5-2 激突、電次元サンダー対電次元ストーム

「ってこの流れで、何であたしじゃないのよあいつは……」

「ニアさん、貴方が玲也様に嫌われているのでして?」


 そしてシミュレーター・ルームの観客席でニアが愚痴る。冷やかすエクスの姿が隣にいる事から玲也はリン、つまりネクストを選んだのだろう。またも出番がないと彼女は不機嫌そうに頬杖を突く。


「けどポーちゃんが戦うならクロストかネクストがいいって希望した事もあるからね」

「そりゃそうだけどさ……」


 シャルがニアを宥めると彼女は一応理解していたものの、親友の自分と戦う気がないのは何故だろうかとの疑問も少なからずあった。ニアがそれもありため息をつくが


「まぁまぁニアちゃん、エクスだって選ばれてないから深く気にしない方が良いよ」

「ちょっとシャルさん、それはどういう意味でして!?」

「そりゃ、僕が手を加えたネクストだもん。選んで当然……」

「それもそれでよい訳じゃねぇがな」


 エクスとシャルの口論へ突入しそうなタイミングでアンドリューが介入した。彼の言動からは玲也がネクストを選んだ事について思う所がある様子であり、


「アンドリュー、僕が手を加えたネクストに不満でもあるの?」

「あのなぁ、玲也が今後に備えてネクストをカスタムしたのは俺でも知ってらぁ。けど何事もそれでどんな相手でも来いとはいかねぇだろ」

「どんな鋭い武器でさえー、いーつか敗れる時があるっていうだろー」

「……それは誰にも消させないって言いたいけどさ」


 これまでの戦闘からの経験を通して玲也がシャルと共にネクストのデータへ手を加えた。ハードウェーザーはオンラインゲームのデータであり、そのデータに手を加えて実際のハードウェーザーに反映させる点も、オンラインゲームと似通う仕組みであった。

 だが、ハードウェーザー同士の戦いがスペックで物を言うのではなく、手を加えて強化しても相手との相性の問題も生じる。それもレインとの戦いを想定してネクストのデータに手を加えたのではないので、アンドリューとリタの指摘が間違っている訳ではない。


「キューブストのデータはあいつも目を通してる筈だが……直ぐパワーアップしたからってそうホイホイ使えるほど器用なもんじゃねぇってのによ」

「けど、そういう不利な状況から上手く立ち回れることもプレイヤーとして……」

「がきっちょは自分から不利な状況を作ってるかもぞー? しっかり慣らしたかなってもあるしなー」

「うぅ……」


 シャルが少ししぶとく反発するも、リタが少し悪戯あり気な様子で窘めると彼女は苦しかったのか反論が出来なかった。ハードウェーザーのデータに手を加えて強化するとしても、ある程度の慣らしがなければデータが電装されるにあたって最適化されるわけでもなく、何より実際に場数をこなして自分の機体の特性をプレイヤーが理解して動かせなければならないが、


「まぁ、同じ第3世代の同士で、不利な状況を巻き返せるかどうか……これで負けたらちょいと考えるか」


 アンドリューはとりあえず不敵な笑みを構えて不満気な様子を抑える事にした。それもシミュレーターでの勝負が始まろうとしていたからであり、大画面に表示された戦場は岸壁。荒々しく削られた高い崖に囲まれた海原であった。


『キューブスト・マトリクス・ゴー!』


 かくして上空に藤色のジャイロヘリ“キューブスト・ジャイロ”が電装された。レインの駆るハードウェーザーであったが、戦闘が始まったと見なされながら、サーモレーダーでの検知も含めて本来電装されたはずのネクストの姿が見当たらない。キューブストはローターを光らせながらホバリングを続けており。


「玲也の奴一体どうしたのよ。ポーがどうすればよいか困ってるじゃん」

「違うよニアちゃん、こっちのサーモレーダーを見ればわかるはずだよ」


 シャルがニアに対してパソコンのモニターを見せる。シミュレーターの小型モニターのデータを受信させたもので、僅かなタイムラグがありながらも赤と青の2つの点が動く――青の点は上空でとどまり続けており、キューブストそのもをさすう。そしてもう一つの青の点は海原の上を移動し続けていたのだ。


