29.5-5 ダッシュ、ゼルガ! ジャール要塞へ急げ!!

「さて……ジャールにゲートを開いた筈だが」


 その頃、ゼルガ専用機としてカスタムされたフルーティーは、ジャールへと迫ろうとしていた。バックパックの増設ブースターによって、どうにか武装将軍の拠点として稼働する五角形状の要塞にたどり着いたのであったものの――ゲノム解放軍を率いている上、リキャストのプレイヤーでもある若き王が単身で迫っている筈ながらも、防衛にあたるバグロイドの姿はどこにも見当たらなかった。


「間違いなく罠……そうわかってはいても、電次元に向かわなければいけないのだから辛いのだよ」


 武装軍団が自分を仕留めようと罠へ嵌めようとしているのだと、ゼルガは既に敵の思惑を察していた。実際直ぐに5機程のエネルギー反応を突如捉えた。武装軍団と異なりハドロイド同然の身体を手に入れた者達が動かしていると予測しており、


『この体になっても戦いに縁がなかったけどよ! こんな美味しいシチュエーションって……!!』


 少し遅れてバグファイター1機が電装された。ゼルガ機の懐に入り込むようにデリトロス・ソードガンで真っ二つに引き裂かんと、電装能力を活かした奇襲戦法で攻めかかる。ハードウェーザーではないエレクロイドならこのひと振りで葬り去ることが出来る――どの軍団に所属しているかはともかく、大気圏内での戦場ではなく、大気圏外で名義上防衛という閑職に回されていたパイロットとして今までの鬱憤を晴らす機会だと捉えていた。


「……ないはずだよ」

『そんな、すぐに……ああっ!!』


 しかしバグファイターが右手を振り上げると共に、コクピットが位置する胸部がノーガードになっていた事をゼルガは見逃さなかった。直ぐに右手にしたフィクス・セイバーを展開してピンポイントで胸部を貫き、また一回転するように左手に備えられたフィクス・ブレイカーを薙ぎ払って、バグファイターの胴体を一文字に切り払った。


『お、おい! 確かゼルガが乗っているはずじゃないのか!?』

『中に人が乗っていると分かってる筈なのによ!』


 バグファイターのパイロットが戦慄する――不殺に固執するゼルガらしからぬ容赦ない攻め方は彼らの想定外といえたのだ。遠方からのデリトロス・レールガンで砲撃するものの、ブレイカーを振るわれて、弾丸を切り払われる有様。

さらに、切り払えない筈のソードガンで射撃して攻める相手に対し、ゼルガ機は先ほど切り払ったバグファイターの上半身を左手に持つ盾のように駆使する。偶然か否か、まるでプレイヤーとして実際戦い始めた頃の玲也の戦術に近いものであり、


「リキャストと違えば、流石に無茶は慎しむのだよ……これだけでも立派な無茶かもしれないのだがね」


 ゼルガ自身、機体の性能を踏まえた上で過激な手にも挑んでいるとは分かっていた。ソードガンでも被弾すれば致命傷になりかねないと踏まえた上で、盾代わりにしたバグファイター上半身をすかさず相手に投げ飛ばす。今度はフィクス・ライフルを連射して、その上半身を質量弾として爆散させる、爆発に巻き込まれて怯んだ相手へ、すかさずブレイカーを振るって葬り去り、


『ゼ、ゼルガが何故こうも俺たちに……!』

『不敗のリキャストを操っていたゼルガだぞ!!』

「……君たちは何か思い違いをしているのだよ。このフルーティーだと私でも余裕はないのは認めるが」


 残されたバグファイター3機は、遠方から攻撃を仕掛けようと試みるものの、パイロットが恐慌してしまっている状態からか、レールキャノンやソードガンの狙いも容易に定まらない様子だ。 

 そんな自分が不殺の戦いしかしないと思い込んでいるパイロット達の疑問に、ゼルガは一応答えるものの言葉はどこか突き放したように冷たい。先ほど自分が不殺の戦いしかしない点を突いて、仕留めようと動いていたにも関わらず、まるで命乞いをするような現状は流石に都合がよいと捉えている事もあるが、


