27. 彼女と恥と

 ぱくぱくと音がしそうなくらいテンポよく、一膳のあれがそことこことの間を行き来する。

 艶のある頬はきらきらと輝き、はじけそうにすら見える。はじめは控えめにゆっくりと、小さくつまんで食べていた彼女だが、箸の運びはやがて淀みなく、そして今や刻むように料理を口へと運んでいく。

 彼女がみずから嗜みとするところの箸遣いや、決して頬張らず一口ずつよく噛んで食べるのを忘れないところは、いかにも彼女らしい。彼女が身なりも嗜みも忘れて乱れるのは閨のなかくらいのもので、それ以外ではいかなる時にもらしさを崩さない。

 それでいて箸の運びはせわしなく、顔はまさに破顔一笑という具合で、ぼくの作った料理を吸い込んでいく。

 その顔を眺めていたら、訊こうと思っていたことがだんだんどうでもよくなってきた。

 彼女がひとりの時に何をしているのか。そんなことは、この笑顔の前にはどうでもいいような気がしてきた。

 その箸が止まった。気づいて顔をあげると、彼女と目が合った。きらきら輝いていた顔にはわずかに翳りが見える。

「さまは、召し上がりませんの?」

 それが一向に箸をつけないぼくへの心配だと気付いて、さきほどまでの思いが少し恥ずかしくなった。

「食べるよ。きみがあんまりうれしそうに食べるものだから、つい見蕩れてしまった」

 笑顔をつくるが、どうしてもそこに苦いものが混ざる。つまらぬ考えを抱いてしまったことを内心で恥じつつ、箸をとった。

 だが、恥ずかしくなったのはぼくだけじゃなかったらしい。彼女のほほは真っ赤に染まり、目はいつもより潤いを帯びている。

「わ、わたくしそんなに貪りついておりました? なんとあさましい」

「いやいや、そんなことはないよ。決してがっついちゃいないし、むしろいつにも増して優雅に感じられるくらいだ。それに、ぼくの作った料理をそんなにおいしそうに食べてくれると、ぼくとしても嬉しくなる。どうもありがとう」

 内心恥ずかしい想像をしてしまった反動だろうか。恥じらう彼女にいとおしさを覚えてだろうか。彼女を褒める言葉が次々と口をついて出て、賛辞の重ねがけになった。

「いえ、わたくしこそ、本来お掃除とお料理はわたくしのつとめだと申しますのに、さまにして頂いて……」

「気にすることないよ。というかこれからもぼくにさせてくれ。実をいうときみはぼくよりもができる。それが悔しくて、何かほかにできることはないかと思っていたところだったのさ」

 彼女がのときに何をしているのだろうかなんて、そんな疑念を抱いていたことは言わない。よくよく考えてみればこの世界にいるのはぼくと彼女だけだ。彼女がぼくの見えないところで何をしているのかなんて心配する必要もない。

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