第235話 さらば、青春のアイヅ

 ミ、ミノウが切れた?!


「ぷんぷんぷんヨ」

「分かった分かった。これからちゃんと聞くから。なんだミノウ?」


「じつはヨ」

「ふむふむ」


「……なんだったっけ?」


 あぁあぁあぁどどどどどっ。


「怒っておいて忘れるやつがあるかぁ!!」

「ち、違うのだヨ。怒ったから忘れたのだヨ。久しぶりだったもので、我も驚いてるのだヨ」


「自分で驚くなよ。手を上げたら回答を忘れる木久扇さんか。流れからしてミノオウハルのことだろ?」

「えっと、そうかな。そうだな、そうだそうだ、それだヨ!」


「それだは分かったから、それがどうした?」

「このあとハルミはイズモに帰って、アメノミナカヌシノミコトから識の魔法を授かるのであろう?」

「はい、その予定です」


「それで問題は解決ヨ」

「はぁ? どうして?」

「識の魔法は精霊を使うのだヨ」

「ああ、そんなことを言ってたな」


「それを授かるのなら、問題解決だヨ」

「だからなんでだ……精霊が解決するのか?」

「ヨ」


「えっと、精霊の力を使えるということは? その、属性には光が入るということか?」

「光だけじゃなくて、全属性が入るノだヨ」

「「「ええええっ!!?」」」


「なんだそりゃぁぁ! それじゃ、俺たち、なにもすることなんか」

「ないのだヨ。と言おうとしているのに、ちっとも聞かなかったのはお主らではないか」


 そういえば、アメノミナカヌシノミコトは全属性があるから光が白いとか言ってな。ということは、ハルミはそっち側の人間になるってことなのか? だから史上10人とはいない聖騎士なのか。なんかエライことになってきたな。


「お前は、ハルミにはもうミノオウハルは使えないって言ったじゃないか」

「そんなこと言った覚えはないヨ」

「いや、確かに言った」

「レベル上げでは永遠に無理だとは言ったヨ?」


「ほら言った……レベル上げでは?」

「ハルミがそう聞いたから、その通りに答えたのだヨ。このそそっかしんぼめが」

「あれぇ?」


「いまのミノオウハルは、光属性がたくさんある。それをカバーするのに、レベル上げぐらいでは到底追いつかんであろうヨ」

「そーれは、そー言って、いたよーな」


「であろう? しかし識の魔法を授かればその制約はなくなる。全属性を手に入れたのと同じヨ。今後、ミノオウハルがどのように進化しようとも、ハルミが使えなくなることはもうあるまい。そう言おうとしているのに、黙ってろと言ったのはユウだヨ」

「あにゃにゃにゃん」


「ととととととということはですよみのうさまったらわたしはそのあのあれのあのみのおうはるをまたつかえるようになるってことであらせられませられ?」

「ハルミ、息継ぎぐらいするノだ。わけが分からんノだ」


「ハルミはイズモで識の魔法を伝授してもらえば、ミノオウハルをまた使えるようになるんだな」

「その通り。識の魔法を受ければ使えるヨ。なにもダンジョンなどに行く必要などなかったのだヨ。すぐにアメノミナカヌシノミコトのところに行っていれば、いまごろはクドウも話ができるようになっていたことであろう」


「そういえば、オウミ」

「ノだ?」

「お前は、俺たちがダンジョンに行くのを止めようとはしなかったな?」

「しなかったノだ?」

「さっきの会話からして、精霊には全属性があるってこと、知っていたよな?」

「知ってたノだ?」


 さっきの会話

「えっと、精霊の力を使えるということは? その、属性はどうなるんだ?」

「全部なノだヨ」 ←これ


「知ってたよな?」

「知ってた……あれ!? ノだ」

「それなのに、ハルミがダンジョンに行くと言ったときは反対もせず、オウミヨシが使えなくなった原因については分からないと言ったな」


「あれ、それは、その、あノだ。いろいろあるノだ。ノだ?」

「ノだ、はいいからなんで分からないって言ったのか説明しろよ」


「お、おも、思い付かなかったノだ。そっちとこっちとが繋がるとは思わなかったノだ。仕方ないノだ。属性が足りないから使えなくなっていることには気づかなかったノだ。知識とはそういうものなノだ」


