22.5-2 隠し玉! ブラジルの不沈艦現る!!
「セ、セーフ……!!」
ドラグーン・フォートレスのブリーフィング・ルームへと、二人とも慌てるように乗り込んでいった。既に机には8人の男女が似たようなジャージ姿でスタンバイをしていたはずだが、
「あいたっ!」
「どこがセーフだ、どこが」
「アンドリューさん! 朝9時に集合でしたら間に合ってるはずじゃないですか、ほら!」
軽く呆れたのちに、アンドリューはすぐさま手にした竹刀で、才人の頭を軽く叩く。少し涙目になりながらも彼がポリスターに記された現在の時刻――8:59を見せつけて抗議するが、
「才人っち、こういうのは最低でも5分前に着くもんだよ。それが暗黙のルールだからね」
「シャルが言うのも珍しいがその通りだぞー。最初に着いたのがシャルだしなー」
「それに引き換えおめぇは……というかなんだ、その荷物は!」
シャルの言う通りと周囲が頷き、明らかに集合時間ギリギリに到着した才人の方に問題があるともいえた。そんな彼だが、4つもの鞄をその両腕にぶら下げており、アンドリューの竹刀がその内一つの鞄を何度か突いた。
「あぁやめて! これ結構プレミアついてるんだから大事に扱って……って何開けてるんすか!!」
「何々……“音速雷神ラスベガス“、”エスパーメカ大混戦”、“アパッチゲッターJ”……」
呆れつつもしびれを切らせると共に、アンドリューが鞄の中の物を漁っていく。するとロボットアニメの映像ソフトや音楽ソフト、それだけでなく合金トイまでもその鞄にどうやって詰め込んだのかと思わされるほどの量が溢れかえっており、
「……おい、まさかこの為にギリギリまで粘ってたとか言うんじゃないだろうな」
「確かそなた、隣の部屋を物置として使うと言っていた気がするが……」
「……すみません、才人さんの運んできた物があまりにも多くて部屋一つで収まらなかったのです」
「……」
この溢れかえる荷物に対し、ウィンが思い当たる節がある――イチへ尋ねた結果、案の定図星であり、部屋一つを占領するだけの荷物、それも彼自身の趣味にあたる私物ばかりだったという。どこか顔が青ざめている才人を他所に、無言で彼女は壁に置かれた竹刀を手にした時、
「この大馬鹿者がぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あがぁぁぁぁぁぁっ!!」
すかさず才人の左肩を目掛け、背後から一太刀を浴びせた。彼の悲鳴がまるでブリーフィング・ルームの外にまで響き渡るようで、玲也たちが耳を塞ぐ程。それだけ彼に襲い掛かる痛みは計り知れないものであったが、
「ウィンさん、いくら何でもそれはやりすぎと……」
「やりすぎも何もあるか! プレイヤーの為の強化合宿は遊びではないこと位分かるはずだろう!!」
「ご、ごめんなさい! 僕の方からも以後気をつけます!!」
「いや、そなたではなく才人、貴様が問題だから私は言っている!!」
合宿は遊びではないとウィンが才人を窘めるのだが、振り下ろした竹刀はおそらく全力によるものであり、才人が左肩を押さえつけながら暫く声にならない声をあげながらその場から立ち上がれずにいた。
「まぁこれ位にしとけー、何発もぶったら才人が無事じゃすまないからなー」
「リタの言う通りだ。ここでオダブツになったらこの合宿もパーだからよ」
「す、すみません……」
「失礼するでやすよー」
ハドロイドとしての力で才人を折檻する事は、最悪命取りになりかねない。一発で留めておけとアンドリューに諭された事もあり、竹刀を振り上げるその手を下したと同時にドアが開く。つなぎ服姿の初老の男――ジーロの姿があった訳だが
「ジーロ……ってことは間に合ったんだね!」
「遅くなって申し訳ないでやす。シャルの言う通り何とか間に合ったでやすよ」
「あれ、ジーロさんはともかく、その子は……」
「あぁ、そういえば玲也さん達と顔合わせするのは初めででやすね」
ジーロの隣にピンク色のつなぎ服を着用した人物の姿が見えた。彼の後ろに隠れているその人物はシャルを少し大人にして、背を伸ばしたような外見をしており、胸元のふくらみは彼女よりは主張するだけはあった。
「ミーナです、パパのお手伝いでコンパチ君を作りましたです……」
「パパ……って、ジーロさん結婚してたんだ!!」
