23-3 斗え才人、ロクマストに勝て!

 ――多少予定が変わったものの、シミュレーターによる模擬戦が行われることとなった。ドラグーンのシミュレーターが2台増設され、4人での同時対戦に対応した事もあり、2対2の対決が実現したとも言えるが、


「スペックとしてはジェラフーに分があるが、シャルを選んだのは少し一方的過ぎたか」

「いや、ラグレーは甘く見ちゃいけねぇ……あんたに言いたくないけどよ」

「ラグレーさんはまだ子供でしてよ? 貴方が玲也様を好かないのは分かりますが、そこまで見くびられるますと!」

「いや、そこまで俺言ってないけど!?」


 エジプトとケニアのハードウェーザーは共に第2世代であり、ヴィータストとスフィンストにスペックでは勝っている。ただシャルの腕ならば、多少のスペックの差をものともしない腕を備えており、スペックの差を補った上で優勢ではないかと捉えた所であったが――シーンはラグレーが並みならぬ腕を持つプレイヤーだと玲也に釘をさす。玲也シンパ筆頭格ともいえるエクスは、玲也を嫌うが故の嫌味だと彼を見なしていたものの、今回は流石に違うと必死に否定した所


「ラグレー強いよー、ステファー負けた事あるよー」

「……どうだ、分かっただろ?」

「いや、あんた負けといてそういうのもどうかと思うけど」

「確かサンディストだったな……」


 ステファーのユーストが模擬戦で敗れた――プレイヤーとしての彼女が危なっかしいとはいえ、腕は少なからず立つ。オーストラリア代表の口ぶりに玲也は少し考えを改めて、ポリスターから登録されたサンディスト、ケニア代表としてのハードウェーザーのデータに目を通す。モスグリーンで塗られた重厚な装甲に身をまとい、角のように展開されたドリルに加え、マニュピレーターで保持されたメリケンサックを保持して殴りつける映像が再生されており、


「わしのジーボストと似ちょるのぅ。こうびくともせずに強引に突っ込んどりそうな所とかのぅ」

「ラルさんのジーボストにウィストを足して2で割った印象だ。ブレストにも近い」


 同じ白兵戦を得意戦局とするウィストが、ビーム兵器を主体とした高威力の武装に重点を置いた先手必勝型としたと仮定するならば――このサンディストは肉弾戦での殴り合いでぶちのめす重装甲型と玲也は見なした。実際装甲の強度でブレストより上回るデータを記録している事もあったが、


「そのサンディストが凄いのは分かったけど、ロクマストはどうなのよ?」

「……サンディストが陸戦特化ならば、ロクマストは水陸両用。動きは鈍いが同じ重装甲となれば」

「いや、そりゃそうだけど中の人だよ、ほら……」

「ステファー負けたことないなー」


 ロクマストもサンディストと同等のスペックを誇る筈だが、シーンの歯切れが妙に悪くなる。ステファーに彼が勝てない事は左程おかしなことではないと一同は捉えていた所、


「まぁ、ロディと戦った事はないけど……その様子ならいい勝負になりそうかな?」

「あんた、まだいたの?」

「まぁね、僕に1度も勝てなかった才人といい勝負をしそうだしね。プレイングを予測するのも面白そうだからね」


 少し遅れてオランダ代表の二人が着席する――ニアが如何にもうんざりした表情を述べているものの、彼は自分がこの試合を観戦する理由があるのだと涼しい顔で述べる――才人とロディの二人が自分に及ばない同程度のプレイヤーだと蔑視めいた感情だが、


「お前、俺が別に戦ってないなら見る価値はないのでは」

「ラグレーの事は僕もよく知らないんですよ、ステファーが負けたと聞けば少しは骨がありそうですし」

「ラグレーはまだしも、ヒロさんがどう見るか次第かな……おっ」


 玲也としても内心辟易した感情で、ソラがこの場に留まっている事を尋ねる。彼は苦笑しながらも、ラグレーに関して少なからず興味がある事を見届ける理由と述べるが――幼い彼ならソラに引き込まれる事があれど、ヒロの目が黒いうちは及ばないだろうと彼の野心へ冷めた言葉を返す。

その最中、大型モニターには4機が揃って電装された様子が映し出される。2対2の対決ながら、それぞれ1対1の戦況を作り出していた事へ口元が微かに緩んでいた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「うひゃあ……いきなり無茶苦茶攻めてきても」

