13-5 暗殺! カプリアを消せ
「わざわざ私を迎える必要もなかったのですが」
「いえいえ、万が一に備えて貴方の居場所を把握する必要がありまして」
「よほど私を信用できないようですね」
「ニェット、ニェット!」
――その一方、カプリアとパルルは天羽院と同乗する形で、ロシアの郊外を走行していた。最もプレイヤーであることを公表しなくても、不用意に外出する事は相応のリスクが伴う。それも天羽院がわざわざ迎えに来た事も猶更危険が付きまとう。
郊外どころか人気のない一軒家へ二人で住んでいるロシア代表だが、わざわざ天羽院がその住居を突き止めて迎えに来た時点で彼は内心辟易としている。パルルも天羽院に気を許していないのは言うまでもないようだが、
「まぁまぁ、私もマイクの事を話したいのですよ。フォートレスですと色々話しづらいでしょうしね」
「確か貴方とも面識があったからで」
「そうです。貴方なら私の知らない彼を知っているのではと……あぁ、彼の事は気にしないでください」
わざわざフォートレスに呼べば用事は済むであろう――にも関わらず、天羽院が自ら手間がかかるような行動に出ていたのも、マイクの話に耳を傾けるため、唯一の部外者となる運転手はいないようなものだと釘をさして、話しやすい環境を作ろうとお膳立ては一応しており、
「ダー、ダー、ニェット?」
「マイクがどういう人か? まだそこまで話していなかったかな」
「プログラミングの天才として、私と同じ使節に抜擢されましてね。私もですが彼も鳴り物入りのエリートで」
「ニェット!」
パルルとして、マイクがどのような人物かまだ把握しきれていない。そこまで深く入り込んだ話はしていないとカプリアが思い出したところ、天羽院が同じ使節に抜擢された彼の事を触れるものの、自分がエリートだとひけらかす様子をパルルは快く思っていない。
「マイクは私の親友の弟として家族ぐるみの付き合いをしてた。得意の柔道も教えていたぞ」
カプリアは敢えてパルルに対して、使節に抜擢される前の頃の彼の話を振る。10年以上前にさかのぼる話となるが、虚弱体質だった彼の少年時代に、カプリアがコーチとして柔道の稽古をつけていたという。その結果マイクも徐々に体力をつけていき、それが彼のプログラミングを学ぶ上でも基礎体力として糧になっていたのだと。
「マイクが使節に選ばれた時は、私のように嬉しかった……パルルと出会った時と同じだぞ」
「パルル、ト、オナジ……」
「確かに有望そうではありました。ですがまさかバグロイヤーの元に降っていたとは」
「ニェット! ニェット! ヒドイ!」
「やめなさい、どうであっても本当の事だぞ」
そのプログラミングの腕を買われたと共に、マイクは電次元への使節に抜擢された。出発前夜に盛大な宴会を開いて、彼の門出を祝ったことを昨日のように覚えていたが――今に至るまで彼が戻ってくることがない故に最後の思い出になっているからでもある。
そんなカプリアの胸の内に水を射すように、天羽院はマイクが寝返ったのだと苦言を呈する。パルルが反発するものの、事実は受け止める必要があると彼は諭しており
「確か、彼は秀斗と親しい様子でよく一緒でしたからね」
「秀斗となると……ボウズの親父さんだな」
「えぇ、ですがマイクがこうも寝返っているのでしたら、彼も同じように」
「……何故それを私にわざわざ言いますか? 言うならボウズでしょう」
その折、天羽院はマイクではなく、何故か秀斗の事を彼に触れる。それもマイクと芋づる式で寝返っているのではと疑ってかかる。マイクの時と異なり事実かどうかも定かではない憶測の域を出ず、玲也の戦う目的を否定しかねないものであると、少し厳しい口調で窘めたところ、
「何を根拠に貴方もあの男を……」
「……カプリア、アブナイ!!」
秀斗の肩をカプリアが盛った途端、何やら天羽院の表情がかすかに歪む――だが、その様子よりパルルは奇妙な光に感づいて警告するよう声をあげる。実際直ぐカプリアが身をひそめると、銃弾が後部の窓ガラスを貫いた。間一髪かがんだ二人の頭上を飛び交い、運転手が慌ててブレーキをかけるが
「おっと、させねぇよ!!」
「お前は……!!」
その折に突如メッシュの髪の男が回転する車へ突如乗り移り、後部ドアを力任せに引っこ抜く。そこでカプリアが目にした相手こそ、昨日天羽院がブリーフィング・ルームで触れたビトロ。アイリストのプレイヤーとして現れるのではないかとの予想を大きく裏切って、彼の目の前に単身で乗り込んできたのである。
「プレイヤーさえ始末しちまえば、ハードウェーザーは使い物にならねぇからよ……!!」
「……チカヅクナ!」
「何と……!!」