「ニアさん、あっしも男でやす。当然結婚して子供も設けてやすよ……」
栗色のショートヘアーを持つ彼女はミーナ・サードス――ニア達と変わらない年ごろと思われるが、彼がコンパチというシャルが頼んだ物を手掛けるにあたって協力を仰いだ人物でもあった。アンドリューが微かに彼の妻について触れていた事も含めて思わず一同が驚愕するも
「あっしとランの娘だけあって、ミーナもなかなか腕が立つんでやす。コンパチ君を作るのに専門分野でやしたから」
「パパ、恥ずかしいです。シャルちゃんの期待に応えられるものか分かりませんが……コンパチ君―大丈夫ですよー」
“コンパチ”というサードス親子の発明は彼女の鞄から飛び出るようにその姿を現す。1世紀前になる携帯ゲーム機を彷彿させる外見から、小さな両手足が展開、液晶画面に電源が入った途端、
「コン、コン、コーンパチ、ロボットだパチ、シャルとジーロに作られたパチー、四角い体に液晶画面……」
「……一体何だ。あとその曲もだが」
「起動アラームですが、止める事も設定でできるのです。コンパチ君―、もういいですよー」
「……分かったパチ」
この自己紹介ともとれる奇妙な歌に周囲が呆然としたものの、ミーナの合図と共に液晶画面に表情が浮かび出る。直ぐアンテナが垂直に展開されると共に彼は口を開く。
「オレがコンパチ、シャルに頼まれた教育型コンピュータとして作られたのがこのオレパチよ」
「……何か随分偉そうだなー」
「そんなつもりで組んだんじゃないけど、ジーロに送ったデータでこうなるのかなぁ」
「いや、このサイズに必要なデータを詰め込むのが結構大変でやしてね、シンヤさんにも手伝ってもらったんでやすよ」
「あぁ……」
現れるや否やいきなり態度のでかい自我を持つコンパチに対して、困惑が生じつつあったもののジーロの話ぶりから、シンヤの魔改造によってシャルの要望するスペックを満たすことが出来たそとの事――頼む相手が頼む相手であると玲也をはじめとする一同は言いたげな表情であったが、ジーロが胸を張っていた様子もあり、彼の腕を信頼した上で協力を要請したのだろう。
「アンドリュー、90%以上。シャル、70%前後。ハードウェーザーの性能をハンデと考えたらもっと上がるパチよ」
「私たちが70%? 何を指しているかだが……」
「プレイヤーとしての腕を数値化したんだよ。僕が知る全員のデータから今の自分の腕が分かる仕組みで……」
「南出才人、20%前後! お前パチなぁ!!」
コンパチ早速プレイヤーの腕を数値化する演算能力を披露する。アンドリューやシャルの腕をパーセンテージで評価すると共に、才人の能力を測定した途端にさらに口調が荒くなる。彼の腕が拙い事に苛立ちなり、呆れなりが入り混じった感情を叩きつける。
「まぁ操縦を身に着けても、あんた負けてばっかだもんね」
「相手が悪すぎるのもあるけど、どう立ち回るかの補う為作ったんだよ。そうでもしないと間に合わないし」
「うう、シャルちゃん迄俺の為にってのは嬉しいけど……」
才人がディメンジョン・ウォーをクリアしていない腕にも関わらず、プレイヤーへと抜擢された――これが世界各国のプレイヤー達と大きく異なる点であり、彼らと渡り合えるだけの腕を備えていないとなれば、今後のバグロイヤーとの戦いに対応できるかどうかが分からない。
シャルは才人の実力差は半分仕方がないとフォローしつつも、その弱点を補うために教育型コンピューターのコンパチを組んだ。以上の経緯を部外者だったアンドリューが聞くや否や、
「俺も後で言おうと思ったが……今回の合宿を考えたのも才人、おめぇが至らねぇからだ!」
「ちょ、ちょっといきなりっすか、アンドリューさん!!」
「別にあたいらが才人だけを扱く事もできたけどよー」
「スフィンストがヴィータストと同じ……つまり連携を前提としたハードウェーザーですからね」
3人のプレイヤーの中で、初心者同然の才人が足を引っ張っている為彼を底上げする必要があると共に、ヴィータスト、スフィンストとの連携を強化する必要がある――その目的は、玲也とシャルにとっても納得がいく理由であり、
「だからステファーもシーンもここにいないのね」
「あいつらはジェラフーの方で、新しい奴らの特訓に付き合ってるからなー」
「まぁシャルさんは仕方ありませんが、シャルさんだけで手を妬きますからね」