 自分でそういうものって言うな。確かにそういうところもあるけれど! おかげで遠回りしちゃったじゃないか。


「ユウ、オウミ様を責めないでくれ。私が愚かだったのだ。ミノオウハルが使えなくなって焦ったのだ。それで……」

「まあ、実害があったわけじゃないから、オウミを責めるわけにもいかないか。ダンジョンでレベルも上がったことだし」


「そうなノだ。我は悪くないきゃははははは」

「しかし、今後このようなことがないように罰は必要だ。くすぐっちゃるこちょこちょ」

「きゃぁぁぁぁ、あははよすノわはははは、わかったのだあはははは。反省するあははははノだきゃははは」」


「そちらの話は済んだのかな?」

「あ、ハニツ様。どうもお騒がせしてすみませ……ちょっとユウ。もうその手を離してよ」

「あ、なんか抱き心地が良くてだな」


「離せっての!!」

「んがぁっ」


 ハルミを抱きしめたままオウミをくすぐっていたのだが、無理に引き剥がされた。ミノオウハルがまた使えると分かったとたんに、ハルミからしおらしさが消え失せおった。

 あの刀、いつか煮えたぎる窯に放り込んでやる。


「そのときは死を覚悟しろよ!」


 に、睨まれた。なんで聞こえたんだろう。


「この話では良くあることなノだ」


「で、そちらの話は済んだのかな?」2回目

「あ、ああ、はい。済んでいます」

「ではハルミ。聖騎士としての、これが防具だ。アイヅからのプレゼントだ。持って行くが良い」


 ハルミの普段の出で立ちはタイトスカートにTシャツである。仕事着としては、迷彩服を支給されている。

 ハルミは、防具にはほとんど興味を示さず、ともかく動きやすいことを主眼に置いている。これは戦闘におけるニホンのサムライの特質であろう。


 そのハルミに防具をプレゼントか。ミニスカ・ボディコン以外は俺は認めないぞ。それと、できればスケスケで横に紐かなんかで結んであるだけで、ちょっと引っかけるだけで全部脱げてしまうような ご~ん痛い。


「途中から口に出ていたぞ!」

「いたたたた。あれぇ?」

「ハニツ様。こんな立派なものを、ありがとうございます!」


「サイズは合っているはずだが、一度着て見せてはくれぬか?」

「はい、喜んで。それでは、着替えてきます」


 そして出てきたハルミは和服美人と化していた。


 白の袴に白のシャツ。それに黒い胸当て。ご丁寧に足には足袋を穿かせてもらっている。


 剣道、というよりも弓道に近いような、そんなのどこが防具やねん! 的な衣装であった。


「防具はその胸当てだけだ。重くなるのをハルミが嫌がるのでな。本当なら胴回りやスネにも防具を当てるべきなのだが」

「いえ、これで充分です。これなら存分に動けますから」


 それでも正装したハルミは格好が良いのであった。ただ、露出が全然なくて俺はあまり嬉しくはない。


「お前を喜ばすためのものではないぞ、ユウ」

「まあ、どうせ戦いでは全部脱がされるエロエロ剣士だから、同じだろぐぅぅぅぅぅ」

「誰がなんの運命だって?!」

「ぐぅぅぅ、へるぷへるぷ。あんでもあひす、へるぷみ」


 首を絞めるなっての!


「こんなものまでいただいてしまい、本当にありがとうございます、ハニツ様。それにタノモも道場の皆も。本当にお世話になりました」


 パチパチという控えめな拍手がやがて大きくなり、歓声に変わった。なんだなんだ、いつの間にこいつはこんな人気ものになってたんだ? 食器棚に閉じこもっていただけじゃなかったのか。


「最後はともかく、あの試合はすごかったからなノだ」

「我も見たかったヨ。しかし、我はもう帰らないといけないのだ。ユウ、またな」


「あ、ああミノウ。突然呼び出して済まなかった。置いてけぼりにしたが、皆は元気か」

「ああ、ぶつぶつ言いながら仕事をしているヨ。あ、そういえば、イズナが魔鉄を作ったけど、イズナ用の刀にしていいかってヤッサンが言ってたヨ」


「ああ、そうだったな。今度は立ち会えなかったが、イズナ用の刀にして良いと伝えてくれ。ただし、ナイフとフォークはしばらくの間は禁止とする」

「食器は禁止なのか。どうしてなのだヨ?」


「イズナの属性は火だよな。以前作ったバイトの機能からすると、その鉄で食器を作るのは危険かもしれない。調査が終わるまで待ってもらいたい」

「危険なノか?」


「ああ、あのバイトは鉄でもなんでも簡単に削ってしまうだろ? あれは接点で猛烈な熱を出して溶かしているんじゃないかと思うんだ。そうでも考えないと、軽く当てているだけで鉄があんなにポロポロと削れるのはおかしい」


