第24話. 面倒な揉め事05

 如月桜は他人との接点が、関係そのものがあまり見られない。別にそんなことを聞いても、たとえ知ったとしても友達がいなくて可哀そうだとか、寂しそうだなんて、そんな上っ面なことは思わない。


 それは結局のところ仕事で客に対して笑顔で接するだとか、他人の気分が良いように接客業をするようなウェイトレスのようなものだ。建前、本当に思っていないことを平気で言うような奴らは好きじゃない。


 かといって如月桜のことをどう思っているかなんて大層、いや心底馬鹿らしい質問をされたら俺は直接的に、何もコーティングすることなく真実を語るだろう。



--如月桜という女はドライアイスだ--



 ここで「なるほどな」と納得していただけない人は「第17部分」を読んで欲しい。


 そこにいるだけで気温を低下させてくれる冷却器であり、その口から出る言葉もまた首尾一貫冷徹なものだ。「どうして生きているの?」なんて事も言われたことがある、存在意義否定されるとはこちらとしても驚きだったが。


 ただ一つだけ、少しだけ口を滑らすと如月という奴は、無言でそのまま過ごしていれば雪おn……ではなく、容姿端麗、博学多才でいわゆる「才色兼備」という言葉を具現化したような感じだった。



 何しろ初めて出会った日なんかは俺と対等に話せないな、とさえ思ってしまったのだ。


 というのも俺のような独りでいるような隠居生活を過ごす人物とその上で暮らす高貴族のような人物とは関りが無いと、一時は諦めのような何かがあったからだ。

 

 その結果がこれだ。なるほど、見た目でほいほいと人を判断してはいけないとはこのことであるようだ。



「で、何の用かしら?わざわざ私をこき使って荷物番までさせて何かいい結果は得られたの?」


「ああ、そうだとも。真相を解明する手立ては全て整った」



 神無月の提案と情報からオカルト部へと直行した俺だったのだが、ざっと見当違いだったようなので戻ってきた次第である。


 つまり、今俺は(さらに言えば神無月もだが)事が始まった出発点となる場、文芸部の部室にいるのだ(ちなみに第20部です)。



「ってことは犯人が見つかったの??」



 俺の横からグイッと体を押し寄せるこのスポーティーな彼女は神無月茜だ。


 神無月茜というと如月桜のその逆と言えば最もよく伝わるのだろう。文学秀才の如月に変わって、運動系や技術面なんかは神無月が上を行く。


 陽気に物事を把握し、解決するとか積極的に物事に顔を出すところを見ると、どうしても如月が持っていない部分を持ち得ているとしか思えない。


 そしてその興味心なのか知らないが何度も俺をからかい、騙しにくるのだ。率直に言えば、真逆。如月はロングヘア、神無月はショートヘア。外見だけでも差異が生まれる。



「『見つかった』ってもお前らも知っている話だろう?」



 そう、どうしてか俺がこの二人の仲を言わなかったのには理由がある。



「そもそも事が上手く運びすぎているのだよ」



 俺は小気味よく、まるで「まだ分からないのかい?ワトソン君」とあの超有名な探偵を装った。


 なぜそんなことをしたのかという明確な理由は無かったのだが、せめて言うのなら小説の中の登場人物にでもなろうとしたのだろう、いいネタが得られるかもしれないという安易な理由でだ。


 それと、念のため言っておくとこの二人の性格は相反しない。それは犬猿の仲の真反対である(それは言い過ぎかもしれないが……)と言ってもよいのもしれないが、実のところ馬が合う部分の方が多い。



 「つまらないわね」と冷ややかな眼光で俺を見てきたので、こほんと調子を取り戻すように俺は話し始めることにした。



「だからよ、俺がここに来て如月に会って、それから神無月が現れるーーなんてそもそもの一連の流れがすんなりと行き過ぎてるんだよ」


「証拠がないのにも関わらず、まるででっち上げのようなことをよくもまあ堂々と発言できるわね」



 そこまで裁判的な何かなのですか、これは?と心で呟きながらも、俺はそれ裁判官からの問いに対して答える。



「まあ、証拠はないな。それは隠さずに答えるよ、これは『予想』でしかないんだと」



 ゆっくりと息を吸い込んで新鮮な空気を肺に取り込み、



「とはいってもこれは俺の答えだ、結論だ。もう曲げることはないだろうよ」


 

 脳内でパズルを組み立てていき思考、回答が順に生まれ出てきた。



「なら、その答えを訊いてもいいかしら?」



 もちろん、と言葉に出さずに体でOKを訴えるように頷く動作をすると、再度呼吸を整える。



「犯人は…………」



 謎の沈黙が部室を漂う中、俺と如月との間で緊張状態を作り上げる。それを傍観するように神無月は…………目を輝かせて見守っているようだ。気が抜ける。



「あんただ」



 言葉を発しながら指を指す、その方向にいるのは如月桜本人であった。

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