20-4 誇り高き反逆者、電次元の獅子は死なず!
「つまりバッツ殿、ゼハールスに向かおうとしても、先回りされている事ですか……」
『既に戦鬼軍団が先を越してます。ゼハールスへ合流するとなれば険しいとも……』
――ゲノムの一拠点ネルプにて。フレイム・ハートの別動隊が身を潜めていたが、バッツという人物からの報告にゲインは少し苦虫をかみつぶしたような顔を見せた。
「既に七大将軍がゲノムへ向かわれているとの事ですね、これを届けなければゼルガ様がそのまま……」
「兄さん、俺が行きます。ゼハールスにまで着きませんと作戦は失敗します!」
ゲイン達別動隊はすぐさまゼハールス、ゼルガの処刑場へと向かう必要があった。特に先発として処刑場へ潜入する必要があるのは、ブラディの尖兵として、洗脳処置が施されたウィンを正気に戻す為、解除する信号を送る発信器を保有していた為だ。しかし既に戦鬼軍団というバグロイヤー7大将軍の一角がゲノムへ召集されており、彼らを相手にして別動隊がどう動くべきかでゲインは判断を迷わせていた。弟のキースが自らその決死役を引き受けようとするが、
「いや、俺がやる」
「秀斗さん!?」
「二人ともここはティー・チューンを占領する為に動くべきだ。バグロイヤーの有志達を太陽系へ送りだすことも彼の悲願の筈だ」
「ですが、貴方が飛び出して万が一の事がありますと……」
この兄弟の元に羽鳥秀斗――玲也の父その人が身を置いていた。兄弟がそろって秀斗が単身で潜入する事に危険であると反対の意を述べていたものの、
「俺はハードウェーザーとハドロイドの開発に携わった。バグロイヤーからは喉から手が出るほど欲しい……と言いたいが」
その上で秀斗は彼ら兄弟の心配に対して微笑みを浮かべつつも、自分が立ち上がっていくべき事情を説く。自分の身柄ならバグロイヤーに殺されはしないと建前ではリスクはさほど高くはないと述べているものの、兄弟そろってその建前が見破られている事も薄々と察していた。
「俺の息子がプレイヤーとして戦っている……俺が何もせず守ってばかりに甘んじられる訳にもいかん、貸してくれ」
「ひ、秀斗さん、本当に宜しいので……?」
「宜しいも何も、ゼルガ君はゲノムになくてはならないからな。彼の為にも向かわなければいけない筈だ」
自分を案じるキースに対しても、多少強引に彼からその発信器を手にして、フレイム・ハートによって拿捕された武装トラック“ストレート”の運転席へと乗り出していった。ゲインとキースが制止するのを待たずに拠点から飛び出しており、
「兄さん、秀斗さん勝手に出て、もしもの事があったら!」
「なってしまったものをとやかく言ってもしょうがない、バッツ様にはティー・チューン占領の為に行動を開始すると伝える!」
「わ、分かりました! 俺が後はどうにかします!!」
キースが兄に代わり、部下たちにティー・チューン進軍の為の行動を開始すると纏め上げる頃、ゲインがバッツへと通信を送りつつ、飛び出していった秀斗達の身を案じていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「諸君! あの男がバグロイヤーと敵対する電装マシン戦隊に通じていた。そうなればこうせざるを得なくなる事は分かっているだろうな!!」
ゼハールス――アージェスの首都にあたる都市だが、今はその公会堂に多勢の面々が、厳密にはブラディら上層部の面々が半ば強制に連れ込まれていた。それもこの公会堂で自分たちバグロイヤーの力を民衆へ誇示する必要があり、設置された断頭台には白装束姿のゼルガがかけられようとしていた。
「うぅ、分かっちゃいるけどウィンがこういう事やってると辛いよ……」
「そこ‼ 目をそらすとぶち込むぞ!!」
「……分かってます、ごめんなさい」
そのゼルガを断頭台へと連行している人物こそウィンであった。ブラディに従順な様子でしたがっており、これも作戦の一環とはいえ、自分にとってパートナーになる人物であるだけに目にすると心が痛む。そんなシャルが何とも言い難い表情を浮かべて俯いていた所を、憲兵から指摘されると直ぐに顔を上げた。
(いや、ここで僕が下手なことしたらそれこそ……)
