10-3 怒れサン! 白虎よ魔狼を討て!!

「ハングラックに殴り込みをかけるの、どうするつもりなの!」

「ネクストにはカイト・シーカーがあります。それを使えばハングラックを上手く操る事が出来るはずですが……」


 ブラハートにて対面すると共に、電次元から帰還するためのハングラック攻略作戦についてすぐさま打ち合わせが開かれた。玲也はまだしも今のリンがとても戦えそうにない様子であることを告げる。電装装置の制御室の机で泣き崩れている姿が彼らの視界に入るのだが、


「貴様! 相変わらずエージェントの家に生まれながら何もできないのか!!」

「……!」

「サン! 一体なんてこと言うんだよ!」

「……リンは目の前で弟を奪われました。もう少し考えて言ってくれませんか!?」


 またも戦えそうにないリンの姿を目にしたか、サンは彼女が役立たずだとなじる。先ほどの状況もあり彼の様子がいつもより荒れていたが――彼女の事情を知らないで詰られる事を、シャル黙ってはいられなかった。玲也もまた同じ心境であり静かに声を荒げており、


「まさか! 奪われたハドロイドって……」

「そうだよ、カルティアとウィンってハドロイドは何とか守れたけど」

「すみません、俺達が間に合わなかったばかりに……リンにも悲しい想いをさせてしまい」

「そ、そんなことはありません……玲也さんが悪いのでしたら、間に合わなかった私も……」


 別動隊の手によって回収されたハドロイドも、玲也が咄嗟にポリスターで電装したハドロイドも無事ではあったが――よりによってビトロが奪ったハドロイドはイチだった事を除けばだが。

 悲願を果たせなかった処か、敵の手に落ちる形で裏切られる悪夢に顔をうつぶせ。リンは涙を流し続けている。何とか口では平常心を保とうとしているリンの姿が痛々しい――陰鬱な空気を前に、、コイは、リンの元へ近づき頭をそっと優しく撫で、


「ごめんね。私たちも何もできなくて……ただ、サンの事あまり責めないでほしいの」

「やめろ! それを今話す事はやめろ!」

「あんたも、そう冷静でいるのやめなさいよ! 目の前で踏み殺されてまともでいられないでしょ!!」

「殺された……!?」


 コイは間に合わなかった自分たちにも責任があると玲也たちへ頭を下げる――それと共に、サンにはサンで戦いへ赴かなければならない事情を打ち明けた。サンは他人に同情される事を嫌って口にするなと一喝しても、こればかりはコイは言うべきことだと折れる事なく、事情を知れば玲也が知る筈もないので驚いたことは言うまでもなく、リンもまた顔をあげた。


「そう、でしたかか……俺の方こそすみません」

「貴様に同情される程私は落ちぶれてなど」

「サンさん、行ってください!!」


 今度は玲也がサンへ頭を下げるが、彼の反応は相変わらずのようだった。けれどもリンから思わず強く主張された時には少し目が点になったような表情を示す。玲也たちも振り返れば涙をぬぐったばかりで顔を赤くしながらも、彼女は立ち上がっており、


「私が言うのも何ですが、本当に憎い仇はあなたの手で討ってください……そうでなければ先へはいけないはずです!!」

「……言われなくてもそのつもりだ……貴様こそどうだ」」


 サンにとって目の前で大切な相手を喪った事については、リンとして自分が両親を喪った時と似た状況と捉えている。彼女自身家族の敵を討つ意気込みでバグロイヤーと戦ったことにより、戦いへ向き合う事が出来ただけに、敵を討つべきだと促す。おっとりした彼女らしからぬ言動にサンが少し圧倒されつつ、彼女の胸の内を確かめようとしてた所、


「サンが気にするのも珍しいけど……イチの事大丈夫なの?」

「正直辛いですが、まだ目の前で殺されていません……それより。目の前で殺されたサンさんがそれでも戦おうとしているのを見たら……」


 サンの様子を見ていると、自分はまだ望みがあるかもしれないと、この事態を受け止めなければならないと思えるようになっていた。サンが味わった悲劇こそ、が彼女を悲しみから奮い立たせて立ち上がらせるきっかけとなったほか、