「私は地球とゲノムの相互理解を望んでいるのだよ。それで不殺を貫いていたのだよ……」

『な、なら俺たちはその相互理解のために不要だと!?』

「今もなお私を始末するつもりなのに、よくもまぁ都合がいいことを言えるのだよ……」

『そ、それは……』


 ゼルガ自身、淡々とした口調でありながら憤っていた。相手にしているバグファイターのパイロットに対して辟易とした感情が込みあがる。命乞いをかわしながら自分を始末しようと砲撃を繰り広げている様子からして、彼らを信じるほうが無理に等しい。ゼルガからの指摘に自分たちの異常性を理解したのか、それとも彼自身助命されることを望んだのか1機だけ攻撃の手を止めた所で、


「……すまないのだよ。相互理解の足掛かりを踏みにじる七大軍団に情けはないのだよ」


 逆にゼルガ機へ間合いを詰められる結果になったのは言うまでもない。直ぐにブレイカーで胸部を盾一文字に切り裂き、残りの2機も頭部を目掛けてすかさずソードガンの光で粉砕する。メインカメラを損傷させた隙を突いて、ライフルで葬り去った。


「これだけ削れば十分だよ……」


 待ち伏せして奇襲を仕掛けるバグファイター達を蹴散らしたゼルガだが、彼の目の前へとバグファイターが参上する。ただ胸部ハッチが損壊しているのか、コクピットのパイロットを攻撃から守る術がない――まるで棺桶のようなバグロイドであるが、実際にパイロットの姿が確認されていないもぬけの柄だ。


「ゼット・ミラージュでも少し複雑すぎるのだよ……隠れ蓑に使う手立ては今まであったとしても」


 無人のバグファイターはゼット・ミラージュによって生成された実体のあるダミーだ。過去にも隠れ蓑として中に別の機体を潜ませて、カモフラージュを駆使していた事はあったものの、今度はゼルガ自身がバグファイターへ隠れる必要があった――厳密にいえば隠れているかどうかも分からないが、彼はコクピットのシートに命綱としては心細いマイクロワイヤーを巻き付けた上で、どうにか飛び移り、


「ストローネには後で謝らないといけないのだよ、すまない……」


 ゼルガが身を潜めたバグファイターが、フルーティーからの間合いを引き離そうと一人でに動きだす。その際ゼルガが瞼を静かに卸して、精神を集中させていたが――バグファイターのダミーを生成するミラージュ・シーカーはユカではなく、ゼルガの意思によって動かされる。マルチブル・コントロールを発動させていた訳であり、


『ゼルガ様! 反応捉えました!!』

「やはりその手で来た……悪いけど直ぐに来てほしいのだよ」

『……はい!』


 ポリスターからユカの通信を聞けば、彼自身の想定した展開にバグロイヤーは動いていると即座に察知した。実際目の前でフルーティーが砕け散る。二筋の光線が直撃した為だが、妖しく光る眼光と共に、巨大な円盤を背負い、二本角を天に伸ばした黒緑のハードウェーザーがその場には存在していた――ウィナーストだ。


『こうもひ弱なエレクロイドに俺が出るまでもなかったが……おい! 何ぼさっと突っ立って!?』

『――ゼルガ・サータ。ゼット・ミラージュでダミーを作ったと思われますが、おそらく戦闘終了後に』


 ゼルガを討ち取れば大将軍としての面子が保たれる――ガレリオはその本心を隠して彼を相手に悉く蹴散らされたバグファイター部隊の不甲斐なさに当たり散らそうとした。ところがゼルガが健在だと捉えれば状況は一変する。シーラが状況を把握する間もなく二人の間に割り込むように、白銀のハードウェーザーが電装された。


『ゼルガ様早く!』

「すまないのだよ、ここからはいつも通りで構わないのだよ」


 リキャストはまるでバグファイターを、そしてゼルガを死守するようにウィナーストへ背を向けた。同時にバックパックのスクランブル・シーカーからのミサイルを繰り出す事で、ウィナーストを近寄せない。

 この抵抗が一時的な時間稼ぎかもしれないが、その隙にユカのポリスターがゼルガを狙い撃つ。同じコクピットへと乗り移った彼がコントローラーを握ってこそ、リキャストの本領は発揮され


『こざかしい真似を……!!』

「だとしたら一応謝らせてもらうのだよ、勝ち負けと関係ないのだが」


 しびれを切らせたようにウィナーストが電次元スタンを振るう。その巨体を生かして力任せにリキャストを叩きのめさんとするが、彼はどうにか踏みとどまる。それも両手のデリトロス・ブライカーによるバリアーを二重にして防いでいる様子であり、