シャルは胸の内での怒りを今さらけ出しては危険だと悟らなければならなかった。それも今の自分が目の前のゼルガを救う役回りを背負っていた事もあったからである。今の彼女はまた別の服を、本来の私服にアージェスの民族衣装を着用した姿で変装して観衆の中に紛れこんでいる。ユカやベリー達がゼルガの関係者として既にバグロイヤーに感づかれているとの事情から、まだ彼らに顔を知られていない彼女に白羽の矢が立っていたのだ。
「ここにいる者がバグロイヤーに反抗しようとは考えていないだろうからな! バグロイヤーの戦犯としてこの男を処刑しようとも胸が痛む者などいないはずだろうな!!」
「言いたい事……いや」
ブラディが再度観衆に釘を刺すように主張する。これもアージェスの民が必ずしもバグロイヤーへ服従しきっていないと彼自身が分かっていたからだろう。実際その観衆もそれぞれ複雑そうな表情を払拭しきれないでいたようだが、
「人を一人見せしめで殺す……それで多くの人々を動かせる筈はないのだよ」
「……どうやら、自分の置かれた立場が分かっていないようだな!」
その最中、ゼルガは平然とした様子で答えた。断頭台に首をはめられていようとも恐怖に臆する事もなく、今の彼はまるで自分の最期すら考えてもいない、考える必要がないほどの強い自信に満ち溢れていた。これに顔を少し赤くしながらブラディが無抵抗のゼルガをボールのように蹴りつけると、
「私を足蹴にしたのも自分の力をそこで見せつける為……だとしたら逆効果なのだよ」
「なっ……」
「最も個人と個人でしたら、私は貴方に勝てるのだよ……そういった事を覚えてますかな」
「早くこいつを黙らせろ!!」
感情に任せたブラディの一撃は、ゼルガにとって逆効果としか言いようがなかった。ブラディ自身は、それを認めるわけには行かないと逆上したかのように、ウィンへゼルガに暴行を加えさせるような事を命じると、
「はい……」
「これは流石に無事でいられないのかな……?」
「……」
ウィンがどこかうつろ気な目で、ブラディの命令に承諾したかのようにゼルガの元へ近づきつつあった。彼女に対して少しおどけたようにただ、相手がハドロイドだからかブラディよりも多少の覚悟は示していたが、
「くたばれ、バグロイヤーめ!!」
「えっ……!?」
その途端、観衆の中から突如叫び声が上がり、断頭台の付近に投げつけられた発煙筒が一気に煙を噴き上げていく。シャルから大分離れた場所からであり、その男が誰かはおそらく面識のない相手として彼女には分からなかった。
「何をやっている! 早くひっとらえて……ひっ!!」
「お前たちにこいつを殺されてたまるか!!」
「その声は……」
煙で視界を遮られる中、ブラディはただ憲兵にその犯人を捕らえろと声をあようとした。しかし彼の足元をいくつもの銃弾が襲い掛かった為、思わず震え上がる。この流れに対し多少目を丸くしている様子から、ゼルガは把握していない様子である。だが自分を守らんとして、ブラディに向けての攻撃を続ける様子から、自分が良く知る人物が繰り広げている様子から確信をしており、
「兄上!!」
「この男にして、その兄あり……殺せ、早く殺せ!!」
「……私があの男を始末します!」
「当たり前だ! だったら早く行動に移せ!!」
兄上とゼルガから呼ばれる男はマックス他ならない。彼は2階の傍聴席から堂々と携行したマシンガンと共に処刑場と化した公会堂へと襲い掛かる。単身でその身を民衆だけでなく、憲兵たちにもさらす危険な賭けに出ながら。何故か少しふらついていた様子ながら、ウィンが2階の傍聴席へと飛び上がる。彼女はマックスの姿を視野に捕えて飛びかかっていったが、
「そろそろその時間だけど、大丈夫なの……!?」
ただ煙にゼルガ達の姿は包まれて視界にとらえることが出来ない。さらに言えば憲兵たちが先ほどの発煙筒を投げた犯人を捜す為、自分たち観衆の身辺調査を再度行っている。確実なタイミングでないかぎり行動を起こすことは出来ない耐え、シャルが焦りだしていたが
「貴様、よくもブラディ様にこのような真似を……!」
「ぐっ、やはりハドロイド相手には力で勝てない」
「撃つな! 犯人は既に私が捕らえた!!」
「なら殺せ! どうせ生かしてもろくにならない……!!」
ウィンがマックスの腕を封じた上で、彼のマシンガンを接収する、そして煙が晴れつつあった時、ブラディが始末するよう催促の言葉は銃声が鳴り響くとともに、途中で途絶えた。
「まさか……早くしないと!!」