「もう! また行き遅れが僕をのけ者に!!」
「また行き遅れですか、相変わらず貴方は!!」
ステファーらオーストラリア代表もまた、ケニアとエジプト代表共々強化合宿に身を投じている――エクスが胸をなでおろすのも、ステファーが玲也へ隙あらばアプローチを仕掛けてくる相手であり、予想できない点も含めて油断ならない相手である。シャルだけで済んだらマシな方だと彼女が触れるも、そのように扱われれば、当の本人は良い気ではない一種触発の空気が流れる中、
「けど、今日はあいつ来てないわね……あんたの所のさ」
「あんたの所のあいつ……エクスの誰かかよ?」
「……アクアさんの事です。ほらオランダ代表の」
この不穏な空気を換えようと、ニアがアクアの事を触れた。オランダ代表が何故唐突に話題へ出てきたか、フォートレスから暫く離れていたアンドリューはピンとこなかったものの、玲也がここ一週間の経緯を説明すると、
「つまりそのオランダ代表とかが、エクスが心配だとかでよく来てたって訳か」
「それもだけど、プレイヤーのあいつがやたら玲也君ばっか気にしててさ!」
「どうも気に食わん……腕は才人よりあるとしてもだ」
「ちょっとウィンさん、俺の前でそういうのやめて!」
アクアがエクスへ過保護で、度を過ぎた干渉をしてくるのと別にプレイヤーの方にもどうやら問題があるらしい。ウィンが言うには、玲也へはやたら興味を示してくるのに対し、自分たちがスルーされている事が面白くないとの事。オランダ代表が揃って問題児だと玲也が頭を抱えていた中、
「今聞いたけどなー、あいつアレ喰らったらしいぞー」
「……アレとなれば」
「メルさんを怒らせたのですね」
ポリスターでアクアの一件をリタが尋ねた所、彼女がメルのアレを受け、恐怖のあまり錯乱状態に陥り、エクスを気にかける余裕すらない状態――何やらマーベル達が玲也に敗れた事を触れて、彼女がエクスに跪くのが道理だろうと主張したために、メルまでブチ切れさせたとの事であり、
「あ、頭が……変ですわね」
「……これは流石に同情するわ」
「マジかよ……マーベルだけで俺も手一杯だけどよ」
そもそもマーベルを破った事は自分ではない事もあるが、自分を祭り上げる為としても強引かつ無礼にも程がある。エクスでさえ頭痛を覚える程であり、ニアですら彼女が気の毒だと思わずにいられない。そしてアンドリューさえも、ここ一週間でのオランダ代表の問題児っぷりに思わず頭を悩ませていた――まともにアクアとかかわった事がないにもかかわらずだ。
「とにかく確かアイラが代わりに来てくれっからよ、俺達も早く行かねぇとな」
「そうですね……ブラジル代表の方と会うのも初めてですしね」
既に出発時間が過ぎており、アンドリューの一行は早速オークランドの別荘へと向かおうと転送装置の元へ一同が足を運ぶ――そして玲也の胸の内に期待が高まりつつあった。そのアンドリューが隠し玉として鍛えていたブラジル代表と初めて出会うのだから。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「……と、あっという間にオークランドに着いた訳だが」
瞬く間にして、玲也たちはオークランドに設営された別荘へと訪れる。玄関周りはホテルの出入り口のように整然としており、外の景色をそろって一同が振り向くと、
「ちょ……玲也ちゃん! 外雪が降ってるんですけど!!」
「才人さん、オークランドは南半球ですから今、真冬ですよ」
「そ、そんなぁ……俺てっきり夏だと思ってたのに……」
見慣れぬオークランドの雪化粧について、リンが説明した所才人は納得するも両肩を項垂れさせながらニア達に目をやっていると、
「才人―、あたいらの水着姿が見たかったんだろー?」
「り、リタさん! 俺別にそんなやましい事考えては……」
「ったく! 本当にこんな様子で彼は大丈夫ですか、本当」
「待ってました。玲也君、シャルちゃん、才人君ですね……」
すぐさま才人の下心はリタに看破されていた。当の本人が慌てて否定するものの、彼の下心は隠しきれてないのだとウィンがただ呆れながら、リタに対して流石に心配だとの本音を漏らした。そのタイミングで丁度ブロンドの長髪をたなびかせながら、ベージュ色のカーディガンを羽織った彼女が玲也たちの目の前に現れる。
「ママ!」