『両手が使って防いでも、右手が……!!』

「何を言っているんだい? 生憎まだ両腕が空いているのだよ」

『ふざけるな! 現にこうして両手で……がはっ!!』


 ガレリオが指摘した通り、今のリキャストが両手を駆使している状況の筈ながらも、彼の言っている事が笑止めいた内容だとゼルガはすずしげな表情。戯言を抜かしていると彼が憤ろうとした途端、背後からの衝撃波が電次元フロスト目掛けて狙い撃っており、


『何故だ! 何故リキャストが2機も……』

『――ゼット・ミラージュです。最初からゼルガは自ら囮になったはずです』

「流石だよ。けど、これで私も少しは楽になるのだよ」


 シーラが予測した通り、ゼット・ミラージュでリキャストのダミーを生成していたに過ぎない。ダミーに電次元ソニックを撃たせる関係上、負荷を抑える為収束率を落とし広範囲に放射を続けていたものの、一回りも二回りも大柄なウィナーストを前には有効な攻撃となり、実際バックパックの砲身から火花が生じていた。


『――電次元フロストが封じられました』

『わかっている! まだ電次元スタンと電次元バーンが残っている!!』

「戦いに焦りは禁物だよ」


 電次元兵器を3種備えている事こそ、ウィナーストの強みになる筈だったが――1つでも潰された事が想定外だったのか、ガレリオに焦りが生じていた。逆にゼルガは相手の隙を逃すことなく、スクランブル・シーカーを射出する。ウィナーストの首を掻っ切らんと、デリトロス・シュナイダーをお見舞いするものの、首に食い込むと直前で、電次元バーンの直撃を受けて砕け散るものの、


「これでどうにか、引き離すことが出来たのだよ」

『電次元ソニックを捨てる……お前は馬鹿にしているのか!!』

「別に馬鹿にしたつもりはないのだよ。エネルギーが尽きたらデットウェイトなだけだよ」


 スクランブル・シーカーをパージさせると同時に、リキャストは間合いを取る事に成功した。それだけでなく、電次元ソニックまで使い果たしたと見なした為、ダミーがあっさり手放していた。唯一の電次元兵器を軽々と放棄する行動がガレリオに理解できなかったのか、あるいは自分を相手に電次元兵器は不要との姿勢は、彼自身のプライドを傷つけた故かもしれないかは定かではない。けれども、ゼルガ自身まさにいつも通りの姿勢で戦っているに過ぎない事は確かであり。


「ウィナーストは確かに強い、ただ強いだけなら他にもいるのだよとは」

『俺が強いのは当たり前だ! 羽鳥玲也を超えてオリジナルになる事が俺に与えられた道で……』

「ならこれだけは聞くのだよ。羽鳥玲也は私が完敗した最初のプレイヤーだと……!」

『な、何を訳のわからない事を……!!』

『――ガレリオ、冷静になってください』


 玲也を超える事に固執するガレリオへ向けて、ゼルガは躊躇いなく打ち明けた――自分がその羽鳥玲也に完敗したプレイヤーであると。早い話玲也より劣ると宣言しているようなものだが、その弱みをさらけ出しているはずなのに、ガレリオが未曽有のプレッシャーに威圧されているとシーラは捉えていた。


「すまないのだが、少し傷をつけるのだよ」


 リキャストがすかさず、アイブレッサーを要塞の甲板目掛けて照射させる。甲板上空から煙が立ち込め、甲板に風穴が開くと共に自動で射出されたバルーンによる応急修理が行われようとするが、


「間に合いました! このまま行けそうです」

「ゲートを突き止めるには外からで見つからないようだからね……おっと」


 穴が修復される一寸先に、先ほどのバグファイターを模したミラージュ・シーカーを潜り込ませた。内部を探るにあたって、外からシーカーを飛ばして突き止める事は険しいと判断した為だが、


『羽鳥玲也に負けた貴様になんか! 俺は羽鳥玲也から作られたから五分だ……!!』


 ビット・シーカーを繰り出していくウィナーストだが、リキャストは敢えて避ける事はせず、光の矢を浴びるように撃たれようともゲートを見つけ出す事へ専念し、相手にするそぶりも見せない。


