第15話 お腹のすいた狼さん(1)


 馬車の中で、話せる範囲での説明をした。

 知り合いのキッド。彼らは通り魔事件について調べていて、その事件にクロシェ先生とメニーが巻き込まれてしまった。

 今日たまたま、偶然、あたしも街にいて、先生たちも街にいて、合流しようと思った矢先での出来事だった。キッド達が助けてくれた。事件はもう終わった。


 という流れにもっていくと、クロシェ先生が眉を凹ませた。


「…ということは、本当に危なかったのね」

「その、デヴィッドが馬車を止めて待っていたから、デヴィッドも危険だったんです。だから、少し移動してもらって、待ってもらってました」


 ただ、そのせいで、クロシェ先生とメニーが囮のようになってしまった。


「何事もなくて、良かったです。先生」

「貴女も無事で良かったわ。テリー」


 クロシェ先生が微笑む。


「ああ、本当に良かった。皆、怪我もなくて…あら?」


 クロシェ先生があたしの膝を見て、顔をしかめた。


「嫌だわ。テリー、怪我をしてるじゃない」

「…さっき、転んだんです。雪道で」

「屋敷に戻ったら、傷口を洗い流しましょう」

「はい」

「メニー」


 メニーがクロシェ先生の声に反応して、顔を上げる。


「大丈夫?」

「……あの、……ごめんなさい。まだ心臓がどきどきしてて…」

「無理もないわ。私も怖かったもの」


 クロシェ先生が隣にいるメニーを抱きしめた。


「大丈夫よ。テリーも言ってたでしょう? 事件は終わったから、もう大丈夫」

「…はい」

「よし、皆で手を繋ぎましょう」


 クロシェ先生がメニーの手とあたしの手を握った。あたしとメニーも言われた通り、手を握る。


「女神アメリアヌ様、お守り頂きありがとうございます。私達が無事である事に、心から感謝致します」


 クロシェ先生が呟き、あたし達の手を強く握りしめる。


「さあ、これでおしまい」


 手が離れる。


「帰ったらゆっくりしましょう。メニーも疲れたでしょう」

「……はい」

「大丈夫よ。もう大丈夫」


 クロシェ先生がメニーの背中を撫でる。


「デヴィッドさんが来た時は、笑ってしまったわね」



 ああ! メニーお嬢ちゃま! 本当にご無事で良かった! ミス・クロシェ! 怪我はねえか! ああ、通り魔め! うちのもんに手を出したら、俺が許さねえからな!!



「うふふ! デヴィッドさんってば、面白かったわ!」


 クロシェ先生の笑いにつられ、あたしも少し笑ってしまう。


(デヴィッドがあんな風に心配してくれるとは思ってなかった)

(それに、屋敷のメイドも、あたしに気軽に声をかけてきた)


 これもトラブルバスターズの成果かしら。


(素晴らしいわ。ミッションは着実にクリアしていってる)

(このまま、使用人達の信頼はがっぽりいただくわよ)


 あたしは窓を見る。馬車が揺れる。景色が進んでいく。景色が進んでいく。景色が進んでいく。ゆっくりになる。


(ん?)


