第310話 第6章 魔王会議編

 魔王会議の開催場所は毎年持ち回りであり、今年はカンサイ国となっている。


 ここはカンサイ国でも最大の都市・ナニワ市にある、魔王・マイドの別邸である。魔王が集まった部屋は、来賓室であるらしい。


 もうみんなが集まったころだろうと、満を持して会議開催時間の10分前に入ってきたのはマイドであった。


「みなさん、お待たせ……ってまだ集まってないやん?!」


 魔王は全部で7人いる。ニオノウミ国のオウミ、ミノ国のミノウ、エチ国のイズナ、イセ国のイセ、カンサイ国のマイド、ヤマト国のヤマト、それにホッカイ国のカンキチ。以上である。


 そのうちの2名、カンキチとヤマトがまだ到着していなかったのである。


「おぉ、マイドか。久しいな。今回は世話になるヨ」

「ミノウか! 久しぶりの参加やん。しばらく姿を見なかったが、いったいなにをしとったん?」

「ちょっと、いろいろあったヨ。でも、これからはちゃんと出るヨ」


「どもなノだ。さっそくいただいているノだ。キャラメルは歯にくっついて食べにくいノだ。あと、甘みが足りないノだ」

「オウミはいつも文句から始まるな。それなら食べなきゃいいやんか」

「出たものは食べないと失礼ノだ」

「食べておいて文句言うほうが、ずっと失礼だと思うやん?」


「マイド、今年はお世話になるゾヨ」

「去年はイズナのとこで世話になったな。そのお返しは今年するつもりやん。ゆっくりしていってくれ」


「まだ、ホッカイとヤマトが来てないようだな」

「イセは良く来るから懐かしくはないな。そういえば昨日からこっちに来ていたそうやん。うちに泊まれば良かったのに」

「そうはいかん。これは仕事だがあれは私用だったのだ。この辺の古い神社を巡って挨拶してきた。付き合いのある神社もあるしな」


「ケンカしている神社も多いようやん?」

「ああ、一番古い神社はどこかという話になると、どうしてもな」

「魔王の中ではイセが最古参やろ。そんなことで争わなくても」


「性分でな、きっちり片を付けないと落ち着かんのだ。それにしてももう10分前になるのに、クラークとヤマトはまだ到着もしてないのか。けしからんやつらだな」


「相変わらずお主は固いな。そういえば、クラークはカンキチと名前を変えたそうやん」

「なに、名前を変えたのか? いったいどうしてまた?」


「なんでも、ある人間の眷属になって、そいつに名前を付けてもらったそうやん」

「なんだそれは? 魔王が人間ごときの眷属にか?!」


「あ、それ、我もだヨ」


「はぁぁ?!」

「どういうことだ、ミノウ」


「どうもこうも。クラーク……カンキチだけじゃないヨ。我も眷属になったということヨ」


「「はぁぁ!?!??!」」


「ちょっ! 簡単に眷属になったとか言うが、お前には魔王として矜持ってものはないのかっ!! そんなやつは魔王の権利剥奪だぞ!!」


「落ち着けイセ。魔王の指名はオオクニの権限だ。いまはお主ではないぞ」

「そ、それ、それはそうだが。人間の眷属になったものなどに、魔王としての仕事ができるはずが」


「あ、我もなっているノだ」

「「オウミ、お前もか!!!!」」


「な、なんだ、なんなんだ。いったいどういうことだ。いまは魔王が人間の眷属になるのが流行っているのか。乃木坂がどこにあるのか知らないとおっさん扱いされるのか!」


「なんの話ノだ?」

「それは地名ではないヨ。乃木神社近くにある坂のことを」


「そんなことはともかくだ! えぇと。まずはカンキチ? から聞くが、なんていう人間の眷属になったんだ? 有名なやつか?」

「ユウ、というやつだヨ」

「ユウ? 知らんな。どこかの御曹司か? 魔法使いか?」