「ママって言う事はということは、ジーロの!!」
「マイワイフでやす。この別荘の設計も設備も大体ランが手掛けてるでやしてね」
「その通りでしてね……俺も一週間缶詰でしたけど最高でしたよ」
ミーナがママと呼んで甘えるように飛びつく彼女こそ、この別荘を管理しており、同じメカニックとしてジーロの愛妻となるランその人だ。アンドリューが一週間ブラジル代表へ秘密特訓を課すにあたり一足先に利用していた事への感謝と、玲也たちが新たに利用する事になるとして彼女に感謝と共に握手をかわすが、
「そういえばブラジル代表の二人は何処なの?」
「さぁ~、それがちょっと前までは部屋にいたんですけどねぇ」
「あたし達が急いできたのに、のんびりどこかでも散歩してるのかしら? いい身分ね」
「もしかして、玲也ちゃん達が来たのに尻尾をまいてトンズラとか……おわっ!!」
ランの姿があっても肝心のブラジル代表の姿が何処にも見当たらない。シャルがそれに気づくと共にニアは彼らが特別扱いされすぎではないかと苦言を呈しており、ニアに便乗するように才人が、姿を現さないブラジル代表を少し揶揄おうとした瞬間だった。突如彼の身体が何者かに後ろ首を捕まれるように浮き上がり、
「さ、才人さん!?」
「どういうこと!? 体が勝手に浮いてるっぽいんだけど!!」
「なんじゃ、誰がおんしらに尻尾をまいて逃げ出したかのぉ?」
地面から両足が離れている才人へと、ニアとイチが揃って思わず仰天とする。ただその前後で非常用のドアが一瞬開いた事へランとアンドリュー達は既に気づいており、敢えて何も言わずに微笑んだまま。彼らと目配せしてその男は笑いながら語り掛けた――右手で才人の身体を楽々と持ち上げたその男は、摘まみ上げた才人に直ぐ目を合わせると
「も、もしかして貴方が……その隠し玉とか、秘蔵っ子とかの」
「わしが隠し玉らぁ、秘蔵っ子と教えられちょったか。秘蔵っ子と言うにゃあ図体がでかくなりすぎたがのう」
彼の怪力に持ち上げられている才人からすれば、体中が震え上がっていた。その彼は自分の評価を聞くや否と、少し過大評価ではないかと豪快に笑い飛ばしながら才人の身体を地面へそっと下した。玲也たちの視線が一気にその男――アンドリューを遥かに凌ぐ2m程の大男に向けられると、
「もしかして……確かサッカーブラジル代表のラル・フォンイージ選手ですよね!!」
「それって確かワールドサッカーウィナーズ11で登録された……ええっ!?」
「おお、その話は結構前にあったんじゃが、わしもそう名が知られちょったか!」
その人物は既に玲也とシャルが知っていた――このラルという男こそ、ワールドサッカーを題材としたゲームへ実在の選手として登場していた事にも関係があるだろう。それ程の有名人であり、ゲームを通して自分の事を知っていたと知れば、彼はまたも大きく笑い出し、
「……まぁこの方はブラジルの不沈艦、そう呼ばれてた最強のゴールキーパーでな」
「別にそこまでわしの事を褒めちぎらんくとも良いぜよ。プレイヤーとしちゃわしがおんしらの後輩になるからのう」
土佐弁交じりに豪快かつおおらかに構えるこの男こそ、ブラジル代表のプレイヤーであった。アンドリューでさえ敬意をもって接するこの男は少し体をかがませて、玲也へとゴワゴワとした無骨な手を差し出し、
「俺が羽鳥玲也です……まさか貴方のような方が同じプレイヤーとは」
「何、ほがーに固くなっちょるかのぅ!」
「あっ……!」
玲也として、目の前の彼が著名なプロサッカー選手だとの事もあったのだろう。差し伸べた手が少し震え上がってもいた。その彼の様子を見て、思わずラルが手に力を加えた途端、彼が驚きの声を挙げ、
「これから同じチームで選手みたいなもんじゃ。それにわしが後輩じゃからのぉ」
「そういうこった。固くなっちゃこの先務まらねぇからよ」
「は、はい……こちらこそ宜しくです!」
ラルなりに人生の先輩として玲也の緊張を解きほぐす。一方でプレイヤーとしては玲也が先輩だと彼をさりげなく立てており、余計なメンツやプライドに拘らない彼の様子へ、安心したようにアンドリューが目を細めた傍ら
「正直どんな奴かと思ったけど……思い過ごしだったかしら」
「そうですよ! 体も凄い大きいですが、随分心も広くて深そうな方で安心しました……」
「あーら、確かイチ君って君だと思うけど……」