「あと曲がりなりにも私はエージェントです……玲也さんの力にならなければいけないんです。だから……」

「……確かにエージェントはそう決まっているからな」

「あんた、もう少し素直に……きゃあ!」


 その上でサンから指摘されたエージェントとしての責務は、自分が玲也を助けたいとの想いにあると彼に凛と伝えた。サンの言葉は相変わらず冷たいが、面と向かって打ち明ける彼女に対してどこか気恥ずかしくなり顔を横に向けていた。だがその最中、地下にも激しい振動が襲いバブリー達が接近しつつある様子を一同は感じた


「玲也、悪いけどここは私たちでカタをつけたいの。勝手に仕切って言いたくはないけど」

「止める理由は俺にないです。ネクストでハングラックをおさえて月への脱出ルートを確保します、ですから。。。。。。」

「私はあんたの先輩なんだから当たり前じゃない! このブラハートを守ることぐらいできるんだから!」


 ブラハートを死守する事がハングラック攻略に向けて必要な手段である――バブリー達の相手にウィストをぶつける事で話がまとまり、リンがすぐさまタグの力を借りつつ電装室の機能を掌握しはじめた。


「電次元ジャンプのエネルギーは供給できませんが! そこまでは私にも制御できそうです!」!

「分かった! あんたを信じていかせてもらうわ!!」

「……ここは従おう」


 かくしてコイとサンが電装室の足元にあるスロープへ滑り落ちる形で姿を消した。自分たちより先にウィストの電装を済ませる為リンが制御している間、扉が開くと共に、ニアとエクスの姿があり、


「へぇ~あなたがニア達のプレイヤーってとこかしら」

「まさかお前たちが……」

「そうよ、ったくなんであんたがハドロイドなのよ!」


 彼女が持つ桑の実色の髪が、外ハネのようにロールを巻いていた――玲也に対して少なからず関心がある様子ながら、ニアとは面識があるようで、あまり相手にしたがらないような顔をしている。そしてニアとエクスの二人の間に、彼女たちより頭一つ分背丈のあるポニーテールの姿も見えていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『どうやらブラハートからの攻撃はないようね!』

『バブリー様、散々砲撃を繰り返しても地下に我々の敵がいるはずです!』

『早く中に突入してやりましょう……この機を逃すわけには……!?」


 ――ブラハート近辺に傭兵たちが集う。オレンジ色のカラーリングで塗られたバブリーカスタムを中心としたバグラッシュ部隊であり、地下通路を突き進まんとした時に、後ろ足を取られるように突如1機が宙を舞う。


「群がってきたんだから覚悟しなさいよ……!!」

「私の好みではないが……貴様らに手加減などいらない」


 電次元ジャンプにより、バグラッシュ部隊の側部からウィストが乗り込む。それもホイール・シーカーを車輪として、両足を前方へ突き出す――虎を模した胸部の存在も相まって、三国時代の虎戦車を彷彿させるジャガノーツ形態と化した。

 そして両足先から展開するカイザー・フンドーは、バグラッシュの後ろ脚に絡み付く。そして両手でフンドーを掴んでバグラッシュを振りまわす豪快な荒業を見せつけており、無防備な状態と化した相手の脇腹にアイブレッサーを浴びせる。


『……私が下から行くわ! ミーガン上から攻めて!!』

『はっ……最悪差し違える覚悟です!!』


 1機が撃墜されるや否や、2機がかりで畳みかける事が最善とバブリーは判断した。バブリーカスタムは高機動と軽量化を推し進め、破壊力を維持するにあたってビーム兵器に兵装が統一されている。そして四股をキャタピラとして全高を低くした上で、口内のデリトロス・ソードガンを発砲してカイザー・フンドーを断ち切ると、


「やってくれるわね……!」

「ティガーに変形だ……1機たりとも逃さん」


 カイザー・フンドーが潰えたと共に、ジャガノーツ形態でパワーを生かした戦法が有効ではないと判断を下し――サンの判断もあり、ティガー形態への変形を試みる。ホイール・シーカーの浮力と共に、地に付いた両足から起き上がっていく。逆に両手から上半身が地に付こうとすると同時に、頭部が胸部に収納され、虎状の頭部が形成される。デリトロス・ソードガンの猛攻を仕掛けるバブリーカスタムを飛び越えると共に、


「同じビーム兵器でハードウェーザーに勝てると思うとは……コイ‼」

「分かってるわ! バランスを崩せば……!!」


 上下からの挟み撃ちを試みるようにして、バグラッシュがデリトロス・クラッシュを展開させ、て切りかからんとする――だが、今度は腰の位置に存在するホイール・シーカーそのものを打ち出す手に出る。サブアームで保持された車輪が打突手段として打ち付けられた事で、バグラッシュがバランスを崩し、