 どんどんゆっくりになる。どんどんゆっくりになる。どんどんゆっくりになって、やがて止まり、馬車が止まって、そのまま動かない。


「………………」


 沈黙が出来て、あたしと、メニーと、クロシェ先生が顔を見合わせた。

 メニーが不安そうにあたしの顔を見上げる。


「止まった…?」

「向こうから別の馬車が来ているんじゃないかしら?」


 クロシェ先生が窓をちらっと見る。あたしもつられて見たけど、音も、道の向こうに馬車なんて見えない。


「そういうわけでも、ないみたいです…」

「…雪が積もってるのかも」


 クロシェ先生が窓を開けた。


「デヴィッドさん、いかがされました?」


 クロシェ先生が呼ぶ。デヴィッドから返事はない。


「あら、本当にどうしたのかしら。ちょっと様子を見てくるわ。何かあったら手伝ってくるから、二人ともここにいて」


 そう言ってクロシェ先生が馬車の扉を開け、下りていく。あたしとメニーが顔を見合わせる。


「…何かあったのかな?」

「雪が積もってるのよ。多分」

「お姉ちゃん」

「大丈夫よ。もう少しで帰れるから」


 そう言って窓を閉めようとした瞬間だった。




 クロシェ先生の悲鳴が聞こえたのは。



「きゃあっ!!」



 叫び声に、メニーとあたしがぎょっとする。


「え?」

「っ」


 あたしは窓を閉め、即座に扉を開けた。


「あっ、お姉ちゃ…!」

「あんたはここにいなさい!」


 速やかに馬車から降りて、扉を閉め、前へ走ると、先生が口を押さえて後ずさる。

 あたしが駆け寄ると、クロシェ先生がはっとして、あたしにストップをかけた。


「テリー! 駄目! 止まりなさい!」


 あたしは止まらない。馬車の前まで走って、デヴィッドを見た。


「っ」


 あたしの息が詰まった。


(なっ)


 いつものふくよかなデヴィッドの体が、御者席に乗せられている。


(乗ってるけど)


 デヴィッドの頭がない。


「…………………」


 デヴィッドの体がふらふらと揺れ、ぱたりと倒れた。頭は、馬車の横に転がっている。

 残酷な背景の反面、馬達は、非常におだやかな顔。


「……………テリー」


 クロシェ先生があたしの肩を押した。


「中に戻って」

「でも」

「戻りなさい」

「でも、デヴィッドが」


 デヴィッドの頭が、誰が、彼の首を。


 転がるデヴィッドの頭を見て、目を閉じる彼の顔を見て、あたしはとてつもなく、嫌な予感がした。


(そもそも、クロシェ先生はどこで亡くなった?)


 あたしは情報を整理する。


 街からへの帰り道、道端で、変死体となっていた。街の中で、変死体で、見つかったわけではない。

 つまり、クロシェ先生の死に場所は『街の中』ではない。

 つまり、クロシェ先生の死に場所は『街の外』ではある。

 つまり、クロシェ先生は今、『街の外』『街からへの帰り道』。

 つまり、これはつまり、何が言いたいかというと、


(………………)