「貴様! ブラディ様に銃を向けて何のつもり……うわっ!」
その様子にシャルは確信した。素早くポリスターを取り出してトリガーを引こうとしたが憲兵がに目撃されてしまう。彼女を連行しようと歩み寄り、腕を掴もうとした憲兵だが――後頭部からの一撃を受けてうつ伏せに倒れ込む。男の後ろには長いバイオレットピンクのポニーテールの彼女の姿狩り、
「私の眼が黒いうちはな……シャルを貴様などに殺させるか!」
「ウィン! やっぱり上手くいったんだ!!」
「正直、こうぶっつけ本番で上手くいくか自信はなかったがな!」
ウィンの瞳はシャルに対して少し厳しくも、姉代わりとして彼女を守り抜く意志の強さがあふれている――シャルが良く知っているパートナーの姿そのものである。発煙筒を投下されたとともに、発信器からの信号を受けて一時的な洗脳を解かれた。マックスがブラディを目当てに威嚇射撃を仕掛けた上で、ウィンが彼を守るためにブラディを守る盾前で、彼を撃つタイミングを見計らっていたのである。
「こんなはずでは、こんなはずでは……」
「ブラディ様……ブラディ様!?」
「おい、あそこにいるのは誰だ!?」
煙が晴れた時、断頭台に先ほどまでいたゼルガの姿は見当たらず、代わりにブラディが体中のいたるところから血を流しながら仰向けに天を仰ぎながらこと切れていた。このバグロイヤーの実権を掌握していたこの男の最期に呆然として憲兵たちが何人か駆け寄るが、その最中、大時計の上に一人の男の影があった事に気づき、
「皆に心配をかけて悪かったのだよ……だが!!」
「その声はゼルガ様!」
「ゼルガ様だ! ゼルガ様は無事だぞ!!」
大時計の上に立つこの男こそゼルガ他ならない。死への白装束を脱ぎ捨てるとともにアージェスの王としての正装に身を包んだ彼の姿が観衆に晒される。これと共に観衆たちの声が一斉に湧き上がっていく。
「私の事は大丈夫だよ! それより早く行動に移すのだよ……!!」
「既に準備は出来てます! 私たちと共に向かわれる方は急いでください!!」
「あわてないでください~私たちが相手をしますから~!」
ユカとの呼びかけと共に、観衆が行動を開始した。多勢の者が一斉に公会堂から飛び出していくが、そのうちの何人かの面々はメローナに率いられるように憲兵を相手に応戦する姿勢を取る。まるでゼルガの思惑を知っていたかのように素早く動き、ブラディを討たれ、浮足だつ憲兵を相手に圧倒しており、
「しかしこうも君も堂々と行動してくれるな……」
「秀斗さん、貴方が直接出たのですか」
「そうだ……堂々と動かれる様子では似てるかもしれないな」
天井裏のパネルが開くと、屋根の裏から姿を現した相手は秀斗その人であった。ゼルガが少し目を丸くしつつ、発煙筒を投げつけてブラディ達を攪乱した人物は彼しかいないと確信するとともに互いに笑みを向ける。その上で秀斗は懐から取り出したレコーダーを彼に託す。
「……やはり貴方は行かれないのですか」
「君達がゲノムから発った後も、バグロイヤーと戦わなければ……それは息子に聞かせてほしい」
「あの玲也君にして、貴方がいるとはこのことですね……」
秀斗の心の内を理解した上で、ゼルガは彼の選択を止める事はしなかった。彼の言う通りゼルガ達反バグロイヤーの有志を始めとする面々がゲノムから太陽系への脱出を試みるものの、全員を送る事は不可能に近く、またゲノムの地に留めおく必要があった。
そのゲノムの地に秀斗は留まる事を選んだ。自分の代わりとして彼が託したレコーダーの中身に彼の告げるべき真意が記されている。それを渡さなければならないと、天井に設置されたリングを手に取ると、ロープウェーのようにゼルガの身体は公会堂の出口付近へと飛び出していった。
「ゼルガが逃げるぞ! 奴を狙うんだ!!」
「ただでさえあいつらを止められないんですよ!?」
「奴さえ殺せばこの流れは止ま……」
最も天井につられるようにワイヤーで動くゼルガは、バグロイヤー側から絶好の的ではある。ウィンやマックスたちを始めとする面々が憲兵を下しつつも、流れ弾は彼をかすめるように飛び、頬から一筋の血が流れる。
「私はまだここで死ねはしないのだが……」
「……お母さん!!」
「ピコ、逃げて! 」