「この点がもしかしたら玲也でネクストなの? 全然姿が見えないけど」

「へへへ。これが僕の秘密兵器でトランスクロス! 姿を消しちゃう優れ物のマントさ!」


 シャルが言うには、ネクストの右肩に特殊なコーティングが施されたマントが施され、それが着用された状態なのだ。なおマントの装着位置から頭部が露出しているとの事だが、頭部のバルカンポッドを簡易型のジャミングポッドに換装して頭部を感知されないように対応しているためである。


「ほぉ、シャルそんな手間のかかるような事でネクストを消すとは随分ご苦労だったな」

「そうだね、玲也君がカイト・シーカーだけじゃ心細いって事で僕も必死に考えたんだよ!」

「じゃあー、なんで熱源でがきっちょの居場所がわかるんだー?」

「えっ……!?」


 シャルがリタの指摘で気づいたように驚いた表情を浮かべた。アンドリューがようやくかと言いたげな様子でため息をつく。


「あのなぁ……ノーリスクで透明になるってのは流石にご都合もいいとこだぜ?」

「い、いやノーリスクじゃないよ! これ一発でも被弾すると破れて使い物にならないんだし!」

「そういう話じゃねぇ、あの様子だとレインの奴が多分直ぐ見つけるな……」

「ということはポーがもうすでに手を打っていると! 流石!!」


 トランスクロスを纏い、いわゆるステルス状態で相手をかく乱しようとネクストが密かに動いている。しかしアンドリューから弱点を指摘されると、不動の姿勢で宙に留まるキューブストが脅威であると皆は気づき、ニアはなぜか指を鳴らしながら歓喜しているようで、


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『やはり相手は海上です。姿を消しても波の動きまでは消せないみたいです』

『その通りね。ブレストは空、クロストは海、ネクストは陸と単純に割り切れない所もあるのよ』

『はい、ローラーダッシュのスピードもあの崖のような場所では活かしきれません。ホバーである程度は』

『急斜面の崖よりも、なだらかな海の方が有利と玲也は見た。けどね……』


 アンドリューの危惧通り、レインとポーは既に玲也の手を読んでいた。その上で彼女は海原に向けて接近し、奇襲に出んとするネクストに対して少し余裕もあるようだった。


『念には念を入れてカイト・シーカーを展開させているのは分かるけど、生憎こっちもこう飛んでいる間はね』

『電次元兵器をレーダーとして転用する事が出来るのですが、これも常に使えるとは』

『でも使いどころを絞れば問題ない。常に便利なものを使おうと頼ったら駄目。そう都合のよいものを作るのも使うのも甘くないの』


 僅かに不安を抱えるポーへレインが優しく、そして自信ありげに微笑みながら説く。彼女にとってネクストのトランスクロスはチートに見せかけた小細工だと取るに足らないものであった。


『だからここから一気に止めるわ、ポー!』

『はい……!』


 レインの合図とともに、キューブストの両肩に設けられたから円盤状の弾頭“スターマイン・シーカー”を射出させては、補足した目的地へと一斉に爆散させる――熱源で確認されたネクストに接触した事を意味する状況であり、


「……メインカメラまでやられました!玲也さん!!」

「カイト・シーカー頼りになるか……やむを得ない!」


 トランスクロスが被弾した事で、ネクストのステルス効果は失せる結果となった。それだけでなくスターマイン・シーカーが一種の光熱弾であり、相手のセンサー類を狂わせる事が目的である。直撃を受けた事でネクストはメインカメラの機能が麻痺しており、トランスクロスをパージする動作も多少ぎこちない様子であった。


『さっきのヒラヒラ、君の自慢の切り札かもしれないけど、胡坐を掻いたらダメよ!』


 目の前でキューブストが変形しながら迫りつつあった。機首の前方に両足が180度突き出され、本体も両足と喪にローターにつるされるように真下へ90度スライド。両腕が腰のハードポイントに装備されたニュートロン・ガンへ手を取る、海原に浸るトランスクロスに大きな風穴を開けまるで彼らへ挑発するかのように大破させた。


「玲也さん、サブカメラ切り替え完了です!」

「分かった! カイト・シーカーの方もついでに頼む!!」


 サブカメラを機能させようとも、カイト・シーカーによる補助がなければキューブストを補足する事は難しい。波状攻撃を仕掛けようとする目的もあり、カイト・シーカーをパージさせアサルト・キャノンにより、ニュートロン・ガンを撃ち落とそうとしたのだが――キューブストは自分の両腕で敢えて攻撃を受けており、


