ベルリンの壁

ー ベルリンの壁 ー



1989


その時僕はベルリンにいた



つるはしを持った人が通りを行き交い


歴史が終わり 歴史が始まる



天は赤く花火で染められ おびただしい酒は地を這いまわる


一日中、終わりのない祭りが続く



僕は壁に近づいて、かけらを胸に


そして静かにポケットに入れる



帰り道 賢者が僕を呼び止める


「そのかけらを置いてゆけ」


僕は尋ねる


「どうしてですか?」


賢者は答える


「そのかけらは必要なんだ」


僕は尋ねる


「何に必要なんですか?」


賢者は答える


「新しい街に壁ができる」

「そのとき、それが必要なんだ」


僕は尋ねる


「何故、僕のかけらなのですか?」


賢者は答える


「壁は良くないが、戦争よりましだ」

「君はそれをよく知っているから」


僕はかけらを賢者に渡す



突然セピア色の風が舞う


遠ざかる 賢者の後を 駆け抜ける

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