 まだ事件が終わってないとすると、

 まだ犯人がいるとすると、

 まだ通り魔が存在しているとすると、

 その通り魔が本当に化け物だったとすると、

 その通り魔が人間ではないとすると、

 生が移るのだとすると、

 死が移るのだとすると、

 死ぬはずのクロシェ先生が死をまき散らすとすると、

 デヴィッドが巻き込まれ、馬車は止まった。

 本来死ぬ運命にある人物はまだ生きている。


 命が揺れる。


 つまり、


 まだ、終わってない。




 がさりと、かすかに聞こえた音を、あたしは聞き逃さなかった。


「先生!!」


 叫んで、思いっきり突き飛ばして、クロシェ先生が雪の積もった地面に倒れた。あたしもその場にべしゃりと倒れた。


 一瞬、コートに、何かが、かすった。


 はっと上を見上げて、視線を動かす。右、左。後、前。


 風の音が聞こえる。

 木の音が聞こえる。

 何かがいる。

 何かが隠れている。

 何かが移動している。

 木が揺れる。

 気が揺れる。

 風が鳴る。

 胸が鳴る。

 音がする。

 音がする。

 周りを見る。

 辺りを見る。

 先生が起きる。


「起きないでください!」


 指示をする。

 先生も見る。

 あたしが見る。

 視線を感じる。

 上を見る。

 木を見る。

 木を見る。

 木々を見る。

 風が鳴る。

 見えないそれがいる。

 見えるそれがいる。

 あたしは手探りした。

 雪に埋もれ、地面に落ちていた木の枝の棒を握った。

 木を見た。

 起き上がった。

 また気が揺れる。

 また木が揺れる。

 風が鳴った。


 今度はあたしが突き飛ばされた。


「いっ……!」

「テリー!」


 悲鳴をあげる暇はなかった。クロシェ先生が悲鳴をあげる。あたしは何かによって、地面に押し付けられた。

 慌てて握っていた木の枝の棒を振り回そうとすれば、その手首をふわふわの手袋が物凄い力で押さえこんだ。振り向こうとすれば顔も押さえられた。雪が顔と体を冷やしていく。首が痛い。押さえつけてくる手が強い。誰だ。お前は誰だ。目玉を何とか動かして、何とかその相手を見ようとすれば、向こうから姿勢を屈ませ、その姿をあたしに見せた。


 見えたのは、赤い瞳。

 ぎらぎらと光る赤い瞳。

 奥の奥に黒い闇が見えるような赤い瞳。

 奥の奥に白い光が見えるような赤い瞳。

 その真っ赤な赤に、あたしは寒気がした。

 あたしを殺そうとするその目に、あたしは死刑台を思い出した。

 あたしは死ぬ瞬間を思い出した。


 あ、死ぬ。

 これは死ぬ。

 死んでしまう。

 嫌だ。

 死にたくない。

 死にたくない。

 ここまできたのに。

 クロシェ先生を助けたと思ったら、

 今度は死があたしに移ってきやがった。

 死にたくないからここまで頑張ったのに。

 嫌だ。

 この赤い目には殺意を感じる。

 この赤い目には無垢を感じる。

 あの場にいた、死刑執行人と、民衆の目を思い出す。

 憧れの王子様だった彼の目と、

 王妃となったメニーの目を思い出す。

 嫌だ。

 嫌だ。

 死にたくない。

 死にたくない。

 死にたくない!!!!!!


 あたし、まだ死にたくない!!


 あたしは暴れる。


「やめて!」


 首元に吐息を感じる。


「助けて!」


 あたしは叫ぶ。


「だ、だれか!」


 誰か、あたしを助けて――――!!!!
















 ―――――ばしゃっと、上から液体が降ってきた。


 怖がる事はない。これは、ただの冷たい水。

 あたしの皮膚に何も影響はない。


 突然濡れたことに驚いて、呆然と、唖然と、目を見開いたまま中心に目玉を戻すと、あたしの腕を押さえていた手袋が痙攣して、背中から、叫び声。


「あああぁあぁあぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 手が離れ、あたしは慌てて四つん這いの姿勢で逃げる。腰が抜けて起き上がれず、体ごと振り向かせてその光景を目に映す。


「見つけたぞ」


 ぼろぼろのマントを羽織り、顔を押さえる人物。

 その後ろには、


「中毒者。確保する」


 水鉄砲を構えるキッドが、にやりと笑いながら、その人物を鋭い眼差しで睨みつけていた。


「キッド!?」


 キッドの登場に驚きの声をあげると、周りから大人達が現れる。馬車を囲む。分かっていたように場所を囲む。マントの人物から湯気が立ち、それを隠すように顔を押さえ、体をふらふらと揺らす。積もった雪に倒れる。びくりと痙攣しながら、顔を押さえたまま、キッドに振り向いた。


 キッドがマントの人物を見下ろす。


「ようやく現れたな。待ってたよ」


 赤い瞳がキッドを睨む。


「事件の犯人はお前だ」


 キッドが赤い瞳を睨む。


「血を一滴残らず飲み干す犯人。そういうのをなんて呼ぶか知ってる?」


 マントの人物が立ち上がる。顔は押さえたまま。


「吸血鬼」


 空は曇っている。日差しは無い。


「日差しが無いから、この時間でも歩けるんだもんな?」


 風がなびく。マントが揺れる。


「違うなら違うって言ってごらん」


 水鉄砲をキッドが構え直す。


「この聖水を浴びながら、答えてみろ!」


 大人達が水を撃った。キッドが水を撃った。吸血鬼に向かって撃った。吸血鬼が飛び上がった。人間にはあり得ない高さで飛ぶ。大人達が水鉄砲を空に向けた。空から吸血鬼が下りてきた。撃った。吸血鬼はそこにはいない。キッドが撃った。吸血鬼はそこにはいない。大人が撃った。吸血鬼はそこにはいない。


