次期領主の章
テンペスト
裏切られた。オーランドは反射的にそう思った。俺はカーラの事をずっと信じていたのに、カーラは初めから俺の夢を
オーランドは力任せに白い
勢いを殺さず、オーランドは白い
『やめて! お願い捨てないで、私、私に触れてる人通さないと何も見えないし何も聞こえないの、一人は嫌!!』
指先からカーラの悲鳴が聞こえた。オーランドは動きを止めた。この白い
オーランドは舌打ちした。彼は白い
オーランドの心情を天が写し取ったかのごとく、白い
「今は麦の刈り入れが終わった頃だから、作物への影響は少ないはずだ。しかし、屋根を飛ばされるなどの被害は出るだろう。農村への支援が必要だな」
「次期領主様、顔色が悪うございます。天気のせいで体調を害しておられれるのではないでしょうか。何か薬湯などをお持ちしましょうか?」
デリックが心配そうに言う。オーランドの両目の下には、すっかりクマができていた。嵐の間、ずっと性的虐待を受ける悪夢にうなされて、途切れ途切れにしか眠れなかったとはとてもではないが言えない。オーランドは作り笑いをした。
「なんともない」
二人がオーランドの執務室で地図を広げ、被害の報告がある場所に印をつけていると、ドアが勢いよく開けられた。顏を上げると、焦った様子のニールがいた。
「ノックもせずにどうした?」
「アセルの漁村より
「俺の部屋に通せ!」
「嵐明けのノーザン沿岸に、異常な人間が流れ着きました!」
「異常な人間? 病でも持っていたのか?」
オーランドの疑問に、使者は口ごもった。首をかしげながら、慎重に言葉を選んで話し始めた。
「病、かもしれません。信じられないくらい肌の色が黒くて、目もやけに細くて長くて、髪も黒く、炎であぶられたかのように縮れています。男、のはずです」
「人間がそんな姿をしてるはずがない……悪魔……じゃないのかな?」
呆然とニールが呟く。黒人だ。オーランドは気づいた。カーラから聞いた知識だ。裏切者だったが、役には立っていたな、とオーランドは感じた。
「他に気になった点は?」
「頭も、おかしいのかもしれません。沿岸の村人に介抱されたときに、『外国から来ました。取引をしたくて来ました。この辺のえらい人と会わせてください』と言っておりました」
外国から来たのが本当なら、この国にとって非常に重要な人物ではないか。会わねば。オーランドは質問を重ねる。
「そいつは、名乗ったのか?」
「はい。ハジメ・フォーサイス、と名乗っていました」
「フォーサイス、か。会ってみたいな。デリック、馬の用意を」
「承知しました」
デリックと使者が出ていった後、オーランドも立ち上がって二人を追おうとした。椅子を机にしまったとき、オーランドは考え直した。カーラから黒人について聞いていたから、彼が外国から来た人間だということは分かった。彼はノーデンの言葉も喋れるらしい。しかし、彼はいったいどんな人間なのか? 貴族なのか、農民なのか、はたまた王族なのか。それを判断するためには、カーラの知識が必要不可欠だ。カーラを連れて行かないといけない。しかし、自分の秘密を知っている者を肌に触れさせるなど、オーランドは耐えられなかった。
散々悩んで、彼は中間の判断を下した。引き出しのカギを開け、ニールに白い
「俺の薬入れを持ってろ、ただし決して中身は触るな」
「承知しました」
何はともあれ、フォーサイスとかいう男に会わないと何も始まらない。オーランドはニールとデリックを伴い、彼が
オーランドたちがフォーサイスが見つかった漁村についたとき、村の内部は異様な雰囲気だった。村の中心にある教会の前に、大勢の老若男女が集い、ぼそぼそと何か話し合っていた。オーランドは馬から降り、近くにいた男に話しかけた。
「この村に外国から来た男が来たと早馬から知らせがあった。今、彼はどこにいる?」
「次期領主様……実は、ここにはおりません。連れ去られてしまいまして――」
「何があった?!」
男は下を向き、こぶしを握りしめた。
「ゴドフリー・パーソン率いる
「――手遅れだったか」
オーランドは
――勝手に、音が鳴る箱が流れ着いたんです。
罪もない善良な民が、善意で人間を助けたがゆえに地獄のような苦しみの中で死ぬ。そんなことは間違っているとオーランドは思う。
「デリック、村人を奪還するぞ。人を助けて罰せられるなど、間違っている」
案の定、デリックは仰天した様子で反対した。
「しかし、それは明確に教会に逆らうことでございます!
「ああ。表立って配下を集められないな」
「オーランド様!」
オーランドはデリックに背を向け、群衆に向かって宣言した。
「全ては俺が責任を持つ。家族を無事に連れ戻したいものは協力してくれ! 教会に逆らうことを恐れるな! そのように考えたのは、家族を取り返すよう、そのように神が俺たちを作ったのだ!」
「次期領主様、女性がお嫌いなのは重々承知ですが……嫁と娘でも助けてくれますか?」
おずおずと声が上がる。オーランドは大きく頷いた。
「領民の命の瀬戸際だ! 女も男も関係ない! 取り戻してやる」
ハーヴィーの
「ただ……連れて帰るのはお前たちがやれ」
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