第334話 準備で多忙なのだ!

「ウズメ、ハルミに剣舞を教えてやってもらいたい。時間はあと2日しかないから基本だけでもいい」


「イセ様たってのお願いですから、かまいませんよ。で、あなたがハルミさんね。覚悟はよろしくて?」

「はい! それが私の剣技に磨きをかけるのであれば、ぜひにもお願いします!」


 ウズメ。アマテラスを岩戸から引っ張り出すときに、踊りを踊ったというエロ女である。


「誰がエロ女よ!」


 エロエロ度700越えというステータスを持ち、その踊りでアマテラスを引っ張り出すのに成功したエロ女――ハルミの1/10程度に過ぎなかったとしても――である。


「だから誰がエロ……1/10ってなに? 誰のなんのことを言ってるの?」


 芸能の神として名高いウズメに、エロ度では1桁勝るハルミが絡めば、そりゃなにも起きないはずはないと見込んだのである。


 ただの踊りではハルミは嫌がると思って、剣舞ということにした。それを学ぶとお前の剣技はいっそう冴え渡るであろうという甘言も弄した。簡単に引っかかった。ちょろい女である。


 一方、踊りならなんでもできるウズメは、イセからの要請もあり、剣舞の先生となることを二つ返事で引き受けてくれた。


 俺はこのふたりの剣舞を、今回のメインイベントに据えるつもりである。


 しかし、ただのエロ踊りではアマテラスの気は引けないだろう。


 思い起こせば、あの肌を隠した重装備衣装。重度の貧乳コンプレックス。そのくせおだてには弱い二重人格。そして俺が縛ってやったときのあの表情。


 間違いない。アマテラスは変態だ。それもおそらくはユリ的な方向で。もしかするとどM属性もあるかも知れない。


 ただのどんちゃん騒ぎなら、岩戸から出ては来なかっただろう。ただの踊りでもそれはなかったはずだ。


 あのウズメがストリップをやったから岩戸から出てきたのだ。ユリなアマテラスにとって、それは見逃すべからざる事態であったのだ。

 それがあの日食事件を解決に導いたのだろう。そしてウズメはそのままアマテラスに気に入られ、ユリ仕えすることとなった。あ、なんか俺、うまいこと言ったな。


 だから、それをもう一度ここでやる。それが俺の作戦の全貌である。


「全貌の割には底が浅いノだ?」

「さっきまでビビりまくってたお前が言うな」


「それで、俺はあとなにをすれば良い?」

「イセはお祭りの準備だ。準備期間は2日しかないが、できるだけ盛大にやろう。予算は100万。俺が出す」

「ひゃひゃひゃひゃひゃくまんだと?!」


「足りないか?」

「多すぎるって言ったんだ。刈り入れが終わったあとの収穫祭でも予算は10万だぞ」

「あれ? ちょっと多すぎたか。まあ、いいや。余ったら余ったで仕方ない。がんがん使ってくれ。田植え前なら人手はあるだろ?」


「ああ、人手なら有り余ってるぐらいだ。戦闘に備えて集めた人員がまるまる使えるし。しかしいろいろいと調整が必要だ。ちょっといろいろ相談させてくれ」


「ほい。そっちはまかせた。ただし、メインイベントはウズメとハルミの剣舞だからな。それだけは忘れるなよ」

「それなんだが、どうせなら、こちらの人間にも剣舞をやらせたらどうだろう。うちの兵士たちにも剣舞好きが多いのだ」


「ああ、前座でという意味ならそれでもいいぞ。いまから人選できるか?」

「それもやってみる。しかし、これは忙しいことになったぞ。おい、重鎮ども全員に招集かけろ。マイド、お前も手伝ってくれないか」

「分かった、手伝うやん。だけど、当日だけは自由にさせて欲しいやん」


「それはかまわんが、どうしてだ?」

「お祭りは大好きやん。100万も使うお祭りを見て回りたい。なによりラーメンってものを食べたいやん」

「ラーメンは出るかどうか俺は知らんが?」


「出すよ。すでに2,500食は確保してある。当日までにはもっと増やせるだろう。ここの人口ならそのぐらいあれば充分だろう」

「おおっ、GJやん! それなら目一杯手伝うぞ!」

「すまんが、頼む」