『そうだ、それでいい……羽鳥玲也より弱い奴が俺に勝つはずがない!』

「電次元ャンプを使えば避ける事は出来るのだよ……ゲートは突き止められたか?」

「もう少し……反応は大きくなっています!」

「電次元ジャンプが一度でも使えたらどうにかなるのだよ、機体が持つ程度ならの話だがね……」


 さらに電次元バーン迄浴びせにかかってくるが、リキャストはそれらの攻撃も被弾する事を選ぶ。仮に回避したならば、自分たちが潜入した要塞が最悪撃沈される恐れがある。相手の力を利用して、バグロイヤーの戦力を削ぐ点ならばよいものの、電次元へのゲートを喪えば、本来の目的が果たせない事もあった為だ。その為、ゲートを突き止めるまでリキャスト自身が囮としてウィナーストを引き寄せる必要があったが、


「ブリギット・スリラー、有効射程圏内に入りました……!」

「よく持ちこたえたのだよ、カリドス・バーンもだよ」


 電次元バーンを浴びつつも間合いを詰めていく最中、リキャストの胸部からはブリギット・スリラーの射出口が展開される。両手首に仕込まれたカリドス・バーンと併用して超高温と超低温の光線を一斉にウィナーストの頭部目掛けて放てば、彼の頭は急激な温度差に耐えかねて煙を生じさせていた。


『――メインカメラの機能が停止しました』

『わ、わかっている! 何故だ、何故あのリキャストにこうまでも……!!』

「ガレリオ君、玲也より弱い私を相手にどうしてこうも手間取るのだよ?」

「やはり、お前も俺を馬鹿に……!!」

「馬鹿にしているのは君の方だよ」


 頭めがけて、デストロイ・ブライカーを突き刺した頃には巨体だろうとも粉々に砕け散る結果となった。こうも劣勢に立たされるガレリオは、玲也より格下と認識しているゼルガを相手に納得のいかない答えが見いだせない様子。けれども彼の渦巻く胸の内を知った事かと、ゼルガは逆撫でする。それも、天然か確信かは定かではない先ほどと異なり、今の彼はこの一戦で積もる相手への鬱憤や憤りをぶちまけようと転じていた。


「ゼルガ様、まだ時間がかかるかもしれませんから多少は」

「すまないのだよ……私も自分で大人げないと思うのだが」

「それでいいのですよ。玲也様やアンドリュー様のおかげかもしれません」


 ゲートを突き止めるまで、ユカはゼルガが私情に及ぶことを快諾していた。自分自身が感情に走っているかもしれないと自嘲しつつ、変わることなく自分を支え続けるパートナーを頼もしく思いつつ、少し恥ずかしくも感じていたもののの、


「先ほどから君は羽鳥玲也、羽鳥玲也としか言わないようだが……」

『何が悪い! 俺が羽鳥玲也のクローンだと知って聞いているのか!?』

「……その為に、君のウィナーストはスペックでは上だと?」

『当り前だ! 俺は天羽院様から与えられたこのウィナーストで羽鳥玲也を超えると……』

『……それで超えるつもりなら、羽鳥玲也への冒涜もいい所だよ!!』 


 一転してゼルガは吼える。ウィナーストが備える電次元兵器の数なら3機分であり、クロストをもしのぐ巨体が3機分以上の力を裏付けている。それで玲也に勝てると断言するならばと、彼に成り代わり好敵手としてゼルガはキレた。


「……出来る事なら君を冥府にでも送りたいのだよ。時がこれ以上怒りに駆られることを許してくれないようでね」

『おい、待て! 俺の前から逃げるのか!!』

「ゼルガ様には別の目的がありますから……」

「それもだし、これ以上君と戦うのも不愉快だと言わせてもらうのだよ……!!」


 乗り込むべき電次元へのゲートが、ユカの手で突き止められた――それは同時にゼルガが私情による戦いではなく、本来の目的へ立ち返る瞬間を指す。電次元ジャンプにより、ミラージュ・シーカーが突き止めたとある区域へと目標点を指定する。


