第223話 立ち会い

「ハニツ様。先に私たちの決着をつけさせて下さいませんこと?」

「あら、私はなら喜んで受けて立ちますわ。あなた、いいでしょ?」


「今日はハルミの試練という建前……言い訳で立ち会いをするのだ。お主らは遠慮しておけ」


 建前を言い訳と言い直しても、ぜんぜん取り繕えてないからな。お前らは要するに戦うのが大好き国民なのだろ。立ち会いで問題を解決する風習というより、そういうのが好きなだけだろ。ハルミの気質がすっぽりはまるじゃねぇか。


「ハルミさんの露払いを私たちがする、ということで良いではないですか」

「そうですわ。ハルミの前座を私たちが務めようというのですよ。なにが問題ですの?」


「ふぅ。まったく血の気の多いやつらだな。どうかなハルミ、すまんが後回しにさせてもらっても良いか?」

「はい。おふたりの立ち会いなら、私もぜひ見たいです」

「そうか、それならまず先に、タダミとスセリ様との立ち会いをしてもらおう。では、ふたりとも準備を」


 ふたりが更衣室? で着替えをしている間に、俺は立ち会いの仕方についてハニツに質問していた。ハルミに大けがでもされたら困るのは俺だ。あのじじいに半殺しにされかねん。そういう安全対策についての質問だ。


「それについては、我が国でも長い間議論となっていた。昔はなんの防具も付けずに木刀で打ち合うのが常であったから、人も育つのだがケガで戦線離脱する者も多数いたからな」


「防具なしで木刀ですか! そりゃケガ人が出ないわけがない。身体の大事なところには防具を着けて、木刀じゃなくてもっとクッション性のある得物を持たせるべきでしょう」


 俺の脳裏には日本の剣道があることは言うまでもない。もちろん、詳しいわけではない。俺は球技は得意だったが、武道はからっきしだめだ。あんな野蛮なもの、スポーツとは認めない(個人の感想です)。


 しかし竹刀や面、籠手の発明が、大勢の人間に剣の道を開いたことは知識として知っている。


 ここでもそのぐらいはやっているのかと、質問したのだ。


「そういう意見も出た。木刀の立ち会いでは実際に貴重な人材を失ったこともあったからな。しかし防具の強化や木刀を竹竿にしたりすることには、とても重大な欠点があるのだ」

「確かに、防具があるという安心感から、防御力を磨くというスキルがおろそかに」

「試合がつまらんのだ」

「そんな理由かよっ!!」


 思わずツッコんじゃった。


「やっと素に戻ったようだな。お主もイズモの太守なのだから、私とは対等だ。タメ語で話してくれ。こちらがくすぐったくて仕方がない」

「そ、そうか。そうだったな。なんかここの雰囲気に飲まれていた。俺らしくなかったなあははは」


「それで考え出されたのが、バトルスーツというものだ。ほら、あのふたりがそれを着て戻って来たぞ」


 そう言って指さした先には、着替えの終わったスセリとタダミがいた……たたたたたた?!


 いや、俺は痛くない。痛いのはそのふたりだ。なんだなんだなんだその格好は!? もじもじ君のコスプレか? それのどこがバトルスーツだよ!


 それは全身スーツであった。顔と手首。足首のところだけを除いて、全身をタイツのような布で覆っている。布にはつなぎ目らしいところは見当たらない。どうやって着たのだろう?


 スセリはピンク、タダミは赤という違いはあるが、どちらもプロポーションは丸出しである。これはエロい。スケスケよりもある意味エロい。すっごいエロい。ハルミにも着せたい。あ、あとから着るか。


 せっかくなので、ここはこのふたりを目を皿のようにしてふたりを観察することにしよう。


 スセリはもともとボンデージファッションだったから、それほどこのスーツに違和感はない。右手には真っ赤なムチを持っているのは同じだが、さすがにタカは置いてきたようだ。


 身長はタダミに比べると10cmほど低い。しかし胸のボリュームは遥かに豊かである。Fカップぐらいだろうか。ユウコと良い勝負である。先端の突起が透けて見えるのは、きっと俺の妄想であろう。


 きゅっと締まったウエストからヒップにかけての曲線が素晴らしい。長い手が武器であるムチをさらに長く見せている。まさに女王様の貫禄である。

 背中からケツにかけてのS字は、理想的なカーブを描いてすらりと伸びた太ももに届いている。その先のきゅっと締まった足首はアソコの締まりの良さを思わせる。


「なにかエロい妄想してますわね? あとでしばきますからね」


 一方、タダミはかなりの長身である。こちらはスレンダー美人と呼ぶのがふさわしい。アシナと同じくらいの中乳(Cカップと思われる)だが、バトルスーツから透けて見えるほどに腹筋が割れている。見たくないけど。


