないほどの魔力を持った人間が餌になりに来るのを待っていたのかも」
「連中の意図はどうあれ、しっかり「お食事」はされたが、ミケ」
「はい」
「この子たちが無事なのを見て、ラミアを助けようと思ったのか」
「はい」
勿論、くどくど理由を述べなくてもミケが助けてと言えば助ける。
「お前は優しいな、ミケ」
ミケの髪を撫でながら思案をする。
この子たちを親元に返すにはどうするのが一番良いか・・・
期間は不明だが、攫われてここにいる
つまりは行方不明の状態だ。
地元では神隠しという情報の処理の仕方をされているかもしれないが、親が子を完全に諦めることはないだろう。
「ミケ」
「はい」
「この地域の首長、おそらく港町の長だと思うが特定できるか?」
「はい」
「この子たちを託せるかどうか見に行こう」
「呼ぶのではないのですね」
「偉い奴が清廉とは限らんぞ。俺だってヴァイオレットとつるんでいるわけだからな」
もし首長が黒幕だとしたら子供を引き渡しするのは間抜けな行為だ。
ここにある怪しい「資産」を調査しようとしていなかったのか。
神職のふりすらしない怪しい連中が住み着いていることを放置していたのか。
首長の考えや周囲の人間の様子も確認する必要がありそうだ。
2
港町は朝漁を終えた船の水揚げで活気を帯びていた。
子供の世話にアンビを残し、ミケと2人の竜娘で首長のいる場所を目指す。
「ねえねえ蛍ちゃん」
映電がファイアフライに話し掛ける。
「あれなんだろ」
「さあ?」
話に釣られて右手に停泊している漁船の方を見ると
漁師が巨大な貝を抱えて船から降ろしている。
「でかい貝だね~」
子供っぽく漁師に声をかけてみる。
「おう坊主、でかすぎて売り物にならんからやろうか?」
「うん頂戴!」
竜娘らが駆けて行って巨大な貝を受け取る。
無邪気な子供たちにしか見えていない筈だ。
「おじさん、これなんていう貝?」
「大ハマグリだよ」
「大ハマグリ!?」
「蜃気楼なんぞを吐いて人を惑わす迷惑な奴っちゃ。ハマグリにはちげぇねえから母ちゃんのところへ持って行って焼いてもらいな」
映電が漁師から大ハマグリをひょいと受け取る。
漁師はにこやかにしている。
幼女が自分の身長より大きな、かなりの重量のある貝を頭の上に掲げるようにして持っているのに、不審に思わないのだろうか・・・
「焼くんだって。蛍ちゃん楽しみだね~」
「ね~」
もしかしたら港町の子供は皆力持ちなのかもしれない。
船を離れると漁師は忙しそうに水揚げ作業に戻った。
「映電、それをここに降ろせ」
「はい~」
目の前に降ろされた貝は模様のある二枚貝で、なるほど巨大なハマグリだ。
「ミケ」
「はい」
「魔力で煮炊きってできる?」
「できますよ。掌に軽く魔力を集めて貝に触れ、ゆっくり中身を沸騰させる感じで。そうです。急ぐと炭になってしまうので、ゆっくりです」
ミケがいわゆる生活魔法の使い方を伝授してくれる。
「お、こうだな、温度がだんだん上がって来るのが分かるぞ」
「はい、お上手です」
褒められると悪い気はしない。
「わーちっちっ!!」
その時、貝は開いた。
「なにすんねん!!」
小さな全裸の少女が顔も体も真っ赤にして、開いた貝の中で仁王立ちしている。
磯の良い香りの液体の中で。
「開いたという事は食べごろか?」
もう目の前に精霊が現れたくらいでは驚かない。
映電に至ってはあからさまに「食うところこれだけ?」という表情をしている。
「いやぁぁ、食べないでぇ!!」
騒がしい奴だ。
精霊だけに桁違いの魔力の持ち主と竜という、こちらの正体に気が付いたようだ。
「ミケ、こいつは貝の中でしか生きられない奴か?」
「いえ、契約さえすれば普通に連れ回せますけど」
光の屈折を利用する幻術が使える精霊が手駒として居ると色々便利そうだ。
「おい、お前、食べられるのと契約するのとどっちがいい?」
「そりゃ契約するのやけど・・・」
何か歯切れが悪い。
「ミケ、契約ってどうやってするんだ?」
「え? ユーイチは精霊王と契約されているじゃないですか」
精霊王とはエルフ王、つまりエルベレスの事である。
「あー、つまり、するのか?」
「するのです」
女にするのとイコールというわけか。
「よし、貝から出て来い。小屋に行くぞ」
「え? え?」
「契約が終わったら体の悪いところは治してやるし綺麗な服も着せてやる。ほら、さっさと行くぞ」
なかなか貝から出ようとしない少女の手を引っ張って外に出し、そのまま抱き上げ、お姫様抱っこをする。
映電は貝が閉じる前に首を突っ込んで汁を啜っている。
「さあ、行こうか」
少女は引き攣った表情をしているものの、暴れたりはしていないので拒絶の意思はないようである。
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