11-2 揺れる電装マシン戦隊、天羽院の暗躍
「……何であんたらここにいるの?」
「すみません。今ビャッコでインターバルを終えたチームがいないとの事で」
「そうだ。私が頼んで呼んできた。大分こっぴどく私もやられたからな……」
ビャッコ・フォートレスのミーティング・ルーム――コイとサンが足を踏み入れれば、カプリアはともかく、フェニックス・フォートレスに所属の筈の、アトラス、クレスローの姿もあった。
これもカプリアの言う通り、遭遇して足止めを余儀なくされたリキャストの戦力を削ぐため、ディエストのエネルギーを殆ど消耗してしまっていた。パルルがその場にいないのも消耗から自室で眠りについている状況であり、イギリス代表が出向している状況だった。
「それはともかく、3人とも私たちと縁は少し遠いようだな」
「3人ですか? シャルが書き換えた内1人はバグロイヤーへ……」
「違う、その前にもう1人送られたはずだ」
「もう1人……あぁ、確かヘビータイプがどうのこうのと」
カプリアの話に首をかしげていたコイだが、サンからの指摘で思い出したような顔をした。有事に備えてか、エルトリカが1人を先に送り込んだとの事であり、そのヘビータイプの1人の転送は成功したようだが、
「僕たちと同じフェニックスです。どうやらポルトガル代表の扱いになるようですが」
「僕が見た限りミス・フレイアはアリだね! ミス・マーベル達とはまた違う神秘的、ミステリアスな魅力がね……」
「それは別に興味もない」
「……まぁ、フレイアって子がどうこうは置いといて、ドラグーンだけでなくフェニックスもハードウェーザーが増えるって事なの?」
クレスローのフレイア評はともかく、アトラスからの話を聞くと少しコイは辟易した。ドラグーンとフェニックスに所属するチームがこれで4チームとなった中、ビャッコに所属するチームは2チームと数で引き離されつつあったからだ。
「いや、そう一筋縄ではいかないようで……プレイヤーがこの子なんですけど」
アトラスがポリスターに表示されたデータをコイたちに見せる。ショートヘアーで眼鏡をかけたアイラ・ディアンナという少女がポルトガル代表のプレイヤーらしいが、データ上で登録された年齢は――12歳だ。
「12歳ってちょっと! 玲也やシャルより子供じゃん!!」
「そうですよ。15歳未満のプレイヤーがまた出てきた事もですし、そもそもお父さんが猛反対していて進展なしです」
「……まぁ、確かにそりゃ反対されても当然よね」
コイにとって自分より年下だけでなく、15歳未満と規律に反したプレイヤーがまたも現れる事に頭を抱える。元々オンラインゲームのデータの扱いについて、電次元側では15歳未満のプレイヤーからは実際のハードウェーザーのデータとしては選ばないスタンスの筈だが、
「あの状況だ、なりふり構わなくなる事もやむを得ない」
「余裕がないのは電装マシン戦隊も同じだぞ。この状況で今すぐ動けるハードウェーザーがどれだけか……」
バグロイヤーの侵攻が本格化している中で、優れたハードウェーザーのデータならば、プレイヤーの年齢を問う余裕がなくなっている――サンは12歳のプレイヤーについては一応事情を察していた。
サンの意見に同調しつつカプリアは口を開く。彼が今危惧している事はバグロイヤーからの報復が近いうちに起こりうる可能性であり、消耗が激しい中で対応できるか彼でも確証が持てない。
「私たちは一大決戦を想定して総攻撃をかけた。途中で私はあのリキャストに足止めを喰らったがまだマシだったかもしれん」
「確かに月ががらんどうでしたからね……これならわざわざハードウェーザーを出す必要もなかったのではと」
「そうだ。アンドリューやマーベルはあのゼルガとかいう男に一杯食わされたかもしれない」
総攻撃をかけるとなれば、自分たちにもまたそれ相応の消耗を伴う――カプリアは触れたうえで、電装マシン戦隊が月に総攻撃をかけた事について懐疑的なスタンスだと示した。勝ったは勝ったが得られた戦果は必ずしも見合うものではないのと。
「月は落としても、バグロイヤーの戦力は削いでない。それに引き換え今動くことのできるハードウェーザーは限られていると」
「だから、やむを得ずアトラス達を借りた。ハードウェーザー不在のフォートレスを相手にバグロイヤーが総攻撃をかけたらどうなるか……」
サンの考えの通りだとカプリアは述べる。あの戦闘は月を餌に自分たちの隙を生じさせるために仕組んだ罠――あのゼルガという男がそこまで考えて動いているのではと踏まえた上で、