ビトロがカプリアの首根っこを掴もうとした瞬間だ――。後ろのパルルが目を光らせてまるで見えない壁のように彼を後方へと弾き飛ばす。ビトロより生身での戦いに慣れておらず、ディエストで戦う時を除いて、平凡な8歳の少女として過ごしてきた彼女だが、エージェント上がりのビトロを難なく弾き飛ばしていたのだ。この予想を大きく裏切る光景に天羽院が一瞬目を丸くしていたものの、
「パルル、いいぞ!!」
「ダー!!」
「ぐおっ……プレイヤーごときがどうして俺を相手に……!!」
すかさずカプリアが身を乗り出し、逆にビトロの胸倉を掴んで、地面に素早く彼の身体を打ち付けたる。追い打ちのようにパルルがタグの力を発揮させ、手のひらから生じる衝撃波を、追い討ちのように弾き飛ばしていく。
「天羽院さん、何をやっています! 早く貴方も逃げてください!!」
「え、えぇ当然です! 逃げますよ!!」
「は、は……っ!!」
この状況でも天羽院はなぜかその場から動こうとしない。カプリアから檄を飛ばされた事もあり、運転手と共に前部の席から飛び出そうとしたが、ビトロは体勢を立て直してバックを取った後、運転手が抜き手を後ろから貫かれた。
「ひぃっ……!!」
「おっと、この場合はあんたもやっちまっても良いのかな……やろうと思えばやれるけどよ」
「まずい、パルル行けそうか!?」
「ダ、ダー……」
即死した運転手を目のあたりにして流石に怯えたのか、天羽院がその場で尻餅をついて震えあがっている。出資者として電装マシン戦隊に強い発言力を持とうとも、生身の彼はビトロにとって仕留める事はたやすいが、彼の余裕故か否か、天羽院自身の命を奪うかどうか問いかけていた。プリアはパルルと共に急ごうとするも、タグによる衝撃波を発動させた為か、疲労の色が現れて満足に動けない――このままビトロに追いつけそうにないとあきらめかけた瞬間であった。
「……天羽院様を守ります」
「確かお前は……!」
「フ、フレイア君、何で!」
カプリアの目には気のせいか一瞬の風が吹き荒れ、天羽院を守るように梅色の髪の彼女が参上した――ポルトガル代表のフレイアは、すかさずビトロの両腕を強く握りしめて動きを止めんとするが、天羽院はフレイアの加勢に喜びより驚きを示す。窮地を救われた事への歓喜よりもその感情が上回っていた程だ。
「……アイラ様から貴方を守れとのご命令があった為です」
「何だこいつ! 並のハドロイドでは!!」
「……私は元々一から作られた為らしいです」
「カプリアさん、パルル!!」
フレイアがビトロを食い止めている状況に割り込む形で、カプリアとパルルの隣に緑色のスーパーカーが駆け付ける。二人を呼ぶのは玲也とリンの声であり――ネクスト・ビーグルがその場に電装されていた。
「ボウズ、どうしてここに」
「将軍の許可は得ています。電次元ジャンプで送りますよ!!」
「玲也さん! フレイアさんが戦われているようですが」
「どうして彼女が……」
万が一カプリアが天羽院に陥れられる事に加える、今回のような闇討ちを受ける事態もあり得る――玲也がエスニック達と協議した結果の行動でもあった。それと別にフレイアが天羽院の護衛に現れていた事は想定していない様子であり、彼女への対応に少し戸惑うものの、
「天羽院はん! 早く乗りなはれ!!」
「アイラさん、それにシンヤ……さんまで一体どうしてここへ」
「そりゃあんさん、バーチュアスの代表でしたら、いつだれかに狙われるか分からへんもんでっせ!」
そのもう1台、玉虫色の塗料で塗られた車にはシンヤとアイラの親子が乗っていた。ただ天羽院自身、自分を密かに尾行しろなど、フレイアに護衛させろなどとの命令は一言も彼らに言った覚えがない為、乗るべきかどうかで躊躇を浮かべていた彼だが、
「将軍、ビトロがやはり狙っていたようです! カプリアさんとパルルは無事に救い出せました!!」
『玲也君、よくやったぞい! 一時はどうなるかと思ったんじゃが』
『ただこれで安心していられないぞ、既にアイリストが攻めかかってきたからね!』
「そんな……ビトロがこちらに襲い掛かってきた筈ですが!」
カプリア達の救出をすかさずブレーンへと報告するものの、南極支部がアイリストらに襲われている報せは予想だにしていなかった。ゲンブ・フォートレスが打ち上げ準備を始めたばかりであり、フォートレスがその姿を囮として晒してもいなかったのだから。
既にドラグーンからボックスト、ヴィータストが、ゲンブからユーストが電装されて応戦しているとの事――本来の予定通りの布陣で迎撃にあたっているとの事だが、
「俺も直ぐ戻ります! クロストを電装させてください」
『そ、それは別に構わんのじゃが、無理してないかの!?』
「それは大丈夫だと思います! あくまでシャルちゃんがメインのコンバージョンですから」