 祭りの準備なんていう面倒なことはこいつらに一切合切まかせて、ハルミの指導はウズメにまかせた。で、ラーメン作りはクマノ撃退プロジェクトにまかせてある。


 ……そしたらやることがなくなった。


「いつものことながら、仕事を割り振るのがうまいノだぱくぱく」

「俺は自分ではなにもできない机上の……なに食べてんだ? 俺にも寄こせよ」


「ほいノだ。爆裂はまだたくさんあるノだ」

「ぱくぱくぱく。ちょっとお茶が欲しいな。おーい、イセ。お茶おくれ」


「「「自分で入れやがれ!!!」」」


「わぁお、驚いた。なんであいつら怒ってんだ? 仕方ない、自分で入れよう」

「それは怒られる理由があると思うノだ」


「ずずっ。とりあえずお茶の味はするな」

「ずずっ。ユウがいれるとあんまりおいしくないノだずず」

「反論できん。こんなときミヨシがいればなぁ」

「ミヨシはラーメン作りで忙しいノだ」


「ウエモン・イズナもスクナ・ミノウも同じだしなぁずずっ」

「ハタ坊までかり出されて大変そうなノだぱくぱく」

「イセやマイドも忙しそうに走り回ってるなずずっ」


「ユウ、ちょっと我は視線が痛いノだが」

「俺は別に。いつものことだもぐもぐ」

「なかなかユウの境地にはたどり着けないもノだなずずず」



「な、なぁマイド。こいつら殴ってもいいか?」

「イセ、お客様やん?!」


「なんか見てると腹が立つんだが」

「みんなが忙しくしているど真ん中で、良くもまああんなのんびりできるものやん」


「失礼だな。俺はこれから大切な仕事があるんだぞ」

「聞こえてたのか。どんな仕事やん?」

「アマテラスをおびき寄せる方法を考えるんだよ」


「アマテラス? どうしてあいつをおびき寄せる必要があるんだ?」

「お前ら、なんのためにこのお祭りをやるのか、全然分かってないのか?」


「「そりゃ、お前が説明してくれないからなっ!」」


 あれ、そうだっけ?


「流れで分かっているものだと思ってた。これは、オヅヌをなだめるためのお祭りだよ?」

「オヅヌがまるで荒ぶる邪神なノだ」

「なだめるのか?」


「ああ、そうすればオヅヌ軍の侵攻は止まるだろ」

「そりゃ止まるだろうけど、いったいなにをどうやって?」


「すでに兵士たちはラーメンでずるずる……じゃないゆるゆる? に懐柔済みだ。志気はそうとう落ちているだろう。オヅヌとしては、志気を立て直すか、戦争を延期するかの瀬戸際に立たされているはずだ」


「そのためのラーメンだったのか?!」

「あんなにうまく行くとは思わなかったけどな。進軍を遅らせながら、イセにはとてつもなくうまい食べ物があると、そう思わせれば良かったんだ」


「たかがラーメンひとつで……」

「ひとつといっても、それをあの街道にずらっと並べて、人員や材料の確保。生産体制の構築、馬車の配備と、いろいろ大変だったけどな」

「ほとんどウエモンとミヨシがやったノだ」


「お前は黙ってろ! まさか斥候があんなだらしない連中だとは思わなかったから、本体にラーメンを少しずつ食わせて、あの味を覚えさせながら侵攻を遅らせる予定だったんだ」


「それでは、敵がますます元気になってしまうのではないか?」

「今回の戦争目的が、イセの領地獲得ならその通りだが、最初に聞いた限りではそうじゃなかっただろ?」


「「あっ?!」」

「オヅヌの横恋慕というか、ある意味純愛というか。それに農民たちが付き合わされている。そういうものなのだろう?」


「そういえばそうだったような」

「そんなものと、真正面から衝突してどうするよ。まずはその志気をくじく。それを最初にやろうと思ったんだ」


「そ、そんなことを考えてたのか?」

「316話で『そういうことか。話は分かった。俺にまかせろ』って言ってたやん。あのときすでに?」


「その通り。そのときラーメンを作ろうと思ったんだ。それを街道にずらっと並べて食わせれば、腹が一杯なった兵士たちには厭戦感が生まれるはずだ。こんなうまいものがある土地に、どうして攻め込まないといけないのだろう、ってな」