「落ち着くパチ! 真っ向からぶつかってもパワー負けだパチ!」

「けど、思っていたより素早いです! あれけは直撃しないようにしましょう!!」


 スフィンストの目の前に電装されたロクマストは、開幕早々猛攻を畳みかける――オリーブ色の機体が、尾に備えられた“リーンフォース・スクリュー”を突きだして畳みかける。バックパックとして備えられたトート・シーカーが、彼へ肉薄するための増設ブースターとしての役割を果たし、設けられた6門のEキャノンの射角を放つことで、隙を最小限に抑えていた。


「あれを何とかしたら、隙も生まれそうですけど」

「だ、だったらレールガンをぶっ放しちまったらいいんじゃね!」

「バカ! ここでぶっ放したらバランス崩して……パチィ!」


 スフィンストはフレイム・バズソーでリーンフォース・メイスをはじいて防戦に徹する。ロクマストの重装甲を前に攻撃が容易に通らない事からして、フレイム・レールガンか、ニードリッパーに限られる。ただどちらも下半身に存在するが故密着した戦況から、展開する余裕もなく、


『南出才人……正規のプレイヤーではない事も納得がいく!!』

「にゃろう! 人の嫌な所を言いやがって!!」

「才人さん、落ち着いて! 挑発に乗ると思うつぼです!!」

「わーってらぁ……けど。シャルちゃんの方は上手くやってるのによぉ!」


 イレギュラーな経緯でプレイヤーとなった――ロディに指摘されれば、思わず才人が怒りと焦りに駆られそうになる。イチに宥められて踏みとどまるも自分と違い、シャルは上手く立ち回っているだろうと少し羨んでいた時に小型モニターへ目を向かわせる。ヴィータストが空中から砲撃戦で攻めており、サンディストが得意戦局に持ち込むことが出来ずトリケラ形態で逃げの一択だ。


『シャルとかラグ坊の事甘く見てるな……ヒロさんもなかなかだぜ』

『アグリカ、余の一方的な攻めも素晴らしいだろう』

『……はいはい、ったくあたしの身にも少しなってみろよ』


 防戦一方のサンディストは、ロクマストの元にヴィータストを引き寄せる為に逃げの芝居に徹していた。これもアグリカと示し合わした作戦の為であり、ラグレーをヒロが上手くコントロールしている様子へ彼女が感心する――当の自分のパートナーが自分本位の考えであることには辟易していたが。


『どうした、余が勝利することが面白いと貴公は思わぬか?』

『はいはい、本当にそう言ってお前が勝てばな。今パージするぞー』


 ロクマストがその巨体でリーンフォース・メイスを畳みかけるようにして攻めているが――アグリカがロディの操縦で姿勢を崩さないようにフォローしているおかげでこの技が存在するものだが、ロディは自分の腕そのものと豪語するような姿勢ではある。

 そのような尊大なパートナーに対し、彼女が白い眼を向けつつもトート・シーカーを射出する。サンディストの上部から分離したホルス・シーカーへと接続されると共に、トート・シーカーへの前方に接続され、


『なるほどね……海陸空、レッド・ブルー・イエローってパターンかな?』

『色はどう見ても違うと思うが……いや、堕とすに越したことはない!』


 海のロクマスト、陸のサンディストだが、互いのシーカーを合体させセクメト・シーカーとして空を制する存在となりうる。2門の主砲ストリーム・ランチャーがヴィータストを執拗に狙う様子からして、ヴィータストがエレクトロ・バズーカで撃墜を狙うものの――レーダーからサンディストの姿が消え失せた。


『まさか……電次元ジャンプ!?』

『その通りでございます……ご覚悟を!』


 微かにヴィータストのコクピットが影に覆われたと確信したシャルだが――ヒロの丁寧な物腰ながらも、その言葉には獲物を仕留めたと確信した鋭さが漂っていた。ヴィータストの上空にサンディストが電次元ジャンプで馬乗りにならんととびかかると、


『こ、こいつ思っていた以上に……!!』

『このままじゃ、真っ逆さま……あぁぁぁっ!!』


 空戦主体故軽量化されたヴィータストからすれば、サンディストの全重量を支えながら飛ぶ余裕はなかった。それだけでなく、高度を維持できず失速しつつあるヴィータストに向けて、両肩からのナックルガードがとびかかる。ワイヤーで接続された“ライジングラッシャー”が巻き付くや否や、電撃をヴィータストへ浴びせかかって追い打ちにかかる。


『玲也様を参考に試してみましたが……!』

「それって、もしかしてあの時の……」

『左様でございます、先人の貴方がたから学ぶ術は多いですからな!』

「……出来る奴か!!」


 ヒロが触れた通り、以前ヴィータストと挑んだクロストが電次元ジャンプで宙から攻める手をサンディストは応用した術であった。さらに言えばサンディスト自体の全重量とライジングラッシャーを駆使し、ヴィータストの動きを封じる独自の術も編み出していた。