「追い詰められるほど強いと確信した訳ではないが、ゼルガが動いているのならこの先の戦いも一筋縄で終わらな……将軍からか?」
カプリアがより一層気を引き締めるべきだとコイたちに伝えようとした矢先、ポリスターにメッセージが入った。それを目のあたりにすると猶更苦み走ったような表情を浮かべる。
「将軍からってカプリアさん、一体何が?」
「どうやらビャッコにもハドロイドが来る。いや厳密には譲られるというべきか」
「譲られる? どうもしっくりこないけど」
「……イージータイプなら誰にでも動かせるからな」
急遽ハドロイドが譲渡される――コイは意味が良く理解できず首をかしげるも、既にサンは誰が譲られるかは察しがついていた。この急な決定も、電装マシン戦隊が独断で月面攻略に踏み切った事が、バーチュアスグループの不興を買った事が遠因である、月面攻略に参加したドラグーン、ビャッコに向けて予算削減を検討されていた所、ハドロイドの譲渡を代替条件として提示したようでもあったが、
「私の所に圧力をかけるのは分かるけど、ドラグーンは……?」
「ここの所最近命令に逆らい続けたからかもしれないな……私も立ち合いに行かなければならないのは少し気が引けるが」
カプリアが推測するドラグーンへの圧力――それは天羽根院からすれば、一種の腹いせや逆恨みに近いものであると。そして天羽院と共にドラグーンへ同行せねばならない状況を苦々しく思いつつ、
「私の方もいくらか探りを入れるから、アトラスたちは留守を頼む。それとサン」
「私にも何か」
「いや、お前は変わったようでな。何か頭だけで動こうとはしなくなった」
「そう…ですか?」
アトラスとクレスローには有事に備えるよう促したうえで、カプリアはサンの変化を称賛する。電次元での経験が彼にとって一皮むける契機になったのだとの事に、彼は少し恥じらうところもあったようで、
「……一応こいつが上を目指すとなれば、私も多少は」
「あのねぇ、私たちも上を目指してるから、当然よ!」
「それで私はいいと思うぞ……」
サンが不器用ながら変化を否定しなかった。彼の様子に確信を抱いた上で彼はどこか嬉しげな顔を浮かべてミーティング・ルームから去れば、
「既にそこにいましたか」
「私が言いたい事ですよ。既にイージーだと分かっていたとは思いませんでしたよ」
この状況を待ち構えていたように天羽院の姿が既にあった。微かな動揺ですら表すことはせず、カプリアは彼の不審な点を追及にかかっていた。
「ガンボットさんが教えてくださいましたからね、それだけですよ」
「なるほど。パルルを起こす必要がありますから少し待ってもらえませんか?」
「パルル君ですか。疲れているはずですから大人しく寝かせてあげたらよいのに」
「相手はハドロイドですから、万が一の事も考えませんと」
天羽院がいうには、フォートレスの中で懇意なフェニックス側からリークしてもらったとの事。それに納得したかどうか定かではないが、カプリアはパルルを同伴させる判断を下した。彼からすれば保険をかける意味合いがあったのだが、この行動に天羽院の顔は苛立ちで歪んだ。
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「もう一度聞くけど、私より、ニア達の方を取るってことなのね?」
「単刀直入に言えばそうだね。シャル君はニア君と協力する目的だからね」
「……」
――ドラグーン・フォートレスにて、艦長室にシャルとカルティアを招いたエスニックだが、既に話に決着がついた様子だ。カルティアの口ぶりからすれば、エスニックから期待通りの待遇ではない様子だった。
「ふーん、シャルも何ともいわないならご期待通り行ってあげるわ? せいぜい後悔しない事ね!」
「後悔も何もないよ。君が口でなく行動をで示せばいい話だけどね」
シャルは板挟みになりつつも彼女を擁護するまでには至らなかった。彼女の煮え切らない態度には、微かな期待もあったのかカルティアは握りこぶしを密かに作る。そして強がるように二人を罵倒するが、エスニックはなじられても動じる事はない。ブザーが鳴ると共に扉が開けば、
「エスニックさんにしては賢明な判断のようですね」
「何、ビャッコにハードウェーザーを回すとの事は一理ありましたから。貴方としても前から欲しがっていたようですしね」
「おや、まるで私が執念深い男だと言いたげですね」
「あっ……」
