第137話 コマのカイゼン

 さて。どうやってこのコマを強くするか。一番確実なのは重くすることである。


 ただし重心を上げると逆効果であることはカンキチが証明している。他のコマと衝突した瞬間に倒れてしまうことがあるのだ。だから重心は極力低くする必要がある。


 そういう意味ではモナカのやったことが、ベストに近いだろう。コマの下1/3を削って金属に置き換える。重さも増し重心も下がるという一石二鳥だ。

 あれはおそらく、今後のイテコマシコマのスタンダートになってゆくに違いない。


 しかし俺が目指すべきは、もっと先でなければならない。秘書に負けていたのでは格好悪いからである。


 うーむ。とは言ったものの、ただいまのところはボロ負けである。


「なんかまた始まったノだ。こんなのは放っておいてゲームを再開するノだ」

「そうしよう。モナカ、音頭を頼む」

「はーい、それでは始めますよ。せーの、くるりんぱっ」


 イテコマシがすっかり日常風景になっていて草。今日なんか天気も良くて暖かいのに、外にでなくていいのか? こういう日にこそなにか仕事(雪かきとか?)をするのものではないのか。


 ってか俺たち、この温泉にいつまでも泊まっていて良いのだろうか。


 まあ、旅館の人にイテコマシを一式プレゼントしたら、そっちはそっちでかなり盛り上がっているそうだから、苦情は出ないとは思うが。滞在費とかどこから出ているのだろう?


 それよりも、我がコマである。重くするにはどうしたら良いか。モナカ方式を採用(マネ)して、もっと比重の重い金属を付ければ話は簡単だ。

 モナカはステンレスを使ったそうなので、これを鉛に変更してやれば比重が大きい分だけ(約1.5倍)重くなり重心もさらに下がる。


 それだけでもしばらくはトップをとれるだろう。しかし、それではすぐにマネされて終わりだ。鉛を純金にすればさらに重さは7割増しとなる。これは高価だからなかなかマネはされまい。


 俺にも買えないけど。


 他になにか工夫はないものか。重さだけで勝負が決まるのなら、金持ちが勝利を独占してしまうことになる。これは庶民の遊びとして流行らせるのだから、それは好ましくない。


 なんとか安上がりにできるカイゼンはないものか。


 こういうときは、原理原則に基づいて考えると良いのだ。めったやたら打ちまくるブレーンストーミングなどと違って、関連する物事について次々に浮かぶ発想を連ねてゆくのである。俺はそれを思考錯誤と呼んでいる。


 試行錯誤ではない。あくまで思考錯誤である。


 その過程で間違っていたことに気づいたら、そこでその思考は破棄する。正しそうなものだけを突き詰めて考えて行くのである。


 この話の中ですでに何度かやっているので、気づいている人がいるかもしれない。その人はとてもエラい人である(ノ^^)ノよいしょぉ。


 これは「俺のオリジナル」思考法である。


 新QC7つ道具である『関連図法』と『系統図』を足して1.7ぐらい? で割ったものを頭の中だけでするものである。もちろん数字は適当である。深く考えたら負けなのだ。


 だから完全にオリジナルとは言えないかもしれない。いいのだ、こういうのは言ったもの勝ちなのだから。


 さて。それでは思考錯誤(とちょっと余談入り)の開始である。


 勝負に勝つには、盤中央の穴に最初に飛び込まなくてはいけない。そのためには、敵のコマを押しのける力が必要だ。それには重くしたほうが有利である。しかし重さには限度がある。すべてのコマが限度に達してしまえば、そこで進歩は終わりだ。


 子供向けのゲームなのだから、それが悪いわけではない。ただの偶然で勝ち負けが決まるだけとしても、これはそこそこ面白い。


 しかし大人でも楽しめるもの(ミニ四駆のように)にするには、工夫の余地がなければならない。じゃあ、重さ以外にどんな工夫ができるのか。


 現状、軸部分はタケウチから供給されているものだけを使うことになっている(俺がそうしたのだが)。加工ができるのはコマの本体部分だけである。


 コマというものは、手を離した瞬間にあとは勝手に動くものである。勝手に動くものをどうやってあの穴にまで導くのか。そしてこのゲームはその速度を競うゲームである。


 ゲームを始めた当初にまだ魔鉄を使った軸であったころ、コマを操っていたのがオウミとミノウだ。そうやって勝率を上げていた。では、どのように操っていたのだろう。


 魔法をかけたことは分かっているが、どんな魔法を使ったのだろうか?