「びくともしないのか!」

「玲也さん、やはりキューブストにビーム兵器は効かないかもしれません ガンを狙おうとしたと思いますが……」

「ゼット・コーティングか……!!」


 レインの言う通り、バルカンポッドがこの時使うことが出来ればと玲也は苦み走った表情を浮かべた。既に送られたデータである程度把握していたとはいえ、キューブストにはゼット・コーティングと呼称される、特殊コーティングが施されており、その効力はアサルト・キャノンが被弾しようともびくともしない様子から証明されていた。


『バルカンの方がこの場合有利だったかしら、最も今はつけてないみたいだけど!』

「きゃあっ……!!」

「この場合、ジックレードルか電次元サンダーに限られるとなるか……」

 

 ニュートロン・ガンがネクストの頭部へ被弾する――仮にバルカンポッドを残していたならば、ビーム兵器が通用しないキューブストへ有効打を与える手筈が増えていたかもしてないと、彼女の長髪に思わず苦い顔を浮かべる。ネクストの場合質量で相手を切り裂くジックレードルか、電次元兵器が通常のビーム兵器と異なる存在でして、ゼット・コーティングを押し切れるかにかかっていると判断するが、


「電次元ストームで仕留めるつもりですよ!」

「やむを得ない……!」


 ネクストが次の一手を模索していた中、急にキューブストの降下速度が速まっていた。海原めがけて飛び込もうとするキューブストの頭部――飛行の為に使われるローターが変形して一点を集中して射抜くような砲門へと形を変えていた。

 この変形時の隙を狙うようにしてネクストが左のジックレードルをサブアームからパージさせ、投擲すると共に左肩の関節付近の胸部へと傷をつけると共に、頭部の電次元ストームが一直線に放たれるが――。


「あのプロペラを先に壊す! 電次元サンダーだ!!」


 電次元ジャンプだを駆使して、すかさずキューブストの背後にネクストが現れた。海に向かい落下しつつあったキューブストがローターを再度水平、四方に展開していた最中であり、その隙を突こうと玲也は賭けに出る。右肩からのジックレードルを素早く振り上げるものの、


『ニュートロン・ジャベリン!!』

「何っ……うわぁ!」

 

 しかし振り向くや否や、キューブストの両ひざから矛状のやりが射出された。半円状の装飾が刃として柄に繋がれた状態でネクストの目前に現れた時、このジャベリンが奇襲ではないかと一瞬躊躇しつつも、ジックレードルを振り上げてジャベリンと接触させた――本体の質量を上乗せして振り下ろした鎌は、ジャベリンの柄を焼き切りつつあり――。


「ジャベリンが……コーティングされてないとでも」

「もしかしたらですが、至近距離からのビームですから、多分……!」

「……もしかしたら、おわっ!!」


 ジャベリンの柄が熱で爛れつつあるのは、ジックレードルの本体からビーム刃を展開させて押し付けている為である。ゼット・コーティングが施されようともビーム兵器の熱量そのものを直接押し付けられたならば――玲也の脳裏に何かがよぎった時に、ネクストの大勢が大きく前へとよろけた。ジャベリンを脚部から射出し終えると共に、キューブストが身をかわした上でニュートロン・ガンを背中へ被弾させて追い打ちに出る。


『あの状況でネクストは近づいて私を仕留めるしか方法はない。一方私は近づこうが離れようがどちらでも問題ないと……』

『電次元サンダー、来ますよ!!』

『慌てない、慌てない』


 水上を滑走するネクストの右手から電次元サンダーが放たれたが――キューブストは頭部のローターの下に備わる本体で敢えて受け止める事を選んだ。電次元兵器に対してその身で受け止める行為は無謀のようであったが、


「ぞんな……電次元兵器なのに!」

「まさか……電次元兵器には電次元兵器か!!」


 電次元サンダーが耐えきられる――キューブストは若干動きが鈍るもののそれ以外に目立った効果が見受けられない状況へリンは一瞬目を疑った。

 ただローターを帯びるような円状の光が紫色に輝きを増す事に玲也は気づいく。電次元サンダーの軌道がローターをめがけた時、キューブストが自身の身体でローターを庇うように軌道を合わせていた。