『……下がって! これで仕留めて見せるわ!!』

「囮を使ったつもりか……コイ、カイザー・スパイクで突き刺せ!」

『しまった……バ、バブリー様!!』


 バブリーカスタムが宙のウィストを目掛け、カイザー・ソードガンを浴びせる。けれどもサンが彼女の動きに気付き、素早くコイへカイザー・スパイクの使用を進言する。打突したサブアームを今度は薙ぎ払うようにして駆使し、ホイール・シーカーの先端に設けられたスパイクが脇腹から串刺しにする。


「……これで1対1、狼としては虎を相手にするにはちょうど良い」


 その上でウィストは、もう動かないバグラッシュを弾避けとして真下に向けて突き出した。既にバブリーカスタムのデリトロス・ソードガンが放たれ、望まなくともバグラッシュの腹を撃ち抜く結果となり上空で爆散する結果となった。


『……よくもふざけた真似を!!』


 バブリーカスタムのソードガンは着陸したウィストの足元に迫る――今度はウィストが避ける事もなく両足のカイザー・スクラッシュの熱で受け止める。ビーム刃のエネルギーの出力はウィストが上回るものの、バブリーカスタムは両足をキャタピラ上から立ち上がらせて変形する事により、自分を左足で押さえつける、バグラッシュを質量で圧倒しようとしていた。


『だからハードウェーザーは、ハドロイドは存在してはならなかったのよ! 私たち傭兵の居場所を奪った上に、私のイズマまで……!!』


バブリーカスタムを変形させるにあたり、自分を上から押さえつけるウィストの方が重量で勝る為、彼女の機体からはフレームが軋む音が聞こえ、火花が飛び散る。それでもバブリーが彼へ一矢報いようとするのは――ハードウェーザーが最愛の夫イズマの仇であったからだ。


『これで……!!』


 バブリーの執念が通じたのかバブリーカスタムが徐々にウィストを持ち上げ始めていた。その前足が二枚のエネルギー刃に押されるように宙へ浮き始める。

ウィストの胸部――ハードウェーザーのコクピットが彼女の頭上に見える。このコクピットめがけて引導を渡すタイミングを見計らう時であったが、


「……それがどうした」

『……ハードウェーザーを恨んで何が悪いっていうの!!』


 だがしかし、サンは冷徹にバブリーの怨念を知った事かと相手にはしなかった。それでもハードウェーザーを恨み続ける彼女はそのまま推そうとするが、実際ウィストの前足が宙に浮いていたのは、後ろ脚が腰から直立するような姿勢を形作ろうとしていたに過ぎない――つまりウィストはロボット形態へ変形する最中に過ぎず、バブリーカスタムにパワー負けはしていなかったのだ。


「最も貴様の夫を手にかけたかどうかなど記憶にはない。私はイズマという男など知らん」

「あんたは、全てのハードウェーザーが憎いって言ってるようだけど、八つ当たりもいい所なんだから!!」


 右方からホイール・シーカーごとサブアームが、バブリーカスタムの頭部を直撃する。これに怯んでビーム刃が減退した隙を突き、すかさずカイザー・スクラッシュで頭部を一文字に切り裂いていく。


『あ、あなた……あ、あぁ……!』

「過去にマール様と訣別して、今、和解した矢先にそのマール様は殺された……バグロイヤーのせいだからな」

『そ、それなら貴様は何だと……!』


 バグラッシュの前足をつかんだまま、ウィストが立ち上がっていく。形勢を逆転されようとしている中で、バブリーが追い詰められ弱気になりつつある。

そして、サンもまたバグロイヤーへの恨みや憎しみを触れると共に、ウィストもまたロボット形態へと変形を遂げていく。虎の顔が胸部として90度前に起き上がり、バブリーがひるまず反論しようとするまでを待たず、そのまま虎の口が開かれる。


「貴様は目の前でそのマール様を押しつぶした……間違いなく貴様は私にとって仇だ!」

『そ、そんな……あぁぁぁぁぁっ!!』


 ――ザオツェンが放たれた。虎の口から浴びせられる豪華のような熱線は、バブリーカスタムの胸部を目掛けてドロドロに溶かす。バブリーの断末魔が響き渡る中、本体が赤熱化していくとともに、ウィストが彼を手放して地面に叩きつけるや否。赤く染まった機体は形をすぐさま失い赤い炎として燃え上がっていった。