「ふむ、なるほどヨ。イズナの口が火傷するかもしれないか」

「なるとは限らんけどな」

「でも我らの食器で、口が切れたことはないヨ?」

「持ち主には影響ないかもしれない。だが、一応調べてからにしたい」


「それもそうだ。分かった、そう伝える。では、先にミノに帰るのだヨ。ユウもハルミも早く戻ってくるのだヨ。それじゃ、ひょいっ」


「ところでハニツ」

「なんだ?」

「最初にお願いした件は」

「ああ、決算書ならすでにイズモに提出したぞ。戻ったら確認してくれ」


「そうか、ありがとう。来年からはそれで頼む」

「ああ、分かった。もうマニュアルも作ってあるから、迷うことはない。楽で助かるよ」


「さすがだな。さて、俺は貰うものは貰ったし、義務は果たして用事は済んだ」

「うむ、こちらでの仕事は済んだノだ」

「私のクラスチェンジも無事に完了した。あとはイズモに戻って識の魔法を受け取るだけだ」


「スセリは、タダミとの試合結果ってどうなったんだっけ?」

「あの試合は、結局判定できずでしたの」

「判定できず?」


「飛び散った破片が細かすぎて、どちらのバトルスーツか分からなくなったそうよ。いい加減な測定器ね」


 いや、そういうことができることに俺は驚いたけどな。


「じゃあ、引き分けか。決着はまた次回に持ち越しだな」

「そうですわね。また楽しみができたということで、ヨシとしましょう」


「それでは、みなさん、お別れ……」

「ごらぁぁぁぁ!! 私を忘れてどうする!!!!」


「あれ、影の薄いハタ坊ではないか。どうした?」

「私はどうすんだよ、私は。せっかくお前の眷属になってやって、しかもダンジョンはしばらく休業なのだぞ」

「ふむ、それで?」


「それで、ではないだろ!」

「お前はどうしたいのかなって」

「あ、あた、あたしは、ほら。もともと、その、なにだろ?」


「分かんねぇよ!」

「あぁもう、これだけ言えば分かりそうなものだろ!!」


「……オウミ、俺たちをイズモに転送してくれ」

「だぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ユウ、なんか可哀想なノだ」


「まったくもう。ハタ坊、俺に付いて来たいのなら、きちんとそう言え」

「うがーー」


 ハルミの病気が移ったんか。


「ハタ坊、ユウは頭の良いアホだから、ちゃんと言わないと通じないのよ」

「誰がアホだ! ディスるなら最後までディスれ。褒め言葉を混ぜるな」


「分かったよ。あたしもお前についっていってやるよ。それが眷属ってものだろ。オウミ、私も一緒に転送しろ」

「ほいノだ。良いな、ユウ」


「なんか腑に落ちんこともあるが、まあいいや。移動するか、イズモ国へ」


「みなさん、お世話になりました。私はここで大人に、聖騎士になりました。私はここのことずっと忘れません」

「ああ、元気でやってくれ」

「僕たちもハルミさんのこと、絶対に忘れませんよ!」


「そりゃ、あのエロエロを見た以上忘れぐっぅぅぅぅ」

「ユウは黙れ!」


 かくして、俺たちは無事に仕事を終え、イズモ国に


「ごらぁぁぁぁぁ!!!」


 まだあるんかい!


「はぁはぁ。私にプレゼントするって約束がまだ終わってないでしょ!!」


 アシナである。


「ああ、そうだった。オウミ、もうポテチはないか?」

「食べ尽くしたノだ」

「爆裂コーンは?」

「持ってないノだ」


「ということだ、アシナ、また今度…… ごらぁ、首に抱きつくなよ、ハルミの」

「ぐ、ぐる、ぐるじいしむぅ」

「おいおい、アシナ。お客様にそれは失礼ではないか」


 アシナの目当ては俺じゃなくてハルミかよ。プレゼントどうこうはただハルミと一緒に行きたい口実か。


「プレゼントがないのなら、私も連れて行って」

「はぁ?!」

「いいでしょ? ハニツ様!」


「えぇと、良いだろうか、ハルミ?」

「え? ええ。私は別にかまいませんけど」


 俺には聞かないのかよこんちくしお。もうプレゼントなんかやらねぇぞ。


「それはそれで貰いますよ?」


「はいはい。分かった分かった。スセリ、人数が増えたけど大丈夫か?」

「帰りはオウミも転送魔法を使えるから大丈夫ですわ……あれ?」

「どうした?」


「あ、いえ、なんでもありませんわ。では、今度こそ帰りましょう」


 そして、ようやくイズモ国に戻って来た。





「ところで勇者・ユウはどこに行ったノだ?」

「作者都合で無期延期なのだよ」

「ふぁぁ?!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る