天羽院達が現れた途端、カルティアが真っ先に駆け出していった。パートナーの出奔にシャルがやはり彼女を一瞬引き止めようとするが、既に当の本人がシャルより天羽院に関心が傾いている様子でもある。エスニックにベルやシャルの件を根に持っているかとの皮肉を否定しつつも、彼の表情はどこか満足気でもあったが、
「でもカルティア君がその気なら、ビャッコに移籍させるのも手でしょう」
「ニア達のサポートに縛られないみたいだしね。実力で証明すればいいんだしね!」
「……」
天羽院として自分の意志だけでなく、カルティアの意志を汲んでの事だと自分の目論見を正当化させる。実際に彼女がニア達との助けに回る事を毛嫌いしているが故、ドラグーンから離れる姿勢を見せているが……隣にいたパルルは冷めた目で彼女を見ていた。
「今回はこれで手を打ちましょう。次同じことをやりましたら話は違いますが」
「用が済みましたら早く引き揚げましょう。新しいプレイヤーの事もありますし」
「それもそうですね。一刻も早く進めないといけませんし」
表向き天羽院へ従順な様子でカプリアは意見していたものの、エスニックとアイコンタクトで真意を伝える事も忘れなかった。カルティアを連れて用済みだと彼が去ると共に、
「……テンバイン、アヤシイ、オカシイ、キケン、パルル、オモウ、モノスゴク」
「パルル、まだ疲れが取れていないから戻ったら早く寝なさい。私も付き合うから」
「ダー」
第六感か否か定かではないが、パルルが天羽院は危険極まりない男であるとエスニックへ警告の言葉を送る。カプリアが疲弊した彼女へ直ぐに休むよう促していたものの、どこかわざとらしい様子すらあり、天羽院の二人への視線が一瞬険しいものとなっていた。
「……彼に水を射されたくなかったが、シャル君にも申し訳ない事をしたね」
「そ、そんな事ないよ! 僕だってその、見ていてちょっと」
一人きりとなったシャルに向けて、エスニックは謝罪を交わした。カルティアを天羽院の意向でビャッコへ送るように、示談の条件として提示してきたものの、その条件で了承したのは彼の判断によるもの。シャル達が必死で手に入れた彼女を手放す事になった訳だが、
「まさか、あそこまでひん曲がってたとは思いませんでしたよ」
「ただ、ウィンさんの方を引き渡す事も出来た気がしますけど……」
「ウィン君が玲也君にしでかした事を考えると、その選択もあったかもしれないけどね……」
ひと段落ついた事を見計らったように、アンドリューとベルが入室する。カルティアの人間性に問題があると真っ先にアンドリューは苦言を呈す一方、ベルはウィンもまた別の問題を抱えているのではと尋ねる。エスニックとして頭を少し悩ませたことだと前置きをした上で、
「けど、ウィン君があのように恨んでもおかしくない事を私たちはした。ポー君もだけど本来は違うはずだ」
「将軍はウィンさんを信じて……ジャレ君のように」
「そうだよ……甘いかもしれないけど、ウィン君は本来の自分を見失っているような気がしてね」
エスニックとしては、他人事のように手を貸す事もなく、さらに周囲を煽るカルティアの人間性の方に問題を感じとっていた。逆にウィンは今まで信じてきた道を見失わせる程、ポーの一件が大きな問題であり、裏を返せばその問題を解決さえすれば道を切り開けると見なしていた。ベルとしてもかつて荒んでいたジャレコフとの経験があるとうなずける事であり、
「俺もですし、玲也もやってきましたからね。俺達も出来る限りの事はしますよ」
「そう考えてもらえると助かるよ、シャル君も……」
「どっちみち、玲也君と勝負しないといけないからね……早いうちに話しつけてくるよ!」
今度こそは心を通わせなければならない――プレイヤーとしての責任感と共に、シャルの顔つきが真剣なものになりつつある。その上ですべきことだと認識して彼女が迷うことなく飛び出していった。彼女の様子をエスニックたちが見守りつつ、
「俺、ちょっとあいつと話してきますからいいですかね?」
「シャル君だけだと、心細いのかい?」
「あいつもガキじゃありません。俺としても言っときてぇことあるだけですよ」
シャルなりにプレイヤーとしてすべきことを見出しつつある――それをどこか自分事のように目を細めながら、アンドリューもまた彼なりにすべき事へ挑もうとしていた。個々が馴れ合いで依存するのではなく、それぞれが自立しつつある風向きをエスニックとしても幸先が良いと捉えられる事でもあった。
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