 手を離した瞬間にぴょんって穴に入ったりすれば、それは他のメンバーにすぐバレるし、それではゲームとしての面白味はなくなる。しらけて皆が止めてしまうだろう。


 しかしそうならなかったのは、コマの動き自体を操ってはいなかった、ということだ。


 やつらは勝率を上げただけだ。それもオウミよりミノウのほうが強かったのはなぜだ? 最初は皆が同じコマを使っていた。その状態で勝率を上げるための魔法とは?


 オウミの属性は水だ。第2属性で光もあると言っていた。ミノウは土が第1位で、風と水の属性も持っていたはずだ。


 イテコマシゲームでは、水より土のほうが強いということか。だとするとその理由はなんだ?


 俺ならどんな魔法をかける? コマを重くする魔法なんてあるのだろうか? そんなことしたらコマの回転を阻害しそうだ。重さじゃないのなら、他になにがある? 


 他のコマを押しのけるにはまずは重量だ。そこに速度が加われば運動エネルギー(重量×速度)となって力は増す。しかし、見ている限り、魔王たちのコマが早いというイメージはなかった。

 すると他に何がある? 空気抵抗? まさかそんな小さなものは関係あるまい。回転数を上げる? トラックマンでもなきゃ調べようがないが、それで強くなるという理屈がわからん。現実的でもない。待てよ? 空気抵抗? 空気に抵抗があるなら……。


 ああっ!


 もうひとつ方法があるじゃないか! これはルールに抵触は……しないな。


 そうか、それか! だから土の属性を持つミノウのほうが強かったのか?!


 ということはだ。それを魔法以外で再現すればいいのだ。よし、方向は決まった。まずは素材探しだ。


「おーい。ユウコ。お前のとこでは膠って作ってないか?」

「ええ、ありますよ。あれは需要があるのでけっこう作ってます。ここは魚がいっぱい捕れるので原料には困りません。必要ですか?」


「ああ、少しでいいのだが手に入らないかな。もちろん買うから」

「はい。では里から取り寄せましょう。今は雪も上がっているので伝書ブタを走らせられます。1瓶100ccで20円です」

「……お安いなおい! じゃあ、1瓶……じゃ悪いな50瓶頼もう。なんか他にも使い道があるだろう。それと、ざらざらした感じの布ってないかな?」


「しなやかじゃなくて、ざらざらですか。珍しい注文ですね。麻で編んだ布なら安いですけど、たくさんいりますか?」

「いや、ほんのちょっとで良いのだが。摩耗に強いやつがいいな」


「ああ、それなら魔草にいいのがあります。鍋敷きなんかにもよく使われる布で、丈夫で熱にも強くてざらざらしてます。水分も良く吸うので、冬場は通路に敷いて滑り止めに使ったりします。ネコマタ木っていう木から採れるのですけど」

「……エルフの里ってのはネコという名前を付けないと、植物も生えちゃいけないルールでもあるんか」

「な、名前はただの偶然ですよ?」

「偶然とは思えないが……まあ、いいや。それも1枚売ってくれ」


「はい、1m四方で15円となります」

「それも安いなおい! じゃ、10枚で」

「さっそく取り寄せますね」


 しめてたったの1,150円だ。しかし俺の持ち金は125円……。


 たった1,150円が出せない研究所の所長ってorz


 ただし、俺が自由に使える研究所の予算は、まだ100万以上あるのでそこから出すことになる。


 それにしても、なんか間違っている気がするのだがなぁ。。。。


 ゴーンならうまくやるんだろうなぁ。ここに別邸とか建てさせたり、メイドさん雇ってトヨタが支払えよとか言ってみたり。


「危ない発言は慎んだほうが良いのだヨ」

「へーい」

「あれはニッサンではなかったノか?」


 そして(俺の感覚では)大量に原料が手に入った。ネコマタ木の布とやらはやや茶色のかかった白い繊維で、たしかにざらざらしている。それに丈夫そうだ。


 さて、これでできるかどうか、まずはテストだ。


 魔草を小さくちぎって、そこに溶かした膠を染みこませる。そして冷やして固める。


 うむ、いい感じだ。これを何度も繰り返して、徐々に厚みをつけてゆく。ちょっと粘り気のあるわりと丈夫な塊ができた。


 指でふにふにしてみると、弾力ある手応えが返ってくる。元の世界にあったゴムの感触に近い感じだ。違うのは、その上にすこし粘り気があることだろう。


 うん、俺のイメージにぴったりのものができた。


 それではこれを使って俺のコマの加工の開始だ。俺の考えた通りの機能を発揮してくれれば良いのだが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る