『流石に電次元兵器をそのまま耐えるのは難しいけど、電次元ストームを展開すればね』

『ゼット・コーティングで吸収し続ける事が可能ということですね』

『そういう事。私は長期戦に持ち込む形でも問題ないの。根負けしたネクストをストームでね……』

 

 そう言いながらレインはニュートロン・ガンを連射して牽制を兼ねながら、後退していく。間合いを取りながら持久戦へと持ち込み、こちらが消耗しきった状況で電次元ストームを砲撃体制へと変形させて引導を渡す事をレインは狙っているようであり、


「……このまま持久戦になれば確実に負ける。電次元サンダーが効かないまでは想定していなかった」

「早く電次元サンダーを止めた方が……でもだとしたら一体、どうすれば」

「あのゼット・コーティングの弱点はつかめたかもしれない。俺の言うとおりに動いてくれ」

「……はい!」


 キューブストのゼット・コーティングを破る――それが彼女を下せる唯一の術だと玲也は見なした。電次元兵器との合わせ技とはいえ、電次元サンダーまで受け止められたとなれば強襲に出るのみ――電次元サンダーを放つ事が止められると共に、カイト・シーカーがネクストのバックパックに連結されており、


『もしかしてエネルギーが尽きたかも……』

『悪あがきかしら? 電次元ストームで肩をつけるわ!?』


 電次元サンダーを放つネクストの動きが止まった――ハードウェーザーの中で燃費が良好なネクストだろうとも、電次元サンダーを連射しては消耗の一途を辿るのがオチ。キューブストもこの点は同様だが、ゼット・コーティングとビーム兵器の相性がかみ合うと持久戦でネクストをしのぐ事も容易であったが


「きゃあああっ……!!」

「……ピンポイントに突いてくるなんて!!』

 

 電次元ストームを砲撃形態へ変形させようとした最中、二本の光の筋がキューブストへと直撃する。ゼット・コーティングでビーム兵器を受け流す事がキューブストの特長と思われたが――キューブストは明らかに被弾した様子で後方へとのけぞった。


「この為にジックレードルを!」

「どう鋭い武器も、いつか敗れる時が来る……最もだ!」


 ジックレードルを敢えて投げつけた行動は、特殊なコーティングをされたキューブストの表面装甲を破損させる事が狙いであった。レインも仮にゼット・コーティングを過信していたから、優勢に転じる事が出来たのではないかと玲也は勘ぐったものの、それは先ほどの自分自身にも当てはまる事ではないかと他人事のようには思えなかった。

 だが、優勢に転じる事が出来るならとネクストは一気に飛び上がる。左手のジックレードルをドスのように突きつけながら、体勢を立て直そうとするキューブストへと切り込みをかけていく。


「このジックレードルなら、十分……何!?」


 ジックレードルがビーム刃を帯びるならば、ゼット・コーティングで覆われていた装甲を破損させ、引導を渡す事が可能である。至近距離へと切り込みをかけていくネクストであったが――両肩からのスターマイン・シーカーが繰り出されていった。威力の面からすれば一種の悪あがきに過ぎないようだが、相手のセンサー類を破壊する事が目的の光熱弾なら、十分足を止める事は可能だった。


「カイト・シーカーはまだ無事です! 早く……!!」

「ここまで来て、勝ちを逃したら……!!」

「……私だってそうよ!!」


 サブカメラが機能を停止しようとも、カイト・シーカーが健在ならば間近のキューブストを補足する事が出来る。あと少しで手に届く勝利をつかまんと、ジックレードルに全てをかけたものの――眩い前面から、藤色の閃光が、円盤状の刃がネクストの胸部へとめり込んでいった。微かにモニターが捉えた様子から、キューブストのローターが円盤状のビーム刃と化していたのだ。


「電次元ストーム……」

「こんな使い方が、あったとは……!!」


 ネクストのコクピットに光輪がめり込むようにして、機能停止へと追い込まれた。静かに海原へと落下していく彼は、かすかに上空へたたずむキューブストの姿を視界に入れた時、レインの

の勝利だとアナウンスがその時点で下された。

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