「は、はい確かにそうですが……!?」
先ほどまで、特別視されていたブラジル代表だったものの、ラルが想像と大きく異なる人物だった故か、ニアも認識を改める必要があった。彼女がバツが悪い様子に対し、イチは彼がその巨大な体に似通う大海のような心を持っているのだと素直に受け取っていた所、パープルの長髪をなびかせた人物から名を呼ばれ、振り向いた瞬間だった。
「やっぱりー! あたし絶対そうだって確信してたけど、ちょーかわいいぃ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「……貴方! 一体私の弟に何しているんですか!!」
「あらま」
弟が見知らぬ相手の毒牙に襲われようとしている――気づいたリンが慌てて飛び出し、少し強引にイチを引き離すや否や、ギラギラとした視線をその相手へと向けた。一気に豹変した彼女へ少し呆気にとられながら立ち上がったその人物は、腰まで届く髪と共に、細くスラリと伸びた手足はまるでモデルさながらの外観をしていた。
「タグがある……ということは同じブラジル代表の」
「み、認めたくありませんけど凄いですわね……」
「ラルさん羨ましいですよ! 俺もこんなカワイコちゃん、いや美しいお姉様と……」
「お姉様? おんしら、リズを勘違いしちゃーせんかの?」
まるで美の象徴といわんばかりの容姿は、エクスですら負けたと思わせられる程の魅力を漂わせていた。才人が完全に骨抜きになっているのも無理はないのだろう――ラルへ羨望の眼差しを向けたものの、彼は自分に向けられる眼差しの意味が分からず首をかしげ、
「玲也、確かお姉様って言葉に反応してたわよね」
「お姉様……ではないとすると」
「……まぁ、“彼はリズ”だって事は分かってくれ」
ニアと玲也がリズの正体に気づき何とも言い難い表情を作ると共に、アンドリューも目を泳がせながら、 “彼”であって“彼女”ではないとだけは伝えた。この言葉にリズが反応すると、
「まぁ、あたしはジェンダーを超越した存在かしら? どちらでもいけるから大丈夫よ」
「……ちょっと、ジェンダーを超越したっていうけど、明らかに胸ないわよね」
「……私の慧眼にも曇りが生じたのかしら」
「すまん、少し私も頭が痛くなってきたが」
リズは男であるとの指摘へ不愉快になるどころか、ジェンダーを超越した存在、バイセクシャルだと躊躇う事もなく明かす。ニアが猶更苦い顔を浮かべるのはまだしも、エクスは先ほどまで美貌で打ち負かされたと認めたことを激しく後悔しており、ウィンもまた眩暈と頭痛を覚えて壁にもたれている様子からして彼女より重症の様子だ。
「まぁ、リズは変わり者かもしれんがなかなか知恵が回るぜよ。わし共々よろしくじゃのぉ」
「そーねー。あっ、君も可愛いかも♪」
「……えぇっ!?」
「お、お辞めなさいまし、貴方のような殿方が……!」
両刀使いとしてリズは獲物を定めたように玲也へも手を出さんとする――すぐさまエクスがショックから直ぐ立ち直り飛び出そうとするも、
「全くです! イチだけでなく玲也さんまで近づくとか、男の癖に何考えているんですか、ねぇ!!」
「ね、ねぇ……ま、全くです事。玲也様が殿方に奪われる事はもってのほかでして」
「……ちょっと、あんたの姉さん、言葉にできないほど凄い顔よ」
「姉さん、昔からスイッチが入ったら手が付けられない時がありまして……」
その筈だがリンが真っ先に立ちはだかった。リズを断じて許さんとの彼女の剣幕に今回ばかりはエクスが彼女に圧倒し、思わず従ってしまっていた。傍から眺めるニアが今まで見たことがないほど怒り狂っているリンの様子に戸惑いながらイチへ尋ねた所、自分を案じて暴走する今の姉は、手が付けられない状態で危険だと半ば諦めた姿勢を見せていた。
「はいそこまでだー、お前らそこで喧嘩するくらいなら特訓に付き合えー」
「そういうこった。まぁとりあえず先進めるから全員表に出ろ!」
意外な修羅場になりうるこの状況に対し、流石に拙いとリタが仲裁に入った上でアンドリューが合宿の特訓を開始すると宣言した。このまま揉め事に発展したら強化合宿どころではないと踏まえた上で一同を一気に外へと押し出していった。
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