第3話や、やめてくれ!
「ご苦労、下ろせ」
青年がそう言い放つと、ドラゴンは私をゆっくりと下ろしてくれた。
「貴様、どうやって余の大陸に入ったのだ?」
ぎろりと赤い瞳がこちらを見つめてくる。
ドラゴン、城、変わった瞳の青年、これはアレではないか?
ファンタジー世界定番の“魔王”ではないか?
ということは、アレ?
やばくない?
勇者が徐々に強くなる過程は?
パーティーは?
‥‥‥異世界転移でドラゴンに捕まって、いきなり魔王ってありえないだろマジで。
グゴゴォォォーーー
あっ。
空気の読めない私のおなかの音は盛大に城に響き渡った。
「陛下―――――――!」
と大勢の足音とともに中に入ってきたのは、骸骨、狼、耳の尖った奴などさまざまな種族だった。
「ご無事ですか!?」
「余は無事だ。さがれ」
「しかし! 先ほどの大きな音は、ただ事ではございません!」
この城の兵士と思われるものたちは私を取り囲み、武器を向けてくる。
「なにもなかった、だから下がれ」
や、やめてくれ。
陛下────青年が私に一瞬、目を移した。
その目は、先ほど私をにらみつけていた時よりも優しくなっていた気がする。
「陛下! ですが」
グゴゴォォォーーー
やめてくれ。静まれ、私の腹!
「陛下、これは」
「あぁ」
「すみません。私のおなかの音です」
だからやめて。
みんな、そんな哀れむような目で見ないでくれ。
魔王? に出会ってはじめて出た言葉が、おなかが鳴ったことに対する謝罪だとは思わなかった。
みんなが哀れむほどの空腹音だったのだろうか。
あぁ、恥ずかしい。
いっそ殺して。
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