「12才の少年なノだ」

「なんでオウミが返事をする? お前も知っているのか? ってただの12才のガキだと?!」


「「知ってるもなにも、同一人物なノだヨ」」


「同一人物? 誰と誰が?」

「我とオウミとカンキチが眷属になった相手だヨ」


「「「はぁぁぁぁ!?」」」


「おま、お前ら、ちょっと、待ってくれやん。お前らそろいもそろって、そのユウとかいう子供の眷属になった、とでも言うつもりやん?」


「「「そうなノだヨゾヨ」」」


「待て待て。ひとり増えたぞ!? イズナ、お前もか?!」


「イズナはどさくさに紛れて入ってくるでないノだ。お前は違うだろうが、ぺしぺしばし」

「良いではないか、我だって似たようなものだゾヨ、ばりばりばりぼり」

「あ、そういうことは我も混ぜるのだヨぽかすかぽんたん」


「止めろ!!!!!」

「「「はいっ!」」」


「はぁはぁ。お主らの仲が良いのは分かっているが、いまは我らの疑問に答えるやん」

「分かったノだ。なにが聞きたい?」


「俺から質問させてくれ。そのユウという人間の眷属になったのは、お前ら……ミノウとオウミとカンキチとイズナの4名なのか?」

「いや、イズナは違うヨ」


「似たようなものだゾヨ。我は、ユウの部下であるウエモンという魔法使いの眷属になったゾヨ」


「ややこしいな。ということはそのユウというやつは、オウミとミノウとカンキチを眷属にして、さらにイズナを眷属にした人間の上司であると?」

「イセは物わかりが良いノだ。さすがなノだ」


「そこで褒められても嬉しくねぇよ。どうしてそんなことになったんだよ。ユウってのはたかが選手……じゃない人間だろ?」

「いま、老害っぽい暴言が聞こえたヨ?」

「気にするな」


 そいつ、このニホンを征服するつもりじゃないのか? という疑惑をイセは持ったようである。


「それを最初から説明するよりも、見せたほうが早いと思うのヨ。な、オウミ」

「分かったノだ。これを見るノだ。まだできたばかりなノだが、これはすごいものなノだ」


 オウミは、ふわふわを取りだし、それに乗って見せた。


「な、なん、なんだそれは?!」

「オウミは自分の魔法で浮いているやん?」

「それなら珍しくはないが、そうは見えん」


「これはふわふわというノだ。なにもしなくても勝手に浮くノだ」


「「「はぁぁぁぁぁ?!?!?!?!?!」」」


「なんでイズナまで驚いているヨ?」

「ワシは聞いてないぞ、そんなもの。まさか、まさかそれもユウが作ったのか?」


「「なんだって?! ユウってのは、そんなものを作れるやつなのか?!」」


「一度に質問しないで欲しいノだ。これは我が作ったノだ。しかし、これを作る権利はユウにものになっているノだ」

「なんでだよ!」


「それは、これを作る過程で、ユウという人間がポイントになっているからだヨ」

「そ、そんなものを人間が作ったのか」


「作ったのは我なノだ。気持ちよいノだよ、ほれほれ、ふわふーわ、ほいほいノだ」


「おぉぉー、確かに浮かんどる。魔力なしで浮かぶなんて信じられやん」

「オウミが作ったのに、なんで人間になんか権利をやったのか、俺には理解不能だ」

「オウミには再現ができないからだヨ」


「再現ができない?」

「オウミにはこれをもう作れないヨ。これを作る下地をユウが揃えたヨ。それでいま、この作り方を研究しているヨ」

「なるほど、まったく分からん」


「ついでにいうと、これもユウの発明だヨ。ほれっ」


 ミノウが魔刀を取りだし軽く一閃すると、テーブルの上に置かれて灰皿がまっぷたつになった。


「おおっ!? なにをする、ミノウ!」

「この刀は、離れたところから斬ることができるヨ」