「俺は、俺なんか、迎え撃つことした考えてなかった。いままでは実際にそうしてきた。それなのに、お主は最初からそんなことを考えてたのか」

「そんな手があるなんて考えたこともなかったやん。いや、たとえ思い付いてもそれを実行しようとなればまた別だ。どえらい勇気がいるやん」


「勇気なんか必要ないぞ」

「なんでだ?」


「これで、ラーメンの開発とその宣伝が1度にできるだろう? 戦争ってのは、たとえ小さなものであってもニホン中の注目を集める行事だ。なにもしなくても、この噂は広がる。勝手に宣伝してくれるんだ。そんなありがたい話があるのにどうして勇気なんか必要だよ」


「えっと、それを聞くと負けてもかまわないように聞こえるやん?」

「負けても俺にはなんの損もないぞ?」

「ひどいなおい!」


「お前らを助けるなんて言ったことは一度もないぞ。俺にまかせろ、と言っただけだ」

「きったねぇやつだなぁ!!」

「ただ、俺は戦争は嫌いだ。人が争うのを見るのも嫌いだ。だからその阻止のためなら全力を尽くす。それも含めてのまかせろだ」


「なんかうまいことはぐらかされたような気がするやん?」

「俺もだよ、マイド」

「なんなんだ、ふたりの魔王を手玉に取るユウってやつは?」


「ふたりじゃないノだ」

「あぁ、そうだったな。お前らはすでに眷属だったな。なんか分かってきたやん」


「俺も少し分かった。カンキチのホッカイ国で、ひとりも餓死者の出ない冬を過ごせたのは、決してフロックではなかったんだな。こいつの活躍があったからなんだ。しかし、この世界にこんなのがいるとはな」


「俺はシキミユウ。カミカクシだよ」

「カミカクシだったのか?! しかし、そんなものこの世界にはちょくちょくいるが」


「そうらしいな。こちらに新しい文化を持ってくるのがカミカクシだろう。だが」

「そう、そいつらは、別の世界の文化を知っていても、ここでそれを実現する力がないのがほとんどだ」

「俺みたいなのは例外のようだ。俺はカイゼン士だからな」

「ああ、そう聞いている。問題解決のプロだそうだな」


「その通り。その依頼に対しての答えが、あのラーメンと今回のお祭りだ。戦争はちょっと尻すぼみになってしまったが、それでもこの話は広がってくれるだろう。ラーメンという極上の食べ物の噂とともにな」

「そんなうまく行くのか?」


「戦争の宣伝効果はすごいぞ。お前らだって去年、関ヶ原の戦いがあったことは調べてあるだろう?」


「ああ、あれか。そりゃそうだ。戦争というのは一瞬で国同士のバランスを変えてしまうことがあるんだ。1国を預かる魔王としては、どんな小さな戦争だって自分の国に……え? まさか、あれもお主が?!」


「ああ、俺が関わってるよ。あのときはトヨタ公爵のエースから依頼を受けたんだ。それで斬鉄の剣士・ハルミを使って戦闘を終わらせた。あとから分かったことだが、その宣伝効果によってニホン刀やダマク・ラカス包丁など刃物の売り上げが倍々ゲームで伸びているんだ。戦争の宣伝効果は馬鹿にできないんだよ」


「だからあんな簡単に引き受けてくれたのか。……関ヶ原といえば、遠く離れた場所から戦車を斬る剣士がいたという話を聞いている。しかし、そんなこと信じられるはずがない。魔法かなにかだろうと想像していたのだが、まさかそれをやったのはお前か?!」


「いや、斬った俺ではない。ハルミだよ」

「あの、外で剣舞の練習をしている巨乳ちゃんやん?!」

「ハルミ殿だったのか!?」


「そういうこと。最悪の場合、ハルミには今回も活躍してもらうつもりだったのだが、クマノの斥候? レベルが低すぎて、その必要もなくなってしまったけどな。時間稼ぎするまでもなかった。その分、剣舞大会で働いてもらうつもりだ」

「ハルミの使い道がちょっと変わったノだ」

「黙ってなさいって」


「ちょっと待ってやん。我もその話は聞いてる。あれ、魔法じゃないのか? 離れたところから鉄を斬るなんてそれはもう伝説の……あれ? どこかでそんなのを見たような? 聞いたような? なんだっけ?」


「マイドは魔刀を知っているのか……オウミ、なんでそんなに全身で汗をかいてるんだ?」

「ななななな、なんでもないなんでもなんでもノだノだ?」


「ああああっ!!! オウミ! お前だっ!!」

「たた確かに我は我なノだ!!!」


「なんの話だよ! ふたりともとっちらかってんぞ」

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