「テリー!」


 クロシェ先生があたしに駆け寄った。あたしはクロシェ先生に振り向いた。クロシェ先生の傍に、吸血鬼の影が見えた。あたしは目を見開く。


「クロシェ先生!」

「させないよ」


 キッドが動いた。雪道を走っているとは思えないほど高速で走り、クロシェ先生の傍に居た影に水を撃った。影がいなくなる。クロシェ先生が濡れる。しかし、構わずあたしを抱きしめる。


「テリー!」

「クロシェ先生!」

「離れちゃ駄目よ!」


 クロシェ先生があたしを守るように抱きしめる。暖かい。クロシェ先生が生きている。


(吸血鬼)


 血を一滴も残さず飲み干す。


(…なるほど)


 クロシェ先生は狼に襲われたわけではなかった。吸血鬼に襲われていたのだ。


(でも)


 あたしはクロシェ先生の背中を、ぎゅっと掴んだ。


(先生は確かに、生きてる)


 その間も、水鉄砲による戦いは続く。影が移動して、避けて、避けて、水を避けて、一人を引っ掻いた。


「うわあ!」


 男性の腕から血が溢れる。また一人引っかかれた。


「うっ!」


 女性の腕から血が溢れた。吸血鬼が女性の腕に噛みついた。


「ぐっ!」

「この!」


 男性が水鉄砲を撃った。吸血鬼が消えた。女性の腕には、噛み痕が残る。


「キッド様!」

「大丈夫。策はある」


 キッドが銃を下ろす。


「レディを食べてしまう狼のお腹なんて、裂いてしまおう」


 キッドが耳を澄ます。


「そう。お腹がいっぱいになった狼が寝ているところを狙うんだ」


 キッドが銃を構えた。


「こんな風にね」


 ←↖↑↗→↘↓↙←


 吸血鬼が水を避けた。


「これはまだほんの序の口さ」


 ↑↓↖→←↑↓↘←↓


 吸血鬼が水を避けた。


「さて、お次はどうかな?」


 ↓→↓↑↖←→→↑↖↘→↓↑↓←←↘→


 吸血鬼の腕に、水が当たった。


「グウウアウアアアアア!!!!」


 獣のような悲鳴に、キッドが笑った。


「まだまだいくよ!」


→→←←→←→←→→←←→←→←←←←↘↓↑←↖↓↓↑→


「ギャゥアウアアアア!!」

「あはははは!!」


↑↑↓↓→←→←↖↑↑↓←↘←→→↓↘↑↖→←↓


「アアアアアアアウ!ウウウウアウアアアアアウウウアアアアアア!!!」

「こんなもんじゃないだろ!」


 ↑


「グッ!」


 ↑→


「ファッ」


 ↑→↓


「ギャッ」


 ↑→↓←


「ア、ああ、アアアアアアア!」


 ↑→↓←↖ストップ


「ここだ」


 キッドが銃を構えた。


「狙いを定めて」


 ATTACKしますか?


