「ありのまま」(201809)

扇風機右に左に振り返る食卓の母リビングの父

泣きたいと思ったときに微笑んだ小さな私横たわってた

今はもう補正のきいた夏の日の今を生きてる私を超える

こぽこぽと水槽の中ゆらゆらと生きる魚とたゆたう私

幸せになんてなるのは許さないデッドボールを受け止めた君


ひかりの子どうしてそんなに包まれてあつくてまぶしいそこにはいけない

さようなら月の光の差す窓で別れを告げる生まれる明日

ねえいつか大人になるってなんだろうわからなかった今も昔も

鬼ごっごバトミントンに伝言ゲーム冬の放課後駆け抜けた廊下

雪の絵はいつかとけたら水になるそれでもいいと愛してほしい


ハグをした私ではない誰かとあなた少しの胸のいたみじわりと

大好きというのはいつも避けていた嘘になるのが怖かったから

君に手をのばせなくなる時計の針進めば遠く置き去りにして

あんなにも一緒に走った君はもう坂道加速ができなくなった

今笑うあなたは先に死ぬでしょう十二支四度の違いは遠い


置いていく独りぼっちにするのなら離れる前にどうすればいい

似合わない沈む気持ちを変えたのは「若草色の着物素敵ね」

まどろんだ助手席の窓真っ暗の田んぼに一筋光の尾っぽ

真っ白い紙面を埋めろ月末に親指黒くインクの匂い

のせられて君が着物を買った夜どこの祭りか思い出せない


間違ったどうしてこんな親子なのそれでも母は今でも母だ

晴れた日はきっとみんなが好きだけど私は雨の匂いが好きだ

車窓から見える海原空の色万年筆の色とおそろい

こんな日もあったと縁側お茶を飲み笑って話せる道でありたい

すっぱいとすぼめた3つの家トマトたわわに実る祖母の苗みて


空調が扇風機しかない夏に制服川の字吹き抜けた風

どきどきと胸が高鳴るリセットシーズンそんな思いをしなくなる春

パチパチと夜にたき火を囲むなら心置きなく眠っていける

向こう岸待ちきれないと渡った君と変わればよかった怒られるかな

とうもころしトライリンガル先生の言い間違いを気に入っていた



死に場所は本棚のそば埋もれたい生きる糧になったみんなと

教室の窓から見えたさやさやと揺れる葉緑あなたを詠んだ

凛として立ち続けていた先生は同い年か年下になった

静寂を愛することができるなら一人ではなく二人とがいい

守ろうねせっかくいるのよ135休日ではない時の記念日


重みある言葉や気持ちにつぶされそうでさらってほしい今日を昨日に

10年と少しを過ごした隣町歩いているとよそ者だった

くさっぱら順繰り坂道転がって誰もがシャツにつけてた緑

帰り道すれ違いながら口ずさむガソリンスタンドそれでも歌う

一人がいい無理して誰かといたくないそれでもやっぱりそばにいてほしい



運動会終わったあとに教室でたちこめたのは土の匂いか

ベランダと渡り廊下と屋上と今では電車で見える大橋

海ばかりだからいつかは山に行こう進学先の背景は山

1等星火星に金星きらめく夜めがね外す星が隠れる

履歴から一番上を迷わず押したあなたの声が聴きたくて


山桜あなたをうたう和歌を詠むかつての歌は今も讃える

きゅっきゅっと息吹きかけて指先を笑顔が泣き顔冬のキャンバス

宝船習字教室見守ったあの額縁はいまはいずこか

花が好き一緒に見たいといった君一人で見た花ただ美しい

吟色の日々を過ごして10年間シルバーチームに仲間を入れたい




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る