第155話 酵母菌……だと?
ここはイシカリ大学の俺たちの部屋である。洞窟の部屋と違ってとても寒い。しかし広いので、イテコマシの出荷やエルフ薬の整理など、作業をするのにはとても便利なのである。
「くりんぱっ」
くるくるくる、ころりん。あ、入った。
「くるりんぱっ」
くるくるくる、ころりん。あ、入った。
うん、ひとりでやると必ず入るな。
「くるりん痛っ」
「なにをひとりでやってるんですか!」
「あ、モナカか。暇なら付き合えよ。ほら、このコマ貸してやるから」
「私は自分のじゃなきゃ嫌です。それより、そこ邪魔だから片付けてください」
邪魔者扱いされた。俺、所長なのにな(´・ω・`)
「しょんぼりしてもダメです。そこでイテコマシの発送準備するんですから、どこか別のテーブルに移動してください」
へーい。じゃ、あっちに移動しよう。部屋が広いだけではなく、テーブルもたくさんあるのだ。
「くるりんぱっ」
くるくるくる、ころりん。あ、入った。
「くるりんぱっ」
「あ、ユウさん、そこ邪魔です」
「今度はスクナか。お前はなにしてんの?」
「エルフ薬の在庫を分別してます。種類が多いのに、全部同じ瓶に詰めてあるんですよ。間違えたら大変なのでひとつひとつにラベルを付けているところです。種類ごとに並べたいのでテーブルをあけてください」
へーい。じゃ、あっちに移動しよう。テーブルならいくらでもある。
「くるりんぱっ」
くるくるくる、ころりん。あ、入った。
「あ、ユウ。そこ邪魔」
「カンキチお前もか……」
「お前に言われてエルフの里にあるイエローコーンをありったけ買ってきたんだよ。他に置く場所がないからそこをあけてくれ。それと請求書はシキ研に回すから払ってやってくれ」
余計なことかとは思うけど、シキ研とはシキミ研究所のことである。俺の研究所である。念のため。
「分かった。事務処理はあとでモナカにやってもらう。おっ! すごいじゃないか。そんなにたくさんあるのか?!」
「これでもまだ一部だ。あと200Kgほどはあるぞ。エルフの里でイエローコーンは毎年大量に生えるそうだ。一応、ヒエールの材料になるのでだいたい春までは保存しているらしい。だが、ほとどが余るからタダでいいからもらってくれと言われた。でも魔王の立場としてはタダってわけにはいかんから、格安で買うと言っておいた。値段はあとでユウが交渉してくれ」
「わかった。しばらくはとうもろこしの1/10ぐらいで我慢してもらおう。それでも喜んでくれるはずだ。爆裂コーンにすればけっこうな付加価値がつくから、販売が軌道に乗ったらもっと高くできるだろう。ところでなんだヒエールって?」
「熱冷まし薬のようだ。まだほかにも「トンデケ」薬とか「シシャトメ」薬とか「シュクダイワスレボウシ」薬なんかもあるそうだ」
待て待て。いろいろ気になる名前があったぞ?
「ヒエールは分かるとして、なんだトンデケって?」
「痛み止めらしい」
痛いの痛いのとんでけーか。やかましわ!!
「シシャトメは下痢止めだろう。シュクダイワスレボウシってなんだ?」
「ああっ。あれ、エルフが作っていたのね!!」
「そうだったの! 私も何度あの薬のお世話……被害にあったことか」
「あれ、スクナもそうだったの? あなたは優秀って聞いていたのに」
「私はよく忘れ物をするんですよ。でも、モナカ先輩こそ伝説になるほどの発見をしたそうじゃないですか」
「私が得意だったのは微生物だけよ。でもスクナは全教科で満点をとったんでしょう?」
「だけどその微生物で、新しい酵母菌を発見したんですよね。私なんかただの教養課程です。覚えるだけの簡単な勉強です」
いや、簡単じゃないから。それにしても、ふたりとも、相当な才媛だったんだな。よくぞシキ研に来てくれたものだ。
「で、そのシュクダイワスレボウシ薬ってのはどういう効能があるんだ?」
「「ものすっごい苦いんです!!!」」
はぁ?
「苦いだけ?」
「はい。それはもう思い出しても背筋が凍るほどの苦さで」
「あれ、毒じゃないのが不思議なくらいの苦さですよね」
「それがなんでシュクダイワスレ薬なんだ?」
「「忘れたら、それを飲まされるんですよ!!」
ああ、そういう……。ただの罰ゲームじゃねぇか! それ、薬である必要なんかあるんか。ほとんど青汁飲ませる罰ゲームの世界だ。
ところで、今の話の中で、ちょっと気になる話題があったんだが。
「モナカ、その酵母菌ってのはどういうものだ?」
「あ、ああ。あれはですね、ほんとに偶然に見つけたのですが、温度や湿度への耐性がとても強い菌なんです。高温でも低温でも乾燥させても死なないという、生命力にあふれた酵母菌なのです」
「すごいじゃないか。それなら発酵させるときに温度や湿度の管理が楽だろうな」
「ええ。その上に発酵力も強くて短時間で発酵が完了します。味噌などの増産に役立っているようです」
そんなすごいことやってたのか。ただ、俺のセクハラ行為を止めるだけのやつじゃなかった……待て? いまなんて言った?
「モナカ。その酵母、乾燥に強いって言ったか?」
「はい、言いました。それがなにか?」
それなら使えるかもしれない。天然酵母でもできないことはないが、時間がかかるのが欠点だ。いつか酵母を探そうと思っていたのだが、それがこんな近くにあったとは!
「モナカ。その酵母、すぐ手に入るか?」
「ええ、私のいた研究室に行けばいくらでもあると思いますが、この季節では使い道がありませんよ? 味噌や醤油にしてもお酒にしても、仕込むには遅すぎます」
「いや、ある。あると思う。それ、少しでいいから手に入らないか?」
「じゃ、ちょっと見てきましょう。100グラムぐらいならすぐにもらえると思いますが、そのぐらいでいいですか?」
「充分だ。じゃあ、もらってきてくれ」
「でもあの、私、まだ仕事が残っていて」
「最優先事項だ! それ、全部後回しでいい。それとスクナもそれ後回しでいい。ちょっとこれから言うものを準備してくれ」
「「ええ? じゃ、この続きはどうしましょう?」
「カンキチ、ケント、ジョウ。お前らでやってくれ」
「えええ? たまに出演できたと思ったらそれですか」
「今日の出荷分だけを優先してくれればいい。それ以外は後回しだ。それより、酵母があったんだよ、酵母が。あとでうまいもの食わせてやるから」
???? という無言の当惑もあったが、うまいものを食べさせると言われて急にやる気になったようだ。
俺はいつも自分の欲望を最優先にして突き進むのである。
くるりんぱ、なんかしている場合ではないのである。
「みんなが働いているときに、さんざんひとりでやっていたようなノだが?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます