第10話「月面の激突、電次元から脱出せよ!」

10-1電装マシン戦隊、月へ!

「玲也君とコイ君達はそれぞれ無事、リン君のタグも修理も完了したからの……」

「残りは彼らの回収のために月面へ直接乗り込むこと……久しぶりだと思うが覚悟はできているはずだ。そうですよね博士?」


 ――ドラグーン・フォートレスのブリッジにて。エスニックがクルーへ、なぜかブレーンの方を向きながら状況確認を行う。この内容はコイからビャッコ・フォートレスに届いた情報そのままであり、彼女が報告した帰還予定の時間まであと3時間程との事だった。


「な、なんでわしの方を向くんじゃ……そりゃ少し怖いんじゃが、玲也君たちの為なら覚悟はできているぞい!」

「博士がそれなら何より……おや?」


 ブレーンは少し震えつつも戦闘に臨むことへは彼らと同じ意思のつもりであった。これで一安心したとエスニックが判断しようとしたが……ブリッジの中央にて操縦桿を握りしめながら震える姿もあった。


「おいおいブルート、ガチガチじゃん!」

「先輩……私がまだこの経験がないからかもしれません。実際にドラグーンを私が上手に動かすことが出来るかもわからないですが」

「確かにブルートさんは、まだ大きな戦いを経験していませんからね」


 ブルートはクルーの面々の中では新入りであり。エルガ触れる通り、ドラグーンが戦闘行為に及ぶ事例に直面した事はなかったようで、ただシミュレーターなどで戦闘を想定した操舵を学んでいたにすぎない。控えめながらも震える彼であったが、


「エルちゃん、ブルートばかりじゃなく俺も少し心配してくれればいいじゃんよ」

「ロメロさんはいつもそうだから相手にされないと思いますけど?」

「あぁん、クリスちゃんはいつも冷たいじゃん!」

「……余裕ですね」


 最もロメロはエルへアプローチを仕掛けるも、クリスからは見事にあしらわれる。クルーにとって如何にもロメロが懲りずにアタックする様子は他の面々も既に見慣れているが、この状況でいつも通り振る舞う彼らに対しブルートは少しあっけにとられているようだった。


「お前、ロメロの事は分かってると思うけどさ……まぁこういう状況で素の自分が試されるんじゃね? って俺は思うけどね」


 ただ、テッドだけはいつも通り冷めていながらも、あるべき姿勢を説いている様子。実際彼はヘッドホンで音楽を楽しみながら電子戦関係を管轄する――いつも通りの様子である。


「実際、博士だっていつも通り恐れながらも向き合ってるじゃん。そういうことじゃね?」

「テッド君、確かにわしはそうじゃがそういわれると……なんか照れるのぅ」

「ありがとうございます、先輩のように振る舞えるかはわかりませんがいつも通りで行きます!」

「……いや、ロメロのようにやられても俺は知らないけどね」


 多少突っ込みを入れられつつも、ブルートは少しリラックスした様子で操舵手としての責務を果たさんとする。大勝負に出る前、この緊張した空気が解きほぐされていく様子をエスニックは目を細めながら見守っていた。


『相変わらずドラグーンは緩い雰囲気だが……』

「ネーラ君、私は皆の力を信じているからね……そちらこそ準備はできている筈かな?」

『当然だ。このビャッコが戦いで遅れる筈がないからな』

「それは頼もしいね。この作戦のために態々マーベル君たちまで借りてきたとの事じゃないか」


 メインモニターに映るネーラの様子はいつも通り凛々しくも、どこか血気盛んな様子。彼女からドラグーンの緩い空気を苦言されるもエスニックは意に介さないとスルーしつつ、、これからの戦いにおいて彼女の姿勢は心強いと触れれば、


『こちらにはカプリアしかいないし、ダブルストは作戦に必要と見た。最もすんなりと貸してもらえたがな』

「そりゃ、まぁ二人の事だからね……」

「……俺からしちゃあ勘弁してくれだな」


 ビャッコ・フォートレスにドイツ代表が加勢する件について、フェニックス・フォートレスでマーベル達が実質権力を掌握しており、ガンボットにとっては少しでも彼女を他所へ回したい心境もあったのかもしれない。それと別に、彼女たちが自分を売り込むこともできると見なしていた事もあったのだろう。ただアンドリューからすれば少し苦々しい気分だが、


