第20話

 週が明け、王宮地下に臨時に作らせた作戦室で招致した魔王、エルフ王、ミケ、竜3名及び親衛旅団のリーダーが作戦台を囲んで作戦会議を開いている。

親衛旅団というのはタマに作らせた1,000名の人間型の魔物をもとに先週増殖させた魔物達の事で、勢力が5,000名(頑張っただろ?)に増えたため「親衛旅団」と呼ぶことにした。近衛と紛らわしいからというのもある。

「タマ、状況はどうなってる?」

タマは作戦台に置かれた駒を魔力ですーっと動かして

「命令通り帝国を北上して来た貴族は1割だね。残りは皆東進してる」

「わかりやすいな」

分かりやすいと言ったのは貴族はほぼ辺境伯側に付いたということだ。

今の段階で明確に敵が識別できるのはありがたい。

「ねー」

タマが楽しそうなのは敵が多いほど楽しめるからという理由に違いない。

「1割ということは実質近衛とその関係者かな」

「だね」

「しかし、あからさまに東に集結させてばれないとでも思ったのかねぇ」

「きっとあれだよー。高級貴族だった奴を刑場で見世物にしたじゃん? きっとあれでブルっちゃってまともに判断できなくなってるんだよ~」

「刑場の見世物か。見ていて面白かったか? タマ」

「首がうまく切れなくて何度も大騒ぎしたくらいで、大して面白くもなかったな」

犯罪をほぼ放置していたので刑吏も執行数が少なく腕が鈍っているのかもしれない。

「そうか、まあ、話を戻そう」

「うん」

「約束通り北上した連中を魔王温泉で接待してもらえないか?」

「いいよ。どうせ戦場に行っても役に立たない人ばかりだしね」

「そうだな。もともと期待なんかしてない。よろしく頼む」

タマはにやりとした。

過激な接待にならなければいいが。

「ユーイチ」

「ミケ、いいよ、話してくれ」

「はい。辺境伯オーウェンから貴族への念話を盗聴していたのですが、帝王を打倒して貴族による国の支配、そして領地割譲というエサで求心力を高めています」

「うん」

「そして既に貴族は一族郎党引き連れて主戦場に想定した草原の東側の草原に集結をはじめています」

「急ぐ攻撃か」

「はい、街に入れずに草原で編成をしようとする企図は少しでもこちらが手薄な時期を狙い急襲するためでしょう」

「そしてわざわざ集結させて掌握しなければならないのは、辺境伯に分散した戦力で内乱を起こさせるほどの力量はないということだな」

「飛び回るハエと同じ程度の力量です、今の段階で一気に潰してしまっても構わないのですけれど」

「いやいや、俺としてはせっかく作った親衛旅団とエルベレスの遊撃隊が活躍するところが見たい。ファイアフライと魔物が連携出来たらすごいと思わないかい?」

「つまりは実験ですか」

「ぶっちゃけそうだね」

「あ、各ギルドの親方が集まりました。こちらは休憩にして、玉座の間に」

「わかりました」


 ミケは玉座の後方、普段護衛の近衛騎士が控えている、正面からは死角になる位置に転移させてくれたので、親方たちを驚かせることなく玉座に座ることが出来た。

見下ろすと30人ほどの親方が跪いている。

含まれている若者は代襲か実力か、いやいや今はそんなことはどうでもよい。

「各親方に集まるよう命じたのは他でもない」

何か時代劇の殿様やってるような気分になる。

「辺境伯が反逆者となった」

まあ、普通ならざわざわとするところなのだろうが、誰にも発言を許していないので静寂なままだ。サクサク行こう。

「反乱など手持ちの部隊で殲滅できるから問題はない。問題は辺境伯の領地を徹底的に破壊するので、各ギルドは係累を2日以内に国境の北に避難させよ。北での安全は魔王が保障している」

ここでいったん話を切って各親方の顔色を窺ってみる。

(あれ?皆無表情だ。念話飛ばすのに忙しいんだろうな)

「戦後、現辺境伯領は冒険者の出発拠点として整備をする。まず建築系の木工ギルトと石工ギルドはエルフ王の加護を受け、伐採及び採掘場所の指定を受けよ。現在不足がちな作業員についてはエルフ王を通じドワーフの支援を与える」

エルフ王の加護を受けるということは森林での安全が保障されるということである。

「運輸ギルドについては国庫内にあるアスファルトの使用を認めるので王都から現辺境伯領までの道路を拡幅し、馬車が道路上ですれ違えるようにせよ」

現状は草原であっても道路を外れると凹凸が激しいので対向する馬車と離合するためにはどちらかの馬車が一旦路外に停止するほかなく、時間がかかっている。

「冒険者ギルドは建築系ギルドの支援を受け、拠点を開設せよ。施設を装飾する宝玉等の採掘場所はエルフ王に指示させる。冒険者の経験上げのための魔物及びダンジョン配置については適時に魔王を派遣するので直接調整せよ」

タマがこういう遊びに乗ってこないわけがない。

「魔法使い及び弓使いにについては、時間を掛け育成する必要があることから王都に養成学校を設立する。関連するギルドは設立に必要となる予算の見積もりを始めよ」

これは異世界の設定にありがちな学園生活を目論んだものではなく、エルフの戦闘力と地位を上げるための仕掛けというのが本音である。

「急ぎで物資を確保するのは服飾、靴、パン、醸造に係るギルドである。今回は戦闘に同行する冒険者を公募し、観戦させる予定であるが、もしよい働きがあれば褒賞を与える。そのため登城に必要な礼服や靴も国が買い上げ本人に支給する。紡績や皮加工に係るギルドも含め戦勝の宴を準備せよ」

戦勝の祝賀パーティーを準備なしに行えるはずがない。

平民が礼服など持っているはずもないのでこれは当然の処置だ。

「ミケ」

「はい」

「予算について補足があったら伝えろ」

「はい」

ミケは進み出ると空中に拡大した銅銭を投影した。

ミケは親方にというよりも帝王に報告するような形にして話し始めた。

「現在流通している銅貨ですが、これのみでの現状では、商人が銅貨用の馬車を何台も連ねる必要があり、盗賊の跋扈を許す原因ともなっています。そこで」

銅貨100枚と銀貨が映し出された。

「まずは銅貨100枚と銀貨1枚を同一価値とし」

銀貨100枚と金貨1枚が映し出された。

「銀貨100枚と金貨1枚を同一価値とします」

紙幣が映し出された。

「これはどのギルドでも金貨と交換できるという兌換紙幣で、魔力により強化され、表示された数字通り金貨1枚、10枚、100枚と引き換えらます。正当な所持者が持った時のみ金色に輝き、魔力の付与と消去はギルドでしか行えないような条件付けにしてありますので盗賊にとっては価値のない、ギルド間を行き来する商人にとっては安全な通貨となります」

「銀貨や金貨はいつから使えるのだ?」

「はい、既に各ギルドの地下金庫に統一貨幣と兌換紙幣を送り込み済みです。親方の皆さんは帰ったならば確認をして、各ギルドの帳簿に記載してください」

「インフレが起きないだろうな」

「だからこその地下金庫です。各ギルドの運用資金が増えただけです」

「まあ、后が言うのであるから間違いはないであろう」

この世界の経済は構造を熟知しているミケに任せるとしよう。

「各ギルド長はこの度の反乱制圧の戦いを観戦も参加もできると口コミで広めよ。

従軍して物を販売し稼ぐのも自由だとな」










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