第342話 引き分け

「「た、た、助かったたぁぁぁノだヨゾヨぐるぐる」」」


「助かったと言いながら、なんでまだぐるぐる回ってんだ?」

「「「なんかクセになったノだヨゾヨぐるぐる」

「おちゃめなやつらだこと」


「どこどこどこどこどこどこどこ」

「お前はいつもそこかよ」

「どこどこ?」

「知らねぇよ!」



 なにが起こったのか、アマテラスにはさっぱり分からなかった。ただ、なにかすごい音がして、自分があらぬほうに飛ばされていることだけが分かった。


 オヅヌは自分への悪口ならいくら言われてそれほど苦にはしない。だが、母親のことを言われてついカッとなってしまったのである。それがあのビンタとなったのだ。


「あっ」


 とオヅヌが思ったときにはもう遅かった。アマテラスはその衝撃で1メートルほど吹っ飛んだ。


 そしてその衝撃はアマテラスのバトルスーツも粉みじんにしたのである。


「オヅヌ、返す返すもGJである!」


 と俺は惜しみない賛美の拍手を送った。会場中の男性たちも同様であった。


 なんか俺いま、すっげーものを見ちゃったぞ。俺も俺も。アレは良いものだ。うんうん、美しい貧乳だった。貧乳言うな! つんと上を向いたケツは最高じゃないか。乳もあのぐらいでちょうどいいんだよ! 女は乳よりケツだぞ。いや、ふとももだ。すっきりしたウエストも見ろよ。貧乳はステータスだ! もうそれはいいから。


 これで、女性客にも男性客にも、満遍なく楽しんでいただけたようである。こりゃまたおめでたい。


「めでたいノか?」

「めでたいぞ。これで来年も客が呼べるだろ?」

「来年もやるノか?!」


「この時期のお祭りというのはほとんどない。だから集客効果は抜群だと思われる。もっとも天候によっては時期をずらす必要があるだろうけどな。それは臨機応変だ」


「ユウはお祭りを作ったということかヨ?」


「そういうことになるな。毎年、ここでお祭りをやろう。剣武祭とでも名付けるかな。そして毎年、オヅヌとアマテラスを招待するんだ。見たところアマテラスもオヅヌを嫌い抜いているわけではなさそうだ。年に1回、ここでデートという名のケンカをやってもらおう」


「あれ? 最初からそれが狙いゾヨ?」


「さすがにそこまでは考えていなかった。だが、あのふたりの戦いと観客の興奮ぶりを見て思い付いたんだ。アレは宣伝に使えるぞって」


 ふたりして、ほぼ素っ裸 ←アレ


「いや、毎年あんなことやってくれるとは限らんゾヨ?」

「大丈夫だ」

「なにその自信ヨ」

「あいつらはダメでも、ハルミとウズメがいる」


 あーあ、なるほどねぇ。と魔王たちが納得したころ、会場では異変が起こっていた。


 アマテラスは思い切り殴られたものの、その衝撃はほぼバトルスーツが吸収してくれた。代償はスーツがはがれ落ちてしまったことだ。


 アマテラスには裸を恥じるという概念は薄い。しかし、大きなコンプレックスがあった。それをこんな大勢の前に晒されて、それでパニックになった。


 裸のままで呆然としているオヅヌに突っかかっていったのである。そして


「みんなに見られちゃったじゃないの、このバカバカバカバカバカ」


 と言いながらオヅヌの胸を叩いた。その衝撃でオヅヌにわずかに残った乳首のスーツがはがれ落ちた。


 オヅヌは大失敗をした、という顔をしながら裸のアマテラスに攻撃させるがままにしている。アマテラスはその胸に顔を埋めてバカバカと繰り返しその胸の辺りを叩いている。


 うん、どう見ても、痴話げんかが終わったあとのバカップルである。


 ことの成り行きを呆然と見ていたのは、MCのミヨシも同じであった。しかし、ハッと我に返って自分の仕事を思い出した。


 どっちの勝ちにすれば? ミヨシは迷った。最終判断はスーツの破片を拾い集めて集計機にかけるのだが、ここで1次判定しなくていいだろうか。


 いままではそうしてきたのだ。今回だけそれをしないのはおかしい。


 試合経過を考えれば明らかにオヅヌ様の勝ちよね。アマテラス様は守ってもらってただけだもの。だけどあの光の球の攻撃がアマテラス様のものだとすれば、先にバトルスーツを剥がされたのはオヅヌ様のほう。だけど少しだけ残っていた。そのあとあぁぁもう、どっちでもいいや!!


 そんななげやりなMCの判断は。


「この試合、両者引き分けとします!!」


 おぉーーという歓声が上がる。えええっ! という声も上がる。しかし、判定に異議を唱えるほどの大声にはならないようだ。


 まあ、それならいいか? という空気である。それを感じてミヨシはホッとした。それではこれから表彰式に、と言いかけたときに意外な人物からクレームがついた。


「ちょっと待ちなさいよ! それじゃ私のラーメン券はどうなるのよ?」


 あんたは明らかに負けてたほうだから、引き分けなら儲けものでしょうが。と言うわけにもいかず、ミヨシはユウを見る。


 ユウはミヨシにこちらに来るように手を振った。そしてなにかを耳打ちした。なるほど、とミヨシはうなずき、戦闘場の中央に戻った。


 そのうちに、アマテラスにはワンピースが、オヅヌには武道着が届けられ、会場の落胆を誘った。いや、どうでもいい。


「アマテラス様。オヅヌ様。この試合は引き分けとします。しかし、おふたりの健闘に感謝をして、賞品は両者に与えられると決定しました」


 わぁぁぁぁぁ!! おめでとう! お師匠様、良かったですねーー。アマテラス様最高! おめでとう! いよっ、シキミ卿の太っ腹!!


「ただし!」


 え? まだなにかあるのか?


「おふたりには、来年以降も同じ場所同じ期間に、また戦うという義務か課されます。それでよろしければ、賞品をお受け取りください」


 オヅヌはアマテラスを見る。アマテラスもオヅヌを見る。そこにはどこか親しげな表情があった。


「ワシはそれでかまわん。来年もここへ来ると約束すれば、今日そのニホン刀をもらって帰れるのだな?」

「はい、この時価280万円のニホン刀を一振り、進呈したします」


 値段までアピール。ミヨシもGJである。


「わ、私だってかまわないわよ。来ればいいんでしょ、来れば」

「はい。それなら、この1日ラーメン食べ放題チケット10枚綴りを差し上げます」


 今度は値段を言わなかった。ミヨシGJである! ニホン刀に比べたら値段が安すぎるからな。アマテラスは気づいていないようなので、そのまま知らないでいてもらおう。


「ちょこちょこ、ユウらしい姑息な発言があるノだ」

「姑息言うな。俺は経営のことを考えてるんだよ!」


 これで、来年もこの祭りをやるという宣伝もできた。


 お祭りはシキ研新商品にとって、絶好の宣伝場所になることに俺は気がついた。良く考えれば、お祭りはニホン中にあるではないか。そこにシキ研の商品を格安で出して市場調査をする。感触しだいではそのまま販売するか、もしくはアンテナショップを立ち上げてもいい。

 どちらにしても、こんなに人が集まるお祭り。これを利用しない手はない。あのふたりには人寄せパンダになってもらおう。そしてエロ担当は別のふたりだ。


「そのエロ担当の話が出てこないヨ?」

「あ、それはこれからな。お楽しみに」

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