第14話 木漏れ日
目が覚めると、アランの姿がベッドの脇にあった。
物騒にもククリナイフを傍らにおいて、私のベッドに腰かけている。
しばらく起きたことには気づかず、窓の外、どこか遠くを見つめていた。
その表情があまりに大人びていて、私はなぜかぞっとする。何を考えているのだろう。この世界は、腹の内が分からない人間が多い。アランも、少年の姿をしてはいるものの、その一人だった。
「おはよう、おねーちゃん」
ふ、と、視線が合う。こちらから声をかけようと思っていたのに、アランの方からかけさせてしまった。
気を遣わせただろうか。そんな事を思いながら、私は身体を起こした。
「おはよう、アラン。……早いのね」
「護衛役が主人より寝てちゃまずいでしょ? ……それに昨日はあいつが来てたみたいだし、おねーちゃんが僕より起きるのが遅いのも仕方ないよ」
「あいつって……み、見てたの?」
「護衛役、だからね」
アランが人差し指を立て、唇に寄せる。綺麗な指先なのに、その指先は人を殺めることに長けてしまっている。その事実が何故だか悲しくて、私は眉を寄せた。
「いいのよ、無理しなくても。狙われることなんてそうそうないんだから」
「毒盛られたばかりでしょ。次も行動を起こされたら、僕、死んじゃうよ」
「行動って……誰に?」
「わかってるくせに。お姫様が死んだんだ、お姉ちゃんも同じ選択をしないとは限らないじゃない」
アランが私に手を伸ばしてくる。綺麗な白い指先が頬を撫でる。くすぐったくて、思わず身じろぎした。
先代の、というべきか。本物の、というべきか。ロベリタは自ら死を望み、自分の人生を別世界の私へと明け渡した。それは情報屋と呼ばれるセシルという魔法使いが加担してのことで、彼を拾ったのはロベリタ本人だという。私が今いる武具の国の隣の国、魔法の国のスラムで拾われたということだったが、詳細は分からないままだった。
「私は……しないわ。そんなこと」
多分、の二文字が現時点ではつくだろうけれど。何故ロベリタが死を選んだのかすら定かでないのだ。絶対にしないだなんて無責任なことは言えない。そればかりは、ここで暮らして、身体に残る記憶を探っていくしかない。
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