 彼の戦術眼にウィンが改めて警戒を覚える中、サンディストが変形を開始した。両手足が伸展すると共に上半身が左右に分割されて両肩を形成する。襟巻が左右に分割されると共に、バイザーが露わとなったことで、


『出来れば前から仕留めたいものでしたが』

『ストリーム・スクリューだぺよ!!』

『うわぁぁぁぁぁ……!!』


 拘束したヴィータストを逃がさまいと、胴体目掛けて風穴を開けようとストリーム・スクリューを突き付ける。トリケラ形態の角がドリルのように回転させていくと共に、背中へと風穴を開けんとする。


『離せ、このまま道連れにするつもりか!?』

『いえ、道連れではございませぬ。冥土の旅へと貴方がたを誘わせるつもりですぞ』

『名付けて、クロスダイ・プレッシャーだべよ!!!』

『む、無茶苦茶だ……!!』


 背中を抉られたヴィータストにセーフティシャッターが展開された――ウィンが触れる通り、このまま地面に叩きつけられれば、サンディストも巻き込まれる筈だが、ラグレーは物おじしない。さらにヒロは、この無鉄砲なようで彼らなりに練った作戦で攻めかかる姿勢を見せつける事から、シャルは思わず身が震えた。


『若の柔軟性と運動神経は野生そのもの。そのように自由な若を私は支えていますからな……』

『爺、このまま叩き落としてよいっぺかー!』

『おぉ、構いませんぞ。これでヴィータストもお終いですからな』


 ヒロの触れる通り、ラグレーは熱帯の森林地帯で動物と戯れながら育ったことで、大人顔負けの運動神経を備えている。その一方よく言えば純粋だが悪く言えば無軌道な彼の弱点を、執事として参謀としてヒロが彼の操縦をトレースした上で戦術として昇華させる事に成功していた。

 エジプト代表と対照的にケニア代表はプレイヤーとハドロイドの連携が抜群に取れている。それが大胆かつ繊細な戦術を織りなしているのだとシャルは気づくものの、


『才人っち、そっちはどう!』

「いやこっちもやばいから! 圧されっぱなしだけどよ!!」

『こっちも同じだからさ! 悪いけど、僕のエレクトリック・ファイヤーを頼むよ!』

「えぇっ、何いきなり……」


 シャルはすかさず才人へ通信を送ると共に、ヴィータスト・ボトムをパージさせる――これもサンディストを乗せたまま、高度を維持できない故、両足が足枷に近い状況でもあった為だ。


『ついでにこれもあげる!!』

『何、くれるっぺかて……のわっ!』


 さらにポータル・シーカーをパージする術を取るが――質量弾としてサンディスト目掛けて突撃させる事で、彼を怯ませる術に出たのだ。接触すると共にサンディストがのけぞり、微かにライジングラッシャーの拘束に緩みが生じた。すかさず両手首の拘束が緩まった途端に、左右から曲線状に光線が飛べば、ワイヤーが千切れ飛び、


『こっちから出させてもらおう! ハイドラ・ゾワールでね!!』

『これも玲也君の時に使った手だよ!!』


 エレクトロ・キャノンの軌道を誘導させ、ライジングラッシャーを潰した後、今度はハイドラ・ゾワールを浴びせにかかる。シャルが触れる通り同じクロストと勝負を繰り広げた事と同じ術であり、


『何と、シャル様らは私たちを道連れに……ぐほっ』

『だったら串刺しにするっぺよ!!』

『こ、このままでは逆にこちらが!!』

『才人っち、早く! 早く受け取って!!』


 逆に電撃へ喘ぎながらも、ヒロはヴィータストが相打ちを狙おうとしていると気づかされる――サンディストをのけぞらすことまでは出来ようとも、馬乗りの彼を引っぺがすまでは出来ない。両足と別にシーカー迄パージしたならば、最終的に墜落する事は避けられないであろう。

 ハイドラ・ゾワールの電撃でサンディストの動きを封じようとするものの、両腕のマニュピレーターを変形させてもう一押しと攻めかかる。ストリーム・スクラッシュで四本のビーム刃を展開して背中に爪を突き立てており、


『くっ、シーカーは残したかったが……』

『いや、まだ勝負がついてないよ……それまで持ちこたえないとね!』


 さらにパージしたポータル・シーカーもまた、ストリーム・ランチャーに堕とされる結果となった、スフィンストへ後を託すためにも必要な術と、ウィンが歯ぎしりをしていたものの、当のシャルはどこか穏やかな様子でこの戦いを向き合っていた――あくまでこの勝負は2対2、スフィンストに全てを賭けたらまた話は別かもしれないと言わんばかりに。

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