「俺はタイミングを見計らって一気に攻めかかるだけです!」
玲也自身電装しなければ、万全の体制で応戦する事は出来ない。カプリア達を間一髪救出した直後であり、ブレーンは彼を気遣うものの、リン共々既に想定した作戦なら、玲也への負担は少ないと主張しており、
『そうだね……すまないけど直ぐにクロストへ!』
「待ってください、将軍。私も電装してもいいですか?」
「カプリアさん! 確か作戦から外されてたはずですが……」
玲也達の意志を汲んだうえで、本来の作戦を遂行するにあたって必要だと判断した故にエスニックがゴーサインを出そうとした時だ。カプリアもまたアイリストの迎撃への参加を打診してきたのだ。リンとして彼が出たい心境を察しつつ、作戦から逸脱して独断で動いてはまずいのではないかと板挟みになっていた様子だが、
『よし、責任は私が取る……ネーラ君にも後で話を通しておくよ』
「将軍……結構あっさりですね」
『生憎アタリストも今電装できないみたいだからね、彼女の穴埋めとして表向き通せば問題ないよ』
躊躇などせずエスニックはカプリアの参加を承諾した。即断即決の姿勢に対してリンが思わず突っ込みを入れたものの、アタリストらポルトガル代表が天羽院の救出に向かっている関係で、直ぐに出せない状況を踏まえての判断でもあった。
「少しだけ苦労させが、もう少しの辛抱だぞ」
「ダー……」
『俺が指図するのもどうかと思いますが、クロストが封じ込んだ隙を突いてください。一気にけりをつけなければ』
「おいおい、曲がりなりにもアンドリューと肩を並べる私だぞ?」
「す、すみません……俺が余計な事を……」
ビトロを駆逐する為に、己の能力を発動させた関係もあり、パルルが少なからず消耗もしている。彼女の様子を汲んで、玲也が急遽作戦へ参加する彼の為へ配慮を利かせようとするものの、自分が古参の一人であると、カプリアにしては珍しく不服そうに苦言を呈す。彼が機嫌を損ねるのも新参者として出過ぎた真似をしてしまったと、直ぐに気づいて玲也が詫びたが、
「はは冗談だ。勿論直ぐに蹴りをつけてみせるよ……」
「カプリアさん……俺もそのつもりですよ!」
やはりカプリアは歴戦の勇士としての余裕と貫録を見せつけるように微笑んだ。アイリストとの戦いがマイクに引導を渡す事になろうとも、彼の顔つきに惑いは一切見られる事がない。この強靭な彼の姿勢に玲也も吹っ切れたように、気合を入れなおす。そしてすかさず電次元ジャンプでドラグーン目掛けて飛び立っていった。
「あぎゃぁっ……!」
「……このまま機能を停止させる事も出来ます」
「ここで俺が死んでたまるか……話が違う!!」
その一方、カプリアを逃した事で、ビトロの奇襲は失敗に終わったようなものであった。同じハドロイド同士かつ、ヘビータイプのフレイアは生身での戦闘能力にも秀でており、彼女によって骨腕をへし折られたビトロは非常に分が悪かった。早々に身の危険を判断s、口でタグを加えて彼が歯で押し込んだ時、彼自身の身体がその場から瞬時に消え失せた。
「テレポートで消えたようですね……」
「天羽院はん、どうしてこうわてらに歯向かうハドロイドの事を知っとりますんや?」
「ハドロイドはプレイヤーをサポートするために特殊な能力を持っていますからね。タグがそれを発動させる鍵です」
ビトロがテレポートした事も、ハドロイドの能力によるものだと天羽院はシンヤに対して説いた。リンのハッキング能力や、サンの高速移動、パルルの衝撃波などが当てはまると補足を付け加えるた後、
「流石フレイアさんと言いたいですが、とりあえずあなた達が何故私たちを尾行していたかは後で聞きますよ」
「なんやそれ、折角ウチとオトンが天羽院はん助けた割にはシケてんなー」
天羽院は自分を助けてくれたことへの感謝よりも、独断で自分を尾行していた件への事情を問いただすことに関心があり少なからず穏やかな様子を示してはいない。その冷めた態度にアイラが少しふくれっ面を作るが、
「まぁ、そういう事もあるんやアイラ。あんまり気にしたらあかんでー」
「……アイラ様、落ち度が私にあったのです?」」
「別にそれはなくてもな、人間は正論で納得できる生き物やないんや」
「何かどうも当てつけのようにしか聞こえないですがね……」
一応シンヤがアイラを窘めているようだが、遠回しに天羽院への批判も行っているのではないかと当の本人からは受け取れるような気もした。いずれにせよシンヤが天羽院からすればどうも油断のならない相手ではないかと感じずにはいられなかった。
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