第54話 マリーゴールド
屋敷に着くと、私はまず、全身に浴びた血をシャワーで洗い流した。この世界にもシャワーやお風呂はある。お風呂に至っては、誰が用意しているのか、花弁が散らされている。暖かい湯船につかると、血の匂いを忘れようとするかのように、花の香りを嗅いだ。華やかな香りの、マリーゴールド。花はセシルが選んだらしい。アランがお風呂に入る前に、忌々し気に教えてくれた。
(マリーゴールドの花言葉は、嫉妬、変わらぬ愛情……)
浮かんだ記憶に、まさか、と蓋をした。この世界に花言葉という概念すらあるのかわからない。元居た世界に干渉するのは難しかったと言っていたし、そこまで調べることは、きっと難しいだろう。
花言葉を教えてくれたのは、前の彼氏だったような気がする。この世界には関係のないことだが、花が好きで、よく育てていた。
「よく言うわ。変わらぬ愛情だなんて」
元の世界の彼は、変わってしまったというのに。苦笑しながら、もう私には関係のないことだと考えを打ち消した。かぐわしいマリーゴールドの香りが、全てを埋め尽くしていく。
失った命、殺めた命、無数に転がる死体。あの人たちは、なんだったんだろう。アランが、セシルに調べさせると言っていた。ついつい忘れがちだが、そういうえば彼は情報屋だった。
手に入れられないと言っていた情報は、手に入ったのだろうか。どたばたしていたし、セシルも私につきっきりだったので、少し不安だ。調べる時間はあったのだろうか。もしなかったとしたら、申し訳ないことをしてしまったと、そう思う。
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