第34話よーいアクション!

やばいやばいやばい!


いくら目をキョロキョロさせて周囲を見渡しても、味方になってくれそうな奴はいないし現れそうにもないし、かといって客間は破壊され瓦礫が山積みで使えそうな物は見当たらない。


両頬を掴まれそのまま持ち上げられ、足がつかない状態だが、幸いにも両手両足はフリーだ。


ハッ!


思いついたぞ!


朝食べたトマトスープがあったな!


と、ある秘策を思いついた。


名づけて、


『随意的食物逆流毒死法(仮)』


おぉ! 漢字並ぶと、ちょっとカッコいい感じがするぞ!


漢字だけにいい感じ。


なんつって。


こんな状況下でもこれだけふざける余裕があるのだから、まだ大丈夫だな。


凄いな私。


楽観的な自分の思考に感心すら覚えるよ。


話、それてきた。


で、なんだっけ?


あ、そうそう。


『随意的食物逆流毒死法(仮)』だったな。


意味:随意的に、つまり意識して食物(トマトスープ)を逆流させ、それを口から垂れ流すことでまるで毒物で血を流し、毒死したかのように見せる方法のことだ。




では早速、推測してみるとしよう。


よーいアクション!






私は、逆流させたトマトスープを口の中に溜め、一気にそれを吐き出す。


それは、魔王の顔面にかかってしまった。



アッ、やべっ!



やばいのは魔王の顔面にかかってしまったことではない。


魔王の顔面にかかった、それがやばいのだ。


トマトスープ以外のブツがある。


言葉で言い表せば生々しいので、あえてぼかして言うが、モザイクレベルの黄色いブツだ。


見れば皆、口に出さずともそれが何かわかるだろう。


モザイクレベルの悪臭を放つブツ。


モザイクにまみれた魔王の顔面から怪しく光る二つの目。



オワタ。



私は、目を閉じ殺される瞬間を待ったのだった。




カァーーーット!




ちょっと………駄目じゃん。


楽観的な私の割には、ネガティブなイメージだな。


いや、現実的と言うべきか?


まぁ、普通に考えてトマトスープだけを抽出できるわけねーよな。


それに、それ以前の問題で食物を逆流させる方法なんて知らねーし。


………他の方法を考えるとしよう。






うーーーーむ………ハッ!







ククククク………フハハハハハハハハ!


いい事を思いついたぞ!


名づけて、


『お色気作戦! 魔王は私にメロンメロンだぞ!』


と脳内で作られたもう一人の私というキャラクターが両手で銃を形作ってウインクしながらバキューンと撃つ。




よし、テイク2いくぞ!


よーい、アクション!





私は拘束されていない手でパジャマを脱いだ。


パジャマの下のキャミソールから覗き見える豊満な巨乳………


そこで一度、思考を止めて視線を下にやる。


巨乳………は、ないな。


発達途上の身体な上に貧乳ときた。


貧相な胸に魔王が興味をしめすとは思えんしな………。


さらに悲しい現実を改めて突きつけられてしまった。


考えないようにしてたのに………。


果たして、このAカップちゃんに未来はあるのだろうか?


私は遠い目をして青い空を見た。


Aカップちゃん、頑張って成長して、せめてBカップちゃんに進化しておくれ。


おっと、胸の小ささを悲しんでる場合ではなかった!




いや、しかし………




魔王が大きいのを好むとは限らないよな?


ロリ路線の可能性も……?


チラリと魔王に目をやれば、


「おい、人の子よ。今、失礼なことを考えてなかったか?」


ば、バレた!


いい笑顔を維持しながら、ギリギリと両頬に食い込むくらいに力が入る。


ふおぉおおぉぉぉぉおおぉ!


絶対、跡が残るわぁ。


ロリ路線と決めつけて大変申し訳ございやせんしたーーー!


声は出せないので、目で訴えかければ、少し魔王の手が緩んだ。


ふぅ~あぶないあぶない。


危うく顔面の骨、やっちまうとこだったぜ。



もうこうなったらヤケだ!


出せるだけ出してみるとしよう。





よし、テイク3いくぞ!


よーい、アクション!





私は頰に伸ばされた手を両手で掴むと、両足を後ろへ大きく蹴り上げ身体を反らし、勢いよく両足を空へ向かって振り上げる。


そして、魔王の腕を押し下げるように両手に力を込めると、身体を持ち上げ高跳びのように魔王の腕のすぐ上を両足が通過するのを確認し、一気に両足を振り下ろす。


「フッ!」


私の頰に伸ばされた腕にさらに負荷が、かかった。


「クッ……!」


私がこんな行動をとると予測していなかったのか目を見開き、次に腕に与えられた痛みに顔を歪めた。


ようやく手が離れ、瞬時に大勢を立て直し間、髪を容れず拳を作り肘を曲げ、真下から顎に向かってアッパーカットを食らわせる。


「グフッ!」


顎を殴られれば、自然と視線が上を向く。


その隙を狙って破壊され外に繋がったところから脱出しようとドアとは反対方向に向かって走った。


そこに立ちはだかったのは


「ガルシア!てめぇ……」


弁明はしてくれなかったくせに魔王の部下としての仕事はやるんだな。


「………お嬢様、ご覚悟を」


声のした後ろへ顔を向ければ、


「リーナ………」


や、やべぇ。


逃げ場ねぇじゃん。



カァーーーット!




はい、アウトぉーーーーー!


そもそも、この城においてもらえているのは、この城の奴が私に優しく接してくれるのは、私が魔核も魔力もない『無力』な人間だからだ。


つまり、今の私の最強の武器は無力であることだ。


無力だから安全だ。


無力だから安心だ。


無力だから敵ではない。


そう認識されているからこそ、私は今も生きている。


だが、無力という名の武器は諸刃の剣だ。


無力と認識されれば、襲ってくる輩もいることだろうよ。


もしそういう輩ばかりがいたのだとしたら、無力であることを認識させる必要がない。


だから、元いた世界の戦闘経験を生かし、危機回避または始末しただろう。


だが、幸いにもこの城にはむやみに襲いかかってくるような輩はいない。


だから、無力であることを認識させ続けなければならない。


それが、この世界で生き抜くための手段の一つなのだから。


それに、流石に魔王相手はちょっと………な?




ということで、これも没だな。




こうなったら、最終兵器を使うべきか。


………11歳にもなって、こんな手を使いたくはないが、仕方があるまい。



今こそ、アレを発動するとき。



かくなる上は、




『嘘泣き(仮)』




フハハハハハハハハ!


皆の衆、うろたえるがいい!



そして、私は『嘘泣き(仮)』を発動したのだった。


だが、この発動は少々時間がかかってしまうのが欠点だ。





だって、女優じゃないもの。



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