その時、ゼルガの視界には母と子の姿が入った。バグロイヤーにより、半ば強制でゼルガの処刑の観衆として連れてこられた人物と思われるが、ユカの誘導と共に逃げ出す最中、母親が肩を撃たれその場で倒れ込んでしまう。娘のピコが幼いなりに母を担ごうと駆け寄り、助からないと見た母が娘を突き離そうとするも、
「庶民の分際でバグロイヤーに逆らうとどうなるか……!!」
「きゃぁぁぁぁぁっ!!」
「死ねよぉ……!?」
さらに言えば憲兵が彼ら親子をも巻き込もうとしていたと気づいた時、ゼルガは迷うことなく自らの手をリングから手放し、憲兵の元目掛けて飛び蹴りをお見舞いする。直ぐ彼を組み伏せた上で、懐に仕込ませたナイフをすかさず心の像を目掛けて突き刺す、
「な、何でだ……お前が殺す事など……」
「“できない“ではなく、”しなかった”だけ……やむを得ない時があるのだよ」
「そんな……」
「メローナ! 二人を頼むのだよ!!」
――不殺を貫く姿勢のゼルガであったものの、目の前の母子を救う時に、自ら課した制枷から解き放つ。まさか彼が自分を直接殺めるとは捉えていなかったのだろう。唐突な最期に唖然としていた様子ながら、彼の視線は冷ややかなものだった。既に関心などなくメローナへ親子の救出に向かわせており、
「有難うございます、ゼルガ様……私たちが彼らの力になれるか分かりませんが……」
「いや、貴方がた一人一人が生きてこそ、私の力だよ……」
「ゼ、ゼルガ様もどうか!」
「勿論だよ、君も母上を大切にだよ」
母親がゼルガに命を救われた事に、何度も頭を下げて感謝を示す。当のゼルガは少し余裕を欠いていたものの、ピコに視線を向けるとその中でも微笑みを作り、彼ら親子が生き延びるだけでも自分からすれば価値であり、力になるのだと評す。メローナの肩を借りながら避難する親子の後ろ姿を微笑んで見送った後、
「お前、今どういう状況か……」
「兄上の言いたい事は承知の上、ですが私は多くの人々に支えられています!!」
近くで応戦していたマックスから、王である上にこの作戦を指揮するゼルガが前線へ立っている事へ苦言を呈する。だが兄に対しどこか苦笑しつつも、その上で自分を支える者の為に戦わなければならないのが王の使命だとゼルガは語った。
『ゼルガ様! バグロイドがこちらに迫ってます、急いでください!!』
「……その様子だとここまでか。もう少し囮になりたかったのだよ!」
ゼルガ達が引き起こした反乱に対し、バグロイドによる武力鎮圧が開始されようとしていた――出来る限り多くの人々を救出せねばならないと、必ずしも満足が行く結果ではない事へ顔を少し歪ませながらも、王として彼らの無事を導かなければならない物として、この場で犬死なども出来ない事は分かっていたが、
「ユカの言う通りだ! お前たちこそ俺達と違って生きなければ意味がないぞ!」
「分かっています。その言い方ですとまるで……兄上!?」
マックスからは、王でゼルガがその場で留まる事は軽率だと窘められた、やむを得ないとゼルガが判断を下さざるを得なかった瞬間だった。彼の目の前でその兄は撃たれたのだ。虫の息に追いやられた憲兵は、ゼルガを道連れにしようと気づいた為、マックスはその身で盾になり、利き腕を撃たれたのだか、
「大丈夫だ……これ位の怪我でくたばる俺じゃない」
「これ位の怪我では……よくも‼」
「お前より俺の方がこう戦う事には向いている! お前にも分かっているはずだ!!」
兄の怪我を前にゼルガが顔色を変えて、彼の元に近寄ろうとした。しかし、その兄は彼が身内の自分を心配している余裕はないと忽然と言い放って憲兵たちの群れに飛び込み、
「だが、多くの人々を導く力はお前が上だ! お前がここで役目を果たさない事は兄として許さん……!!」
「兄上……!」
「来いバグロイヤー! 俺が一人残らず蹴散らしてやる!!」
負傷しようともマックスは残りの憲兵たちに向け、剣を片手に切り込みをかけていく。残りの面々の中で、彼が残り全ての敵を食い止め、他の面々を守り抜こうとする覚悟であり、
「先に逃れる事をどうか……兄上、どうかご無事で!」
兄の胸の内を察し、これが今際の別れになるのではとなれば、ゼルガは思わず握りこぶしを作っていた。それでも自分がここで死んではならないのだと言い聞かせ、退路を切り開いていくのであった。
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