 お前はロシア人幼女が大好きな元自衛隊員かよ、とツッコみたいぐらいだ。もちろん、先端の突起が透けて見えるのはこれも俺の妄想に違いない。


 そして見事に鍛え上げられた太もも。それにケツ。これは良いものである。スセリのようなほっそりした足も良いが、太くてたくましい太ももも良い。その隙間に指を出したり入れたりしてみたい。これも締まりの良さが。


「ユウ。タダミは俺の嫁だと分かっているのだろうな? あとでぶっとばすぞ」


 それぞれから物騒なツッコみをもらって、さぁいよいよ、果たし合い……立ち会いである。


 得物はスセリがいつもの赤いムチ……だと思っていたが、あのとげとげはイバラでも付いているのか。それに、タダミの方は持ち慣れたというロング・ソードである。


 イバラのムチとロング・ソード?


「おいおいおい、ハニツ。良いのか、あれ。危険じゃないのか。ふたりとも思い切り致死性武器を持ってるぞ?!」

「かまわんとも。めったなことで死んだりはせん」


「いや、死ななければ良いってものではないだろ。ケガを防ぐために考え出されたとかなんとかがあるって言ってただろ?」


 あんな武器を使ってあのバトルスーツでは、ずるむけになる前に死人が出そうではないか。それじゃ、なにを楽しみに俺はここで見ているのかと問いたい。


(すがすがしいほどのゲス発言なノだ)

(極み乙女と呼んでくれ)



「ユウ。なにかよからぬことを考えてないか?」

「べべべべべ別に、そそそんなことないんだからね?」

「ところで、あのスーツも魔道具のひとつなのだぞ」


 魔道具? あのスーツとは名ばかりの全身タイツがか?


「あれはあらゆる攻撃を無効化する生地でできているのだ」

「はぁぁぁ?! なにその異世界生地」


「しかもある程度以上の衝撃を受けると、その部分が本人のダメージの代わりに破れてくれるのだ」

「はぁ。なにそのエロ世界生地」


「さらにそのダメージは逐一スーツに累積で記録される。試合が終わったときにスーツを脱いで集計器にかけると、ポイントとしてダメージの度合いを計測することができるのだ。当然だがダメージの多いほうが負けということになる」

「ほぉ。なにその科学的データ処理生地」


「……お主はなにをいちいちツッコんでいるのだ?」

「感心してるんだよ! よくそんなものが作れるなって」

「こちらには、魔法に長じたエルフがたくさんいるおかげかな」


「エルフが多いのか?」


 そういえばトウホグにはエルフがまだ多いって誰か言ってたな。


「そうですよ、ユウさん。ここには私の仲間がいっぱいいるの。スセリ様にお願いして連れてきてもらって良かった」

「スセリが強要したんじゃなくて、ユウコのほうがお願いしていたのか。で、エルフはこの近くにいるのか?」

「うん、いるよ。一番近いのは、そこで戦っている人」


 タダミかよ! あの人エルフなのか。あれ? ってことは、あれか?


「でもユウコ。エルフって確か」

「そう、無性生殖だよ?」

「だよな。ハニツはそれを承知で?」

「もちろんだとも。承知の上で結婚したぞ」


「ほえぇえ。そうだったのか。それで問題はないのか?」

「問題? エルフとだって普通にえっちはできるぞ?」

「いや、そういうことじゃねぇよ!! え? できるの? ユウコ?」

「あの、そこでなんで私をじっと見るんですか。目つきがいつも以上にエロいんですけど?!」


「俺の目つきのことは放っておけ! いや、いろいろ新しい情報が出てきてちょっと混乱しているんだ。ユウコはおっぱいだけじゃなかったんだな」

「最初からおっぱいだけじゃありませんってば!」


「えっと、だからつまりだな。俺が聞きたいのは、それで跡継ぎの問題とかでないのか、ということだ」

「この国の太守は、代々弟子の中から優秀な者を養子としてとっているのだ。ちなみに私も養子だ」

「そうだったのか。それなら出来の悪い子供しかできなくても、子供が生まれなくても、国は安泰というわけだな」


「まあ、そういうことだ」

「なんか、すごく合理的な国だ。俺はそういう国は好きだな。キノにもぜひ訪れて欲しい国だ」

「なんの話だ?」


「いや、なんでもない、こっちの話」

「そうか、じゃ、そろそろ」

「ん?」


「立ち会いを始めますわよ?」

「まだ始まってさえいなかったんかい!!」

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