『不愉快と俺を見下すなら、お前こそ地獄の底に……‼』

「みんなを頼むのだよ、アンドリュー! 玲也の事は任せましたよ……兄上!!」


 玲也を超える事だけでなく、自分の力を頑なに否定するゼルガへも倒すべき相手として、敵対心を向け始めたガレリオだが……逆にゼルガが彼の事を眼中にないと言いたげであった。電次元へ飛ぶ彼は、パッション隊達率いるオール・フォートレスをアンドリューへ託すものの、同時が玲也を託した人物は既にこの世にいないはずの男だった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「マルチブル・コントロールのギアまで作られるとは思ってもみなかったが……」


 ドラグーンから飛び立ったティービストにはレクターが搭乗していた。玲也たちにマルチブル・コントロールを会得する必要性や術などを伝授し、一先ずの役目を果たした彼は、大気圏内でのバグロイヤーの活動を逐次報告する為に艦を後にした。

 だだマルチブル・コントロールで、玲也自身へ必要以上の負荷をかけない為に、ワイズナー現象の力を制御する必要があった。その為のヘッドギアが急遽開発されたとの事だが、


「素顔を晒すのは少し抵抗感があったからな……」


 玲也の為に開発されたヘッドギアは、レクターのヘルメットを基に設計された。ただ彼自身直接ヘルメットを外すことに思う所があり、ヘルメットの設計図をデータで送ることで代用していた。

 そして今、狭いコクピットの中で他に相手がいなかったのだろう。レクターが自ら漆黒の仮面をその手で外した瞬間、刈り上げたような銀髪の彼の両眼には既に光を宿していない。ただタグが光り輝いたままティービストは操縦されており、


「眼も、耳も、口もこのヘルメットなしで最早機能しない。これではゼルガに合わせる顔もない」


 今のレクターは彼が両手で保持した、ヘルメットのスピーカーから彼の言葉が語られていた――セインによって既に本来の五感が破壊された彼は、レクターとしての姿によって人工的な五感を維持されていた。既に光も音も感じ取れない本来の彼こそ、ゼルガから信頼を置かれた異母兄マックス・リーその人であり、


「俺がまだ生き延びているだけ幸いだ……所詮ゼルガの影として一度は命を捨てた事を考えればな」


 ゲノムから解放軍を率いてゼルガ達が脱出するにあたって、マックスはその異母弟を逃がすため単身敵陣へ突入したまま消息が途絶えた――今の彼はほぼ機械の体として生き永らえ、再びゼルガの影として動くことを選んだ経緯だが、


「こんな俺でもバグロイヤーを討つ理由がある……だろ、ブルーナ?」


 マックスとして、良きパートナーとなるブルーナの事を脳裏に思い描く。バグソルジャーとの戦いの中、彼女もまた既に命を落としていた筈だが、かすかにマックスの右手はティービストのシートへと触れていた。ぎこちない手つきで撫でている様子だが


「魂はいつも一緒だ……ともにバグロイヤーを討とう、地獄も極楽も一緒のはずだ」


 お前が死ねば俺も死ぬだろう、俺が死ぬとき死ぬかお前も――亡きパートナーの魂はティービストそのもの。マックスはレクターという新たな姿で残された命をバグロイヤーとの戦いに捧げる覚悟で単身大気圏内へと乗り込んでおり、


「俺も微かに期待していたがな、ゼルガを打ち負かした男の力になれるのも、また面白くてな……この姿になった意味がある」


 かつてゲノムの地で行動を共にした玲也への再会が、以前にもまして彼の魂を揺さぶるものとなった――ゼルガを本当に負かしたプレイヤーへと彼が成長した時、ゼルガだけでなく、幼い頃から異母弟の実力を熟知していた筈のマックスの心も共鳴していた。


「この体で初めてマルチブル・コントロールを使えるようになったが、ゼルガは自力で発動させた。流石俺が見込んだ弟だと言いたいが……」


 マルチブル・コントロールを会得するにあたり、自分自身より、ゼルガがその力を会得した事をの方を喜んでいたのだろう。ヘルメットからの声も少し弾んでいたが、その途中でマックスはヘルメットをかぶり直し再度レクターとしての姿へ変わり、


「そのお前に勝った玲也も同じ事が出来るなら……俺はどうなろうとだも‼」

 

 ゼルガを支える為に一度捨てた命が惜しいものか――彼からの命として玲也の力になろうと固く誓うと共に、ティービストは北極へと進路を取っていた。

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