「そ、そ、それは8万もする工芸品……」

「えっ?」

「昨日、ようやく手に入れたばかりだったのに……」


「驚いたのはそっちかヨ?! だが、すまんかったヨ。弁償するヨ。良い感じの塊だったので、つい試し切りしちゃったヨ」


「え、弁償してくれるならいいが。それにしても、その刀はすごいやん。その距離でなんで刃が届くのだ?」


「見えるものなら斬れるゾヨ。我も持っているよ、ほいっ」


 すかっ。と今度は湯飲みが斬れた。


「あぁぁぁ、そそそそ、それは有田焼ぃぃぃぃ」


「んじゃ、我もやるノだ、ぺいっ」


 すかっ。と大皿が斬れた・


「あぁぁぁ、そそそそ、それは古瀬戸ぉぉぉ」


「お前ら、この部屋中の調度品を全部壊す気か!」

「あぁぁ、我が別邸の価値が下がってしまったやん!!」

「いや、それほどのことではないだろ?」


「弁償してくれるんだろな! チラッ」

「「すまんかった。いくらノだゾヨ?」」


「ぱちぱちでぱち。お安くしときまっせ。こんなもんで」

「ふむふむノだ」

「ワシにはソロバンの目は読めん。いくらになってる? オウミ」

「我に分かるはずないノだ」


「いまふむふむって言ったではないか!!」

「分からないからふむふむと言ったノだ!! やんのか」

「ややこしい言い方をする出ないゾヨ!! やってやろうじゃ」


「お主ら、争いはやめるヨ。ソロバンには両方足して120万と出ている……こら、マイド。お主、そうとう盛ったであろう」


「盛ったわけではないやん。大事な皿や湯飲みを斬られて、傷ついた我の心の分まで請求しただけやん」

「慰謝料まで請求する魔王があるか! お前も商人なら正しい価値を請求しろ!!」


「「「イセは固いな?!」」」


「あれ? なんでそこでお前らが声を揃えるんだよ! オウミとイズナは俺に感謝すべき側じゃないのか? 俺を孤独にするなよ」


「なんというか、こういう値のやりとりも楽しみのひとつなんだゾヨ。我の斬った湯飲みは5万、オウミのは11万ってところであろう?」


「へい、その通りでおま。イズナはそういうの強いな」

「ワシのとこも、交易で成り立っておる領地だからゾヨ。ものの値段はある程度詳しいゾヨ。エチ国にはこれといった商品はいままでなかったから」


「いままで?」

「ああ、今年から小麦の生産を始めるゾヨ。そのための資金をユウが出してくれて、できた小麦もユウが全部買ってくれることになっているゾヨ。来年は税金も払えそうだゾヨ」


「「誰なんだよ、そのユウってやつは???」」


「ともかく、弁償するノだ。マイドのいつもの口座に振り込むノだ」

「あ、我も振り込もう」

「そうだった、じゃワシも」


「お、おう。そんなに急がなくてもいいが。安いものじゃないのに、金払いが良くなったものだな」


「ユウのおかげで我が領地は儲かっているヨ」

「我もいろいろおこぼれをもらっているノだ。ソロバン作りのアイデアが採用されてインセンティブもらったり、運搬部長としての手当を支給されたり。いろいろ現金収入があるノだ」

「ワシもウエモン経由でいろいろ収入になっているゾヨ。あのドリルではずいぶん儲かったゾヨ」


「「誰なんだよ、そのユウってやつは???」」


「それ、2回目だヨ。ユウはカイゼン士、というものらしいヨ」

「カイゼン、ってなんだ?」

「本人は、問題解決のプロだと言っておったゾヨ」


 問題解決のプロ? そんな職種がこの世にあるのか。しかし、それならもしかして、あの問題も?



 続くノだ

 どんな問題なのだヨ?!

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