 YES← NO


 ぽち。とキッドがボタン押した。

 ぽち。とキッドが銃を撃った。

 水がATTACKされた。

 水が吸血鬼に当たった。


 吸血鬼のHPがゼロになった。


 ~~~~~~♪


 キッドのレベルが100に上がった。






 火傷だらけの吸血鬼が、雪の中に倒れた。




「……………………………」





 静かになった。




 じっと、誰も動かない。

 視線だけが動く。

 木を見て、

 音を聞いて、

 森を見て、

 音を聞いて、

 馬は不思議におだやかな表情をしていて、

 皆は緊迫する、

 キッドが動いた。


「…………」


 銃を構える。倒れた吸血鬼を見下ろす。ぼろぼろのマントが積もる雪に広がる。

 キッドがしゃがみこんだ。マントに手を伸ばした。


 その時、一人の声が響いた。


「……お姉ちゃん?」


 か細い、メニーの声が聞こえた。

 馬車の窓から、あたし達を見ていた。

 キッドがマントを翻した。


 吸血鬼は、いなかった。


 キッドがはっとした。振り向いた。風が吹いた。突風が吹いた。

 クロシェ先生があたしを力強く抱きしめた。突風が吹いた。

 あたしはクロシェ先生にしがみついた。突風が吹いた。

 デヴィッドの頭がころころ転がった。突風が吹いた。

 大人達が顔を伏せた。突風が吹いた。

 馬車の扉が勢いよく開いた。突風が吹いた。

 メニーの髪がなびいた。メニーが悲鳴をあげた。


「ひゃぁあ!」


 クロシェ先生が目を見開いて、叫んだ。


「メニー!!」


 風が止んだ。

 あたしは顔を上げた。

 クロシェ先生は硬直した。

 大人達が顔を上げた。顔を強張らせた。

 キッドが口角を下げた。馬車を睨んだ。

 キッドが迷わず水鉄砲を向ける。大人達も水鉄砲を向ける。


 馬車の上に、メニーを片腕で抱える小さな影が立っていた。クロシェ先生が顔を青ざめる。


「メニー!」


 クロシェ先生が叫ぶ。メニーがぶるぶると震えて縮こまる。赤い目がメニーを見る。キッドが狙いを定める。大人達が馬車を囲む。


 緊迫した空気。

 人質に取られたメニー。

 息を呑む大人達。

 睨むキッド。

 揺れる赤い瞳。

 何も出来ない事に唇を噛むクロシェ先生。



 その中で、一人だけ、



 あたしだけが喜んでいた。




(よぉおおおおおし!! よくやった!!)


 メニーが人質に取られた!

 あたしは拳を力強く握った。


(っしゃぁ! メニーに死が移った!! 死ね!! そのままくたばってしまえ! これは仕方ない死よ! あたしは何も出来なかった! メニーはクロシェ先生の代わりに、吸血鬼に殺される! やった! やった! メニーが殺される! やった!!)


 メニーが死ねば、あたしは死なない。

 メニーに死が移れば、あたしは殺されない。

 あたしは将来、死刑になることはない!


(やった!!!!!)


 あたしは心から応援した。


(頑張れ! 吸血鬼! そのまま、メニーを八つ裂きにしてしまえ!!)


「………………」


 赤い目がメニーを見て、ぼそりと、呟いた。


「違ウ」


 赤い瞳が興味を失くした。


「オ前ジャナイ」

「え?」


 小さな手がメニーを放り投げた。メニーが地面に落ちていく。


「きゃあ!」

「メニー!」


 クロシェ先生が叫ぶと同時に、大人達が動いた。メニーを見事にキャッチした。


(え、放り投げた?)


 あたしはきょとんと瞬きした。


(なんで? 殺さないの?)


「見ツケタ」


 突然、耳元で声が聞こえた。あたしははっと振り向いた。クロシェ先生が振り向いた。キッドが振り向いた。あたしはクロシェ先生の腕の中にいる。


(え)


 なのに、強い力で手を掴まれた。


(え)


 引っ張られる。


(へ?)


 抱えられる。


(ぎゃ)


 足がぷらーん、と揺れる。


(ひえ!?)


 あたしの血の気が下がっていく。


「あっ…!」

「テリッ…」


 クロシェ先生が手を伸ばす。あたしが手を伸ばす。しかし、その手を掴む前に、クロシェ先生が遠くなった。


(あ、先生)


 あたしはさらに手を伸ばす。


(たすけ)


 クロシェ先生の手が遠くなる。


(助けて)





 あたしは森の奥へ、引っぱられていった。














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る