「……サン、あんたも結構熱くなれるじゃない。マールさんが言ってた昔のあんたって」

「もう過ぎた過去の話だ。今更私が昔のようには……」

 

 ――ブラハートを狙うバグロイヤーの勢力を駆逐する事をウィストは果たした。コイの労いが余計なものだとサンは否定しようとしたが、途中で思いとどまり首を横に振り、


「いや、全て変わることが変わるではない……そう、マール様は言われていた」

「へー、それは否定しないんだ」

『コイさん、サンさん! 片付き次第ハングラックへ向かってください!!』


 マールの言葉を思い出して認めるサンをコイは少し揶揄おうとした時に、その矢先に玲也からの通信が届く――ハングラックへの電次元ジャンプにウィストが成功して行動を開始したとの内容だ。


「私の方も今片付いたけど、電次元ジャンプで向かうとちょっとエネルギーが……」

『確かにブラハートからエネルギー供給はされてませんからね。2回使えば厳しい状況ですね』


 ハングラックを制圧するにあたり、ウィストのエネルギーが足りない――ブラハートの電装室が地下深くあり、カタパルトから通常の出撃を取ることもできない為、電次元ジャンプで地上に出なければならなかった。ブラハートからハングラックまで距離があり、飛べないウィストにとっては砂地に足を取られる恐れがある。


『最悪ウィストに空きがあります。同乗すれば俺たちと一緒に帰れる筈です』

「第3世代の中でもウィストは燃費を心配する必要がない……それは認めよう」

「あんたねぇ……けど、それあんただけでハングラックを攻略するって事に……その割にだいぶ落ち着いてるわね」


 ここで後輩の助けを借りる事は少し癪だが、それがベターだとコイは一応認めてはいた。それと別に玲也の負担が大きくなることを案じたが、彼女は違和感に気付いた。


『いや、実は今シャルがファンボストで俺の代わりに前線へ切り込んでいます。シャルのおかげでこちらは電子戦に専念できますが』

「ファンボストって新しいハードウェーザーなら……まさか!? あの子」


 今になってコイは、シャルが送られるハドロイドのデータを上書きしていた事を知らされた――それだけでなく、現在ぶっつけ本番で前線に躍り出ていることまでは想像がつかなかった様子。思わず素っ頓狂な声を上げており、


「……シャルがフランス代表として登録された訳か」

『そういうことです……俺もコイさんに伝える事が出来ればよかったですが』

「ちゃっかりというか、無茶苦茶というか……バングラデシュ代表はどうなったのよ!」


 玲也から事の一部始終を聞かされ、コイは思わず頭を抑えた。バングラデシュ代表が幻に終わった事も含め、規律を重んじる彼女としては当然のリアクションのようではある。


「……バグロイヤーの手に落ちるよりはマシと捉えるか」

『シャルは俺より本番に強いタイプです。ボックストのサブプレイヤーをやっていたとしても』


 サンは一応バグロイヤーにそのまま奪われるよりはマシだとは考えていた。彼の合理的なスタンスが今となっては玲也によっては救いであり、あとは頑固なコイを納得させる事が必要。そこでベルに教えられたシャルの腕によって成り立つ。ベターな選択肢だったと認めさせようとしており、


「あぁ、わかったわよ……ベルの教え方が上手なのよ、それは」

『……かもしれません。それより出来るだけ急いでください。増援が迫ってきては流石に厳しいです!』

「悪いけど電次元ジャンプで向かうから! 後で乗せてもらうかもしれないわね!!」


 この状況は非常時であると、コイはシャルの独断を風紀や規則で持ち出して否定するのは無意味だと流石に見なしている。それより、電次元ジャンプして急行する必要があると、玲也から送られたハングラック近辺の地形図を参照して電次元ジャンプを試みる。


「私が無茶苦茶をやるとしてもだな……」

「全くよ……けど、その上であいつが強いっていうなら私たちも油断できないじゃない!」

「当たり前だ……少し歯がゆいが驚かされてばかりだ」

「そうね、後で差をつけなくちゃ!」


 玲也たちへ対抗心を抱きつつも、コイとサンはどことなく彼らの力を認めてもいる様子だ。いずれにせよ自分たちの役目を果たした今、彼らが役目を果たすことを信じた上でウィストはハングラックに向けて電次元ジャンプを果たした。

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