「アンドリュー君、ダブルストの支援砲撃が必要不可欠のはずさ。前はイーテストとディエストに出てもらいたいけどね」

「カプリアは別に構わねぇけど、あいつ絶対前に出てきそうだからなぁ」

「まぁ、あたいらがマーベル達の分まで前に出たらいいけどなー」


 アンドリューはマーベルとの共同作戦について、やりづらいと少し乗り気でない。それとこれとは別に彼女が必要とは認めてはいたものの、


「どっちみち、月まで向かうとなりゃあ、あの野郎とやりあう事も避けられねぇからな」

「確かゼルガとリキャストだったなー、もし出会ったらその気なのかアンドリュー?」

「勿論、あいつらを救う事が大事だけどよ、避けて通れないならその気だぜ?」


 リキャストとの対決は以前、休戦条約を締結した関係で有耶無耶となった――バグロイヤー側のハードウェーザーが現れた事への驚き以上に、ゼルガが自分と拮抗する腕を持つプレイヤーだとの事へ、どこか胸を躍らせているのか少しアンドリューの口ぶりが弾んでいるようでもあった。


「クリス君、トムとルリにも護衛として出撃させるかもしれない。アラート・ルームへとな……」

『エスニックさん、貴方の計画されたこの作戦を撤回するつもりはないのですね』

「……玲也君たちを回収した後に引き上げる準備もできてます。それでも無謀だと仰るのですか」

「最終通告を蹴るとはいい度胸ですね……貴方が私の制止を無視して勝手にした事もですが」


 一方エスニックの元に天羽院の通信が入ると、彼はどことなく冷ややかな様子で応対していた。電次元へ玲也たちを突入させる作戦も、天羽院の許可なく敢行している。つまり、二度スポンサーであるバーチュアスの意向を電装マシン戦隊は裏切っており、天羽院の警告も圧力をかけるようなものになりつつある。


「リン君や今後の事を踏まえて必要なものです。そもそも貴方が休戦条約に賛成した事について意味があったのかも怪しいですよ」

『あれは、ガードベルト・ステーションのスタッフが勝手に暴走した事だと貴方には教えました。これ以上好き勝手動いてもらいますと私の方も』

「利益が思うように上がらなくなると言いたいのですかな? 確かに貴方はスポンサーですからね」


 少し声を荒げ、天羽院がスポンサーに過ぎないとエスニックは指摘した。休戦条約をめぐってのことで不可解な個所は未だ晴れない事の不信感が積もった事もあり、彼の意向に従うままだとこの戦局は膠着したまま、所詮スポンサーに戦局を読めるわけがない捉えていたのもあった。


『ですが、私もこの戦争を終わらせようとするつもりでいます……ですので』

「そうしてくださりますと助かりますね。私たちも大勝負ですので」

『……一応一理あるとは認めますので、今回ばかりは黙って引き下がりましょう』


 ただ今回比較的天羽院は素直に食い下がった。ここで余分な時間なり力なりを使いたくない事もあり、エスニックは一応安心した様子であり。その上で気を取り直し、


「ならエル君、準備は出来ているね!?」

「はい! レフト・ライト・センターセクション全てスタンバイOKです!!」

「対ショック姿勢オールOK……フォートレス・バトルアレンジャー!!」


 艦長席のコントロールパネルにて黒いシャッターで覆われた個所が開かれた。露わになった赤いボタンをエスニックが握りこぶしを打ち付けるように。力いっぱい押す。

 ブリッジにブザー音が鳴り響き、ドラグーンが変形していく。甲板からせりあがり両翼が展開するとともに、甲板のミサイルポッドが浮上する、そして折りたたまれていたドリル状のラムが、機首として前面に突き出された。


「将軍、ビャッコ・フォートレスの変形も完了してます!」

「これより、バグロイヤー前線部隊の本拠地でもある月面への進軍を開始する! ロメロ君、ブルート君には特に活躍してもらう事になりそうだ!」

「は、はい……! ぶっつけ本番でも精一杯務めさせていただきます!」

「砲手として久々の晴れ舞台じゃん! ここで俺もかっこいい所見せないと!!」


 その名にふさわしく白銀の猛虎さながらの姿と貸したビャッコ・フォートレスとともに、青龍のような外観となったドラグーン・フォートレスが肩を並べ月面へと向かおうとしていた。

 

“休戦条約が決裂した今、電送マシン戦隊はバグロイヤー前線部隊へ大勝負を繰り広げようとしている。その内情としては電次元へ向かった玲也たちを迎え入れる為であるが、その玲也たちも電次元の惑星ゲノムで激闘を繰り広げようとしていた――この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である””

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