幕間・奇夢
オーランドはガラスに突っ込んでいく。ぶつかってしまう、と思った瞬間、ガラスは左右に分かれ、その中間にできた空間をオーランドは通り過ぎた。カーラが言っていた自動ドアだ。オーランドは直感した。
自動ドアの中も、人々でごった返していた。ゼントラムの
『――ターミナル変更のお知らせです。ジェネラル・エドワード・ローレンス・ローガン国際空港行きのアメリカンエアライン41便は、3番ターミナルではなく1番ターミナルから出発いたします。ご利用のお客様は――』
オーランドは弾かれたように立ち上がり、もと来た方向に向かって走り出した――暗転。
オーランドは狭い椅子に座っている。左側から
不思議な場所だ、とオーランドは思った。白い砂浜を巨大な馬車で進んでいるのかもしれない、と彼は見当をつけた。ポーン、と耳慣れない音がした。
『本日は、アメリカンエアライン41便をご利用いただき、誠にありがとうございます。間もなく、当機の左前方に、――大陸が見えてきました。窓から遠いお客様は、機内ビデオサービスの機外カメラのチャンネルをお選びいただければ、――大陸をご覧になることが出来ます。いましばらくの空の旅を、お楽しみください』
妙にくぐもった男の声だった。オーランドは目の前にある黒い板をつつき、絵を表示させた。数回つついた後に、青い画面が表示された。青と言っても一色ではなく、上は先ほど見たようなスカイブルーで、下は
ズーデンの海岸線によく似ている、とオーランドは思った。その瞬間、自分は空の上からどこかの海岸線を見下ろしていることに気が付き、オーランドは恐怖した。 あのスカイブルーはそのまま空の色で、濃紺は海だ。緑がかっている部分は、きっと陸なのだろう。なら、自分がいるのは空の上だ。人間がどうやって空を飛べるというのか? パニックになりかけたオーランドの耳に、奇妙な音が聞こえてきた。音? いや、一定の旋律がある。これは歌だ。力強いメロディーによって、彼は現実へ引き戻された。
『саребаминатоноказуоокаредо ♪
коноёкохаманимасаруарамея ♪
мукашиомоеба томаянокемури ♪
чирарихораритотатеришитокоро ♪』
「おはよう」
『あっごめん、起こしちゃったわね』
カーラの声で、自分が現実に居る事の確認が取れた。
「さっきのあれは、お前が歌っていたのか?」
『あれ? ああ、ヨコハマシカのこと? そうよ』
「いい歌だ。聞かせてくれ」
『わかったわ』
カーラは澄んだ声で歌い始めた。
imahamomofunemomochifune
tomarutokorozomiyoya
hatenakusakaeteyukurammiyowo
kazarutakaramoirikuruminato
奇妙な音の連なりからできた、力強い歌だった。オーランドには今日初めて聞いたはずの歌なのに、どこか聞き覚えがあるように感じられた。そして何より――カーラの歌声は、今まで聞いたどんな歌声よりも、美しかった。
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