ジャック・スプラット
@yamizawa
第1話 プロローグ
「いやぁホント……言い難い話ではあるんだけどな、小人(こびと)……」
やめてくれ。みなまで言うな。
「俺も上に何とかならないか掛け合ってはみたんだけど……」
分かっている。半ば予想できてはいたのだから。
「ただなあ、その……やっぱどうにもならないらしくって……」
いやマジでやめてくれってばよ。これ以上現実を突きつけられたくない。既に今日ここに至るまでの16年という歳月の中で、嫌というほど味わってきているのだから。
「『サイズ』の問題はどうしてもなぁ。特別に作り直すってわけにいかないもんだから」
そんな内心の願いもむなしく、無情にもその『現実』は目の前に言葉として突きつけられた。言葉を発した当の本人は無意識で、そんなつもりはないのだろうけれども。
「……そっすか。分かりました……」
短く、そう返答するのが精一杯だった。
「あー、なんだその、あんまり気を落とすなって。お前は成績超優秀だし、他の科でも十分やっていけると思うからさ」
「そんな慰めはいらねっす」
「……すまん」
いかん、思わず本音が出てしまった。俺自身、これはどうしようもないことだって分かっている筈なのに。
だが、それほどまでにショックなのだ。物心ついた時から抱き続けてきた夢が、今この場で砕かれてしまったのだから。
身長:138㎝ 体重:45㎏
それが今年16歳になったばかり俺―――小人 琥太郎(こびと こたろう)の『サイズ』だった。
* * *
西暦2025年。当時世界最大の核保有国であったアメリカ合衆国において、核爆弾の爆発事故という、前代未聞の大事件が発生した。管理不全によるものか、それとも何者かによる破壊工作か―――原因は判然としない。ただはっきりしているのは、その事故によって合衆国土の実に5分の1が焦土と化し、何千万という犠牲者を出したという事実のみであった。そしてこの事件をきっかけに、世界は大きく揺らぐことになる。
西暦2026年。アメリカで起きたあまりに凄惨な事件を受けて、核兵器の廃棄を求める声が急増し始める。その声はやがて大きな波となり、世界各地へと広がっていった。
西暦2028年。各国の政府は、もはや核兵器を保持している状態では政権を維持できないまでに、核兵器廃止論は全世界の世論に浸透していた。
西暦2030年。国際連合加盟国、非加盟国を含めた全ての国が、核兵器廃止条約に調印。長きに渡って抑止力として世界に居座り続けた核兵器は、戦争の舞台からその姿を消した。
世界各国が混迷の渦に呑まれている最中、水面下にて粛々と躍進を続ける国があった。アメリカの事件が起きるまで唯一の被爆国であり、先進国においては数少ない核兵器未所持国だった日本である。
世界が核兵器廃止の是非を問うている中で、日本が密かに進めていたことは、主に二つ。一つは、より安全かつ高効率な原子力発電システムの構築。核兵器が廃止された場合、当然各国が持つ核兵器は解体される。故に、ウランやプルトニウムなどの所謂『核燃料』は流通価格が暴落し、市場に溢れるようになる。安価に、且つ効率よく発電を行う為には、原子力発電の発展が急務と言えた。
核兵器廃止条約施行後、目論見通り核燃料の値段は下落。その頃の日本では、地震や台風にも難なく耐え、使用済核燃料すらも再利用が可能な原子力発電所の開発に成功していた。これにより、これまで以上に高効率な電力供給が可能になったのである。
そして更に、発電システムの確立と共に発表されたのが、『大型二足歩行ロボット兵器』の完成。これこそが日本が進めていたもう一つの研究であり、次世代の兵器として注目された切り札だった。
人の形をした巨大な鉄の塊に人が乗り込み、人と同じような動作をさせる。それはさながら鉄でできた巨人が動き回るようなものであり、実際に街中を歩かせるデモンストレーションの映像は、世界中を震撼させた。
正式名称、〝人型二足歩行式機甲鎧(Human Type Bipedal Style Machine Mail)〟。通称『MM(マシンメイル)』が